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自己採点が事故採点と化し悟った目的

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記事:村人F (ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
試験の後は、自己採点。
この流れが私の身体に刻み込まれていた。
大学入試の影響である。
 
先生から口酸っぱく言われていたのだ。
自分の解答を問題用紙にメモしなさいと。
そして試験が終わった後、答え合わせしなさいと。
 
だから卒業してからも、教えを律儀に守っていた。
 
しかし『情報セキュリティスペシャリスト試験』という資格試験を受けた時、悲劇が起こった。
 
本資格は、IT業界内でもトップクラスの難関である。
午前中はマニアックな選択式問題がたくさん出される。
そして疲れた午後に、ものすごく長い文章を読まされる記述問題を4時間みっちりやる構成だ。
合格率は上級者のみが受講するにもかかわらず10%台である。
 
当時、大学院生だった私は果敢にもこの資格にチャレンジしていた。
 
午後問題の感触は、結構よかった。
問題文も例年に比べたら人間の読める文章であったし、答えも上手く書けたと思う。
だから心地よい充実感があった。
 
その中で午前問題の自己採点を始めた。
しかし、足りない。
何回も確認した。
だが合格点まで、どう計算しても1点足りない。
試験は午前と午後、両方クリアしなければダメだ。
つまり、この時点で必死こいて解いた午後の苦労は水の泡になったのだ。
 
ショックだった。
正直受かったと思っていたから。
その夜のご飯は三倍マシでまずかった。
 
同時に、悟ってしまった。
「自己採点、どう考えても事故採点にしかならん」と。
 
なぜか。
目的がない状態でやっていたからである。
 
考えてみれば大学入試で行う自己採点には、しなければならない理由があった。
これは通常の場合、1月に行われる大学入学共通テストおよび、2月に行われる大学ごとの個別試験の総合点で合否が決まる。
そのため共通入試テストでの点数を踏まえて受験する大学を選ぶのがセオリーとなる。
しかし、それがわかるのは4月以降だ。
つまり選ぶ段階では不明なのである。
そうなると点数を知らないために、受かる可能性がない選択をする事故が発生する場合があった。
だからこそ先生は口を酸っぱくして自己採点をするように言ったのである。
 
では資格試験ではどうか。
考えてみれば、目的もメリットもなく惰性でやっていた。
いや、むしろ私の性格的には逆効果にしかならなかった。
 
とにかく結果が確定してしまうのが嫌なのだ。
何も知らなければ合格発表の日まで、ワクワクした感じでいられただろう。
もちろん不合格だった時のショックはあるが、少なくとも試験当日の疲れ切った段階では満足感をキープできたはずだ。
それが、自己採点をしてしまったために「事故採点じゃ!」と泣くハメになった。
こうなるくらいならやらない方がマシだ。
 
もちろん受かっていれば安心しただろう。
しかし、そんなもんは落ちた時に食らうダメージに比べたら米粒程度だ。
つまり、デメリットのほうが遥かに多いのである。
 
そう気付いてから私は、いかなる資格試験でも受験後は問題用紙をゴミ箱にブチ込むようになっていた。
どうせ復習する気もないのだ。
ならば合格発表までのワクワクの持続、なにより捨てることで得られる背徳感にゾクゾクした方がいい。
これが事故採点で私が学んだ教訓だった。
 
考えてみれば自己採点のような学校で習ったルールには、目的がわからぬまま従っていた点も多かった。
髪型や服装についての校則。
そして授業で聴いた内容。
正直、全て疑うことなく学生生活を過ごしてしまったように思う。
 
しかし、これら全てにはやるべき理由があった。
学校の風紀を守る。
よりよい大学へ進学する。
これらの守る価値があるからこそルール化したのである。
 
逆に言うと、卒業した今も同じように続けると事故になるケースもあるわけだ。
全く意味がなくなるからである。
髪へのワックス禁止というルールを守り続けた社会人は、カッコ悪いと美容師から怒られるだろう。
 
勉強だって同じだ。
試験のために学ぶイメージを持ち続けた場合、大人になった瞬間やらなくなってしまう。
本来はテストがないおかげで好きなことだけ学べる最高の娯楽になるというのに。
これ以上の不幸はないだろう。
だからこそ目的を、状況に応じて考えることが重要なのである。
 
今年、10年ぶりに『情報セキュリティスペシャリスト試験』試験にリベンジすることになった。
もっとも久しぶりすぎて、名前が『情報処理安全確保支援士』というますます難しそうな感じに変わっていたが。
きっと試験後、私は自己採点することなく問題用紙を捨てるだろう。
これまでの日々をねぎらうかのように盛大な形で。
そのためには全力で勉強するのみだ。
 
事故採点をやめて得られたワクワク感を合格発表日に喜びに変えられるよう、難関資格に立ち向かっていこう。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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