メディアグランプリ

置かれた場所で咲くよりも、咲ける場所に置く


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記事:山葵(ライティング・ライブ6月コース)
 
 
「逃げ出さずに頑張りなさい」
辛いときによく言われる言葉だ。
「置かれた場所で咲きなさい」
という有名な言葉もある。
 
けれど今ではこう思う。
「咲ける場所に置いたらいい」と。
 
 
私は幼いころから我慢強かった。
いじめられても、一人で耐えた。
どんなに辛くても学校には行ったし、習い事もさぼらなかった。
逃げなかった。
 
親に衣食住を与えてもらって、学校へ送り出してもらえて、習い事までさせてくれているのに、休みたいとは言えない。人に相談するという発想すらなかったのかもしれない。
 
正直、学校にも行きたくなかったし、習い事もやめてしまいたかったけれど、
自分の中にため込んで、留守番をしているときや学校から帰るときに一人で泣くことしかできなかった。
 
私は逃げ出さずに頑張った。
 
 
でも、このとき逃げ出していればよかったと、後悔している。
小学生時代のいじめの記憶は、心に根強く残ることになるから。
 
 
小学校5年生、6年生でのいじめをなんとかやり過ごして、
中学、高校ともに、意外にも楽しく学校生活を送ることができた。
友達もでき先輩や後輩との交流も増えて、充実した青春だった。
いじめのことなんて、思い出す暇もなかった。
学年が上がるたび、どんどん楽しくなっていったように思える。
もう、いじめられていた私とは違う。生まれ変わったと信じていた。
 
 
しかし、高校卒業間近の9月、私は突然、人と話すことができなくなった。
あとで知ったことだけれど、双極性障害になっていたらしい。
 
 
ある日、いつものようにクラスみんなでお昼ご飯を食べているとき、
話の流れでいじめの話題になり、一人のクラスメイトが、
小学生のとき気が荒くて、いじめをしていたことがあると告白した。
 
そしたら別の誰かが、
「まあ、その人もいじめられたのが小学生でよかったよね! 高校とかだと大人になってもしっかり覚えてそうだからさ!」
と笑い飛ばした。
 
 
私はその日から人前で声を発することがほとんどできなくなってしまった。
 
誰もがいじめの加害者になる可能性があるとは分かっているし、彼女も反省している。
早いうちでよかったとフォローする友達の優しさも、よく分かっている。
でも急に、いじめられていた過去を、はっきりと思い出してしまった。
 
「小学生でよかったよね」
 
どうしても、この言葉が頭の中いっぱいに広がって、誰ともうまく話せない。
 
「いつだろうと、いじめられた記憶は消せない」私は悟った。
生まれ変わってなどいなかった。
私はまだ、いじめに縛られていたんだ。
「小学生でよかった」という言葉に喉を塞がれているようだった。
それでも、学校を休むことはなく最後まで通った。また逃げられなかった。
 
 
結局私は卒業まで、ほとんど人と会話をすることがなかった。
 
大学に進学して少し良くなったけれど、いじめの記憶をたびたびフラッシュバックさせた。
それでも学校から逃げずに身を置き続けた。
しかし次第に学校に行けなくなり、起き上がることもままならなくなった。
 
21歳の9月、私は精神科に入院した。
いじめが起こってから10年、人と話せなくなってちょうど3年。
逃げ出さなかった結果がこれだった。
小学生時代のいじめを相談することなくそのままにしてしまったツケが、
ついに回ってきたのだ。
悔しかった。私は学校という場所で咲くことができなかった。
 
初めて、逃げ出した。
 
 
 
学校を離れ病院に隔離されると、環境が全て変わった。
 
院内にはいじめなんて存在しなかった。
自分の過去やこれからのことをゆっくり考えられたのは、生まれて初めてだ。
いじめのことも、ある程度整理がついた。
 
その後順調に回復し、2か月ほどで退院した。
せっかく親に与えてもらった環境だけど、学校には戻らなかった。
 
学校に行かない代わりに私は美術館に行ったり、写真を撮ったり、以前少し経験していたモデルの仕事をしたり、描いた絵を売ったりと、今までとは全く違う環境に身を置いてみた。
周りのみんなと違うけれど、生きていくことが素直に楽しい。
何にも縛られなくなった。
 
 
 
学校という、置かれていた場所から逃げ出して別の環境に飛び込んでみると、途端に楽になれた。
楽だけど、ずるをしているわけでも、何かをさぼっているわけでもない。
私が生きるには、こういう環境が合っていたのだ。
 
 
決められたことや今いる環境から逃げることは、やってはいけないことだと、
ずっと勘違いしていた。
 
もちろん、最後までやり通すことも立派だと思う。
しかし最後まで同じ場所で頑張るというのはさほど重要ではないのだと、私は気が付いた。
 
 
今、大学で同学年だった友人たちは私よりも早く就職し、結婚をしている人もいる。
一方私は、退院後しばらくして大学を辞めたあと、モデルやアルバイトをして過ごし、
現在は書店の社員になっている。
 
置かれた場所で咲かなかった私も、別の場所で咲くことができているのだ。
 
ミスばかりで先輩方にフォローしてもらうことが多いけれど、私はなんだかんだ、この場所に身を置いてよかったと思う。
何より、人に恵まれている。毎日が楽しい。
綺麗に、大きく咲いていると、自信を持って言える。
 
 
 
今いる場所に何かこだわりがあるのならば、その場所を大切にしたらいい。
でも、生き生きと咲ける場所は他にもあるかもしれない。
同じ場所に居続ける必要は、実はない。
 
置かれた場所で咲くことよりも
咲ける場所に置く方が、案外大きな花になれるのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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