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どんな自分も受け入れることで人生は好転する


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松本萌(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
いつもの1.5倍くらいの速さで心臓が脈を打っている。
ドクンドクンと鼓動を感じる。
今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
だがそうもいかずひたすら「静まれ、静まれ」と自分に言い聞かす。
 
こういう経験は誰しもしたことがあるだろう。
就職活動の面接会場で順番待ちをしているとき、受験のテスト開始数秒前、部活の試合直前、ピアノの発表会で演奏の順番を舞台袖で待っているとき。
人生に大きく影響を与える場面や今までの成果を発揮するとき、自然と心臓が速く脈を打ち、呼吸が浅くなり、緊張状態におちいる。
 
私も今まで受験や就職活動を経験し、高校の部活では選手として大会に参加し、小学生の時はピアノ教室に通っていて発表会に参加したことがあるので、緊張状態を何度も経験している。
 
ただ年齢を重ねるごとに緊張しなくなった。
それだけ人生経験を積んだと言うこともできるが、若い頃に比べ緊張状態におちいる機会が少なくなったとも言える。
 
そんな私もここ数年、年に二、三回心臓バクバク状態になるときがある。
弓道の段級審査に挑むときだ。
 
私は高校生のときに弓道を始めた。
中学時代は美術部という名ばかりの部活に所属しており、ほぼ帰宅部だった。高校受験をするにあたり高校生活を楽しみたい、青春を謳歌したいと思い、高校では部活を頑張ることを決めた。
中学生の私は「部活で青春するなら運動部でしょ」と考えたのだが、そこで行きづまった。私は瞬発力0の運動オンチだった。
運動神経が問われない運動部は何かを必死に考えていたとき、憧れの先輩が弓道をしているという設定の少女漫画に出会い「弓道に瞬発力は必要なさそうだ。高校では弓道をしよう」と決めた。無事弓道部のある高校に受かり入部した。
 
毎日弓道の稽古に明け暮れ、高校の思い出と言えば部活と受験勉強くらいだ。
 
ひたすら稽古をしていたにもかかわらず、引退する時期が近づいてきた三年生の四月、全く当たらなくなってしまった。
最後の試合のことは今でも鮮明に覚えている。どんな試合の時にも感じていたドキドキ感がなく、的がとても遠くに感じた。「これが自分にとって高校生活最後の試合なんだぞ。これでいいのか」と言い聞かせても全く集中することができなかった。悔しくてなさけなくて号泣した。
 
大学では弓道をしなかった。高校時代にひたすら稽古をしたという満足感と最後の試合での不甲斐ない思い出がない交ぜになり、弓道から離れたいと思った。
 
大学を卒業し社会人になったある日、社内誌で会社に弓道部があることを知った。「弓道をやりたい」という思いが自然と湧き上がってくるのを感じ、入部した。今も週に一度稽古をしていて、通算二十年くらい弓道をやっている。
 
学生の弓道と大人の弓道では求められるものが違う。
学生の弓道は的中重視。どんなにきれいなフォームでも当たらなければ意味がない。
大人の弓道は品や型重視。どんなに当たってもフォームが崩れていると「品がない」と言われる。そして段級審査で高段を取得していることが評価の上で大きなウェートを占める。
 
段級審査は先生と呼ばれる高段者の審査員たちの採点で合否が決まる。
矢を二本持ち、道場への入場から退場までの一連の動作を審査員たちの前で行う。矢を二本射るのだが、四段以上の合格を目指すには二本とも当たらないと難しい。
 
審査を受けるときの極度の緊張状態が苦手な私は積極的に審査を受けてこなかった。しかし長年続けているのに段が低いのもどうかと思い、ここ数年積極的に受けるようにしている。
 
二段は一発合格、三段は二回目で合格。次は四段なのだが、なかなか受からない。常に心臓バクバク状態で舞い上がってしまい、思うような弓の引き方ができず当たらない。
 
そして2023年8月20日、何度目かの四段審査の日を迎えた。
 
道場に入る前の控え室で審査員が見えた。なんと審査員の中に厳しいことで有名な先生がいる。
心臓がバクバク言い始める。今回も私は受からないのではないか。
 
暗い気持ちになったとき、ふと三段に合格したときのことを思い出した。
審査開始前、厳しい先生が受験者に対し言った言葉だ。
「皆さん緊張していますか。もちろんしてるでしょうね。当然です。たった10分の間に二本矢を打つ、その中に今までの稽古の成果を出さなきゃいけないんですから。緊張するのが普通です。当たり前です。ぜひその緊張感を大切にしながら自分の弓道と向き合ってください」
 
その言葉を聞いたとき、ふと肩の力が抜けるのを感じた。そして二本当てることができ、合格した。
 
それまでの私は緊張する自分を否定していた。
バクバク言う心臓を元に戻そうと深呼吸して余計呼吸が速くなったり、なんで自分は大切な場面でこんなに緊張するんだとダメ出しをしていた。
先生の話を聞いて「緊張することは当然で普通なこと。私はいたって普通な状態なんだ。自分を受け入れて今できる私の弓道をしよう」と思うことでリラックスすることができた。
 
三段審査のときに思ったことをすっかり忘れていた。
 
さあ、自分の番だ。
いつも師匠に指導されることを思い出しながら道場に入場する。バクバク言う心臓の音を聞きながら一つずつの動作を丁寧に行う。矢を放つ前の全工程を気を抜かずに行う。弓の重力に耐えかねた右手が自然と弦から離れていくのを感じながら矢を放つ。
 
静まりかえった道場にパーンッと矢が的に当たる音が響いた。
 
ここで気を緩めてはいけない。
二本目も丁寧に準備を行い、矢を放つ。「当たるだろうか。当たってくれるだろうか」という邪心を捨て、長年稽古をする中で染みついた動作をただ行う。
 
的に吸い込まれるように二本目の矢も飛んでいき、快音が響いた。
翌日の結果発表の合格者名簿に私の名前が書かれていた。
 
日々色々な感情がうまれる。
ポジティブになることもあれば、緊張で畏縮してしまうこともある。ただどんな自分も自分であることに変わりはなく、自分を慈しみ受け入れることで人生は開けていく。生まれてから死ぬまで一緒にいる唯一の存在である自分を否定することなく、手を携えて進んでいくことで新しい扉が開く。
このことを私は弓道の審査で学んだ。
 
弓道を長年やっていると「集中力すごいんじゃない」と聞かれる。自分では分からず師匠に聞いてみたところ「確かに弓道で集中力を養うことはできるよ。でも君レベルじゃまだまだだよ」と言われた。これからも精進あるのみだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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