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断酒会出禁事件


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:庄司華(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
突然、仲の良い友人から「今夜ZOOM飲みしよ」と誘われた。
 
私は「酒だ!」とだけ返すと、
・酒(ビール1本とワイン1本)
・焼き鳥
・チーズ盛り合わせ
を用意した。
 
時間になり、まずはビールだろうと、カメラに映る位置で黒ラベルのロング缶を掲げる。
「いや、開始0秒は気が早いって!(笑)」そんなツッコミ待ちの出オチ感溢れる行為だ。自覚はある。が、つまりはそのくらいに浮かれていたのだ。
だって「ZOOM飲み」である。トイレはいつでも空室。泥酔タクシー帰宅民になることも、どこかで財布を落とす心配もない。
 
ミーティングIDを入力。
パスワードを入力。
入室したのと同時に「コンピューターでオーディオに参加」と「カメラオン」を爆速で実現。
 
満面の笑みでこう言った。
「カンパ〜〜〜、あ、すみません間違えました」
 
こんなにも心臓がキュッとなったのは、初めてタワテラに乗った時以来だ。
 
目の前のPC画面には、等分されたスペースに綺麗に収まった、人、人、人の顔。しかも、全員知らない人の顔。スーツ姿の人もいたせいで、うっかり関係ない会社のZOOMミーティングに参加してしまったのかと思った。
 
ブラウス姿の綺麗な女性が一言。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
 
え、な、何??
私のさっきの奇行は一旦黙認してくれるの??
だとしても今このよく分からない場で名乗るの嫌すぎじゃね??
 
ZOOM画面上部のミーティング名を確認する。
『断酒会 第一回』
 
断酒会???
 
動揺する私に苛立つ素振りも見せず、女性が繰り返した。
「今入られた“酔いどれフライデイNIGHT”様、お名前よろしいでしょうか」
 
ちょっと待ってくれ。この名前は違うんだ。
はるか昔のZOOM飲みでふざけてて……。
 
「すみません、庄司です。あの、参加する会議を間違えました、すみません」
「庄司様、お名前ありますが……庄司華様でお間違いないですよね?」
「エッ、お、お間違いはないんですけど、すみません、あの……これは……??」
「それでは全員揃いましたので会を進めさせていただきます」
 
待ってくれって!!
本当は叫びたかった。が、女性の語気が若干強まったのと、参加者が鬱陶しそうな顔をするのを見て、大人しくマイクをミュートした。
 
女性は続ける。
「自主参加された方も周囲の方から推薦されて参加された方も本日はありがとうございます。皆さん緊張していらっしゃいますか?」
 
もう緊張なんてもんじゃない。
恐怖の域だ。
急いでLINEを開くと、友人に電話をかけた。つながらない。
焦りで気が狂いそうになりながら文字を打ち込む。
 
私『断酒会ってなに⁉︎』
 
予想外にすぐ既読がつく。
いや、電話出ろや●すぞ。
 
友『これを機にお酒やめなよ』
 
お酒を、やめろ、だってえ!?
なら飲み会の名目で呼び出すなよ。
普通に人生1番くらいの恥をかいたんですけど??
 
私『そういうことじゃない。断酒会ってなに? 勝手に申し込んだの? そんなに私が酒飲むの嫌だった?』
 
名誉のために記載すると、私は「庄司って酒飲んでも何も変わらんね〜」と言われるタイプであり、確かに帰り道一人になった瞬間に緊張の糸が切れて路上で寝たことはあるけれど、居酒屋のトイレを汚物で汚したことも、泥酔し誰かに絡んだこともない。
つまり、やたら酒を飲む無害な女なのだ。
 
友『いやごめん、単純に面白いかと思って申し込んだ』
 
お〜〜〜〜〜〜い!!
やっていいことと悪いことがあるぞ!
せめて、友人を紹介したいからとか、あなたにぴったりな男性がいるからとか、そういう「外向けの私」を準備できる誘い方をしろよ!
ZOOM飲みはだめだろ! “飲み”じゃねえか!
そんなもんふざけるに決まってんだろ〜〜〜〜〜〜い!!
 
「それではお一人ずつ、断酒会に参加しようと思ったきっかけや、今の気持ちなど、自由にお話いただけますか?」
 
友との大喧嘩開幕寸前だった私だが、女性の声で我に返った。
そうだ。今私は断酒会に参加しているんだった。
きっかけも気持ちも、クソみたいな話しかできそうにない。発言の順はどう決まるのだろう。誰かが話した内容をいい感じにパクリ捏造したいし、願わくば時間切れで発言なしを狙いたい。
 
頼む、挙手制であってくれ。当てるな。当てるな。
 
「では……庄司さんいかがですか?」
 
今日はなんて日だ!!
ちゃんと笑顔を取り繕った自分を褒めてやりたい。
マイクをオンにする。
 
「はじめまして。友人が勝手に申し込んだので状況が良く分かっていないのですが、3度の飯と同じくらいお酒が大好きです、庄司です」
 
なぜそんな狂った自己紹介をしたのか。誰かタイムマシンを開発してあの時の私を救ってやってほしい。
 
「ご友人からの提案で断酒を決意されたのですね。ありがとうございます」
 
いや、違くない? 曲解すごくない??
「意義あり」と言いたかったが、すぐに次の人が指名され話し始めたので、もう一度マイクをミュートする。無念……(?)
 
思えば、この時しれっと会議退出ボタンを押せば良かったのだと思う。
思考力が0になっていた私は、友に文句を連ねたメッセージを送る気も起きず、ただ皆の話を聞く道を選んだ。
 
お酒を飲んで気が大きくなり、妻を殴ってしまった。
会社に酒を飲みながら仕事をしているのがバレた。
医者に「このまま飲み続けたら死ぬ」と言われた。
断酒をしなければ、娘ともう2度と会えなくなるかもしれない。
 
そんな、重い話が連なる。
なんだか私の心もどんよりと重くなる。
気を紛らわそうと周囲を見渡すと、冷め切った焼き鳥、乾いたチーズの盛り合わせ、そして、ビールが目に飛び込んできた。
 
私(あ〜〜ビール飲も)
 
本当に、本当に、至極当然のように、私はロング缶を手に取った。
そして飲んだ。涙に声を震わしながら話す男性の声に耳を傾けながら。
 
「庄司さん!?」
 
女性の金切り声が響く。
びっくりしてビールを溢す私。目を見開く、先ほどまで喋っていた男性。
 
女「分かってますか!? 断酒会ですよ!?」
私「すみません、ほんと、無意識でした。間違えました」
 
タオルで机やら床やらを拭きながら謝罪する。
手が当たり、ワインが倒れそうになり、間一髪で掴む。
良かった〜割れなかった〜と、瓶を胸に抱く。
もちろんカメラに映る。
 
男「いや、ワインもあるんかい!」
 
ナイスツッコミ!
今日は奮発して1本5000円もする赤ワイン用意しちゃったよ☆
 
否、そんな場合ではないのだ。
もう一度謝罪する私。怒りをあらわにする女性。
 
「禁酒の意思はありますか……?」
 
大人になり、怒られる経験なんてほぼ0だったので、彼女の怒りのこもった声色はかなり恐ろしかった。
ゆっくり首を横に振る私。
 
「あ、ありません」
「ご退出ください。また、進行妨害になりますので、以降弊社開催イベントへの参加をいっさい禁止といたします」
「おっしゃる通りです(?)すみませんでした。失礼いたします」
 
本当に死ぬかと思ったし、多分死んだ方が良かった。
禁酒ガチ勢の皆さん、本当に大変失礼いたしました。
 
せめてもの救いは“オンライン”断酒会だったことだ。これが対面だったらどうなっていたことか。いや、対面なら酒を持っていないから、こんなに悲惨な事故は起きなかっただろうか。
 
友人に出禁になった旨を連絡すると「(笑)」とだけ返ってきた。なんだこいつ。マジで許さん。
仕返しとして、友人を騙し「オンライン合コン」にパジャマすっぴん姿で参加させた話は、いつかどこかでしたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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