メディアグランプリ

真っ新な靴と親を想うこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:菅 宏之(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「バキッ!」
突然何が起こったか? 何がなんだかわからないまま、思いっきりコケた。
しばらく起き上がれなかったが、気持ちが落ち着いて上半身を起こすと目の先に黒い物体が転がっているのが見えた。
よく見ると、モノの見事に取れた左足の靴のかかとだった。
まだ痛みが残る体を起きあげて、取れたかかとを手に取った。接着されたゴムの部分がひび割れて劣化していた。
思えば、その靴を買って10~15が経っていたので、仕方がない。新しい靴を買うことにした。
 
数日後、かかとの取れた靴に手を合わせ、
「これまで晴れた日も、雨の日も、アスファルトや砂地を歩き、時には走って酷使してきました。勝手わがままな自分に、よく耐えてくれました。本当にありがとうございました」
一礼して、真っ新な靴を下した。
 
真っ新な靴に対しては、
「これからよろしくお願いします。これからどんな道、どんなところを歩くか、走るかはわかりません。どうか、お付き合いください」
と一礼する。
言っておくが、すべての靴に対してこの「儀式」をしているわけではない。日常的に履くスニーカーやサンダルは普通に下して履いている。
仕事で人に会う時や冠婚葬祭の時に履く革靴に対して、この「儀式」を行っているのだ。
 
これを教えてくれたのは、オヤジだった。
オヤジはすでにこの世にいないが、ときどき靴磨きをする度この「儀式」を教えてくれたことを思い出す。
なぜ「儀式」をしているか? いくつか整理すると以下の通りになる。
その1 革靴を履くということは身なりもピンと張ったYシャツとネクタイ、そして背広をまとうということ。
その2 ピシッと決まった身なりで、仕事の要人と大切な話をしたり、冠婚葬祭であいさつをする。その時に足元の靴が汚れたり、傷んだりしているとそれだけで信用を落としてしまうということ。
その3 足元の靴が汚れたり、傷んだりしていることは、親やご先祖様を軽んじていることと同じ。敬うためにも靴の手入れをして、礼儀を尽くすということ。
 
今の時代だと、
「この人何を言っているのだろう? 意味がさっぱりわからない」
という者が多くいるかもしれない。昭和の時代だからと、簡単に片づけられるかもしれない。
 
そんな中にあって、この「儀式」に通じる場面をテレビで目に触れる機会があった、
猛暑真っ只中の今夏のある夜、ひいきチームのプロ野球中継を観ていた。
残念ながら応援していたひいきチームは負けてしまい、さっさとベンチから選手が引き上げるところを映していたが、なにやらアナウンサーと解説者の声が大きくベンチの中をつぶさに伝えていた。
どうやらヘッドコーチがドラフト1位の選手を怒鳴っている様だった。
解説者がヘッドコーチの口ぶりから察したところ、
「どうやら、商売道具のバットやグラブを粗末に扱っていたことで叱られているようですね。映してもらうとわかりますが、グラブが汚くて粗末に使っていることがわかるでしょ。
あれじゃあ、叱られて当然ですよ」
そのドラフト1位の選手は、その日は3タコの無安打で途中交代を告げられ、ベンチではその悔しさで涙を流していた。
「まぁ、これで一皮むけるでしょう。こうした経験から、ひとつひとつ気づいていかないと」
解説者も叱咤激励していることが伺えた一場面だった。
 
オヤジからの教えを続けよう。
真っ新な靴に一礼して靴にワックスを塗り付ける瞬間、まずオヤジの顔を思い出す。それと同時に母親、おじいちゃん、おばあちゃんの顔を思い出す、
そうすることで、ご先祖様とつながっていることを実感する。
すると、気持ちがスゥ~と落ち着くことが実感できる。
日常的な仕事、生活の中で、いろいろと雑然とした中に身を置き、気持ちの高揚からくるストレスが負担になることが多いので、癒しになっているのだろうと思う。
そして、ワックスを乾かすためにしばらく置いて、柔らかい布で磨きをかける。その時に水を数滴落とすことがポイントだ。そしてひたすら手に持った靴を磨く。
磨いている時間はほぼ「空」の状態、磨くことに集中して何も考えないことにしている。
すると、以外にも「空」の彼方からやってくる着想にありつく場合がある。
これは非常にありがたく、その着想を実際にやってみて、効果を出した時には、
「ご先祖様が知恵を授けてくれた」
とびっくりしながらも、素直に感謝している。
 
こうして一通り靴磨きを終えて、ピカピカになった靴を改めて眺める。
これは家の中ではなくて、外で眺めるのがポイントだ。
こうすることで微妙に残る磨き残しを見つけては、そこを拭き上げる。これで完成だ。
あとは磨き上げた靴を履いて、仕事に冠婚葬祭に赴く。
 
親に育ててもらって、いろいろと教えてもらい、いわば自分にとってのスポンサーになってもらったわけだが、どれだけ恩返し出来たかはわからない。
しかし、こうして教えてもらった「儀式」をやり続けることで、親を思い出すことが感謝を伝えていることにつながっていると信じてやまない。
 
次はその「儀式」を息子に伝えていけるといいなぁ……
 
 
 
 
***
 
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2023-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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