うれしいこと日記
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山葵(ライティング・ライブ6月コース)
「〇〇さんにありがとうと言われた」
「可愛いお洋服を見つけた」
「美味しいご飯を食べた」
私のポケットにはいつも、その日にあったうれしいことを書いた、「うれしいこと日記」が入っている。
スマホよりも薄くて軽い一冊は、私に大きな自信をつけてくれる。
仕事に行くときも、友人に会う日も、散歩をする日も、私は「うれしいこと日記」を肌身離さず必ず持って出かける。
「うれしいこと日記」にはルールがある。
・素直に書くこと
・見つけたらその日のうちに書くこと
・1行で書くこと
たった3つだけ。
些細な「うれしい」を書き留める日記だ。
悲しいことや悔しいこと、傷ついたことって、結構いつまでも覚えているもので、
小学生の時のいじめのこととか、買ってもらえなかったおもちゃのこととか、人前で盛大に転んだこととか。私はそのときの音とにおいまで覚えている。
嫌な記憶ほど、細かに何度も思い出してしまう。
落ち込みやすい私は、すぐに嫌な記憶を繰り返し呼び起こしては自分を責めていた。
一度考え始めると、頭の中を走るのは失敗したことや上手くいかないことばかり。
おまけに寝ている間もそういうことを夢に見てしまう。
あるとき、「もう今日が私の最後の日かもしれない」と思うほど盛大に落ち込んだ日があった。
周囲から責められているような気持ちになって、人はおろか自分のことも何も信じられなくなってしまうような日だった。
そんな私にも親身になって相談に乗ってくれる友人がいて、
「うれしかったことを考えよう! 大丈夫、幸せなことってたくさんあるよ」
と声をかけてくれた。
でも私の脳内にはネガティブが駆け巡って、うれしかったことなんて何も浮かばない。
浮かぶのは自分の失敗と周りにかけている迷惑と不安とそれから――
とにかくうれしい気持ちは全然思い出せない。
たしかに、今まで生きていてうれしいことはたくさんあった。
あったけれど、具体的に何がうれしかったのかちっとも思い出せないことに気がついた。
まるで私の人生にはうれしいことなんて何一つなかったのではないかと思うほど何も浮かばない。
それは単に今落ち込んでいるからではなく、普段からうれしいことってあまり意識していないからなんじゃ……。
そういえば、幸せなこととかうれしいことって気がついたら終わっている。
辛いことがあったときは解決したくて何度も人に相談したり自分で考えたりするから
意識の中にしっかりと結びついているけれど、うれしいことはさらっと過ごして
気に留めていなかった気がする。当たり前になっていたのかもしれない。
うれしいことがあったということは覚えているのに、自分と結びついていなくて実感がない。
だから、落ち込んでしまったときに見失う。
うれしいことって、一番初めに忘れちゃう――
辛いときに思い出したいことなのに、目の前の問題に隠れてしまって、なかなか思い出せない。
なんだか悔しい。私の人生、たくさんうれしいことがあったはずなのに、忘れてしまって、なかったことになっている。
それで、すぐにうれしかったことを思い出せる日記を書こうと思い立ったのだ。
書き始めると、これまで素通りにしていた「うれしい」が思いのほかたくさんあったことに気がついた。
時間ぴったりに待ち合わせに着いたとか、料理の味付けが上手くいったとか。
そういう些細なことって意識していないだけで、「なんとなくなうれしい」として自分の中に蓄積されていたんだとわかった。
ふわふわした「なんとなくうれしい」が可視化されると、自信になる。
落ち込んでも「うれしいこと日記」を見返すと、自分が人として生き生きと通ってきた道が見える。
ここを通ってきた私なら、今壁にぶつかっていても、前に進めない状況でもきっと大丈夫だと思える。
それに、私の「うれしいこと日記」には友人や家族や上司など、自分以外の人が絡んだうれしいがたくさんつづられている。
その人たちのことを思い出すと、また会いたいとか、会ったら一緒に何をしたいとか、前向きな気持ちが辛さを追い越してくる。
辛い気持ちに飲まれる日も、うれしい記憶にあたたかく包まれながら、また少しずつ歩き出そうというエネルギーになった。
立ち止まってしまうことが多い私には「うれしい」という自信が必要だったんだ。
どれだけそのときトゲトゲしているときでも
「うれしいこと日記」を開くたびに、それまでの私の優しい部分があふれ出して包んでくれる。
それらは過去のことだから今が辛いという状況は変わらないかもしれないけれど、いつもそこから抜け出す力になっている。
辛いことは繰り返し起きるし、頭にまとわりついて離れない。
でも私の人生、辛いことだけで作られているわけではない。
うれしい気持ちもセットで持ち歩く。
日記に書かれている些細な「うれしい」の集まりが、私の歩みを力強くする。
今日もうれしいことがたくさんあるだろう。
***
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