メディアグランプリ

苦しい時の本頼み


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記事:ひーまま(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「雨ニモマケズ、風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲモチ
欲ハナク……」と続く宮沢賢治の有名な詩を小学校4年生の時に暗唱した。
 
「ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズサウイフモノニ
ワタシハナリタイ」この最後が私の心をめちゃくちゃ勇気づけた。
 
特に国語の宿題だったわけではない。その時10歳の私は本当に苦しかったのだと思う。私が7歳の時にホテルマンだった父が夜のお店を開店して、ほどなく母がママさんとしてお店に出勤するようになり、7歳の私は5歳の妹の世話をしながら夜のお留守番をしていた。
 
夜の長さが本当につらかった。母も父も帰ってくるのは夜中の3時。
妹はさみしくて泣くのだけれど、お姉ちゃんは泣けない。怖い人がもしもきたら、闘わなくては!といつも枕元にはすりこぎを置いていた。
 
開店したスタンドは今でいうバーになるのだと思う。バーテンさんとママさん。あと一人お手伝いの女性がいたりいなかったりの小さなお店。名前は「雲」
労働者の憩いの場を作るんだ。と掛け声も勇ましくオープンしたお店は結構はやっていたらしい。連日の賑わいに父も母も張り切っていた。
ベトナム戦争が始まって、岩国の空軍基地の将校さんがよく自宅まで遊びにきていた。あの頃の高揚感溢れる家の雰囲気を今も思い出す。
英語を初めて聞いて、挨拶を習ったりして、アメリカの人もおんなじ人間なんだ。と思ったくすぐったいような感覚は、自分が大人になったような気持だった。
 
夜の留守番は怖かったけれど、とにかく私は頑張っていたのだった。
 
はやっていたお店はバーテンさんが売り上げをくすねていたことから資金繰りが難しくなって、父がお金を借りたのが高利貸しで、連日取り立てが来るようになった。
 
玄関を守る係は私。
どんどんどん!!とガラスの引き戸の玄関が朝からたたかれる。
私は精一杯の大きな声で「おとうさんはいません!おかあさんもいません!帰ってください!!」と返答する。こわもてのおじさんは「わりゃ嘘つくんじゃないで!うそつきは泥棒の始まり言うじゃろうが!」とか「金を返さんかったら許さんぞ」とか暴言の数々を述べ立てて、最後「おじょうちゃん、かわいそうにのう。明日またくるけえの。親を出すんで」と言って帰っていく。
 
父と母はそんな疲れから喧嘩が絶えなくなっていった。
そんな毎日の中で出会った宮沢賢治の「雨ニモマケズ」だったのだ。
 
私にはデクノボーっていうのがどんなものなのかはわからなかったけれど、なんとなくそうなんだ! デクノボーって言われてもいいんだよ。と励まされているような気がして嬉しかった。翌日学校で先生がこの詩を暗唱してきた人。と問われた時、真っ先に手をあげた。
手を挙げるなんてめったにない私が手を挙げたので、先生もビックリの表情だったけれど私は勇気凛々! 朗々と「雨ニモマケズ」を暗唱した。
 
本から勇気をもらった最初の体験だったと思う。
家があれると一番弱い子どもにしわ寄せがくる。親からの世話が得られない子どもはその苦しさを伝える相手も術も持たない。
私は「本」に助けてもらってきたのだなあと最近しみじみ思い返している。
 
「小公女」にはいじめられたとしても最後には報われることを。
「ハイジ」には天真爛漫な心とやさしさが何よりも毎日を楽しくすることを。
「ルパン」には正義の心を習ったように思う。
 
一番には「赤毛のアン」
引っ越しする前の長屋のお隣だったおばちゃんが、今思えば我が家の窮状を思い図ってくれたのだろう。「この本はねきっとひろちゃんを助けてくれると思うよ。つらいときに読んだらええよ」と私に届けに来てくれたのだ。
 
読み進めるとアンの気持ちが痛いほど伝わってきて、アンのようにどんな苦しいときも明るい希望を捨てずにいよう! きっと私にもいつか腹心の友が現れるに違いない!と思えた。私も髪の色が赤毛にならないものかと思ったほどである。
 
辛いときは本がその世界の扉を開いて私を温かく包んでくれ、少しも構ってくれない両親に代わって様々な世界を教えてくれた。
本がなかったらと想像するだに恐ろしい。10歳の私を想いだすと、苦しかった家庭環境とともに、豊かな本の世界を思い出す。
 
そして今でも「雨ニモマケズ」は私の中の大事な柱のようにすっくりと立っている。
たぶん、私はデクノボーとして生きているんだな。って時々思う。
デクノボーはなかなか良い。誰から褒められなくても気にならないし、誰から認められなくても結構平気。でもどこかで誰かが困っていると聞くとほおっておけないし、病人がいたら看病してしまうし、老人がいたら手をつないで歩いてしまう。
 
サウイフモノニ ワタシハナリタイ。
今日も綺麗な三日月。またコツコツまいります。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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