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「うるさい、黙れ、いいからやれ」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:水戸 綾香(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「うるさい、黙れ、いいからやれ」
 
これが新任教諭として紹介された化学教師Mの第一声だった。
 
着任のあいさつといえば、簡単な自己紹介とともに「一緒に勉強を頑張りましょう」「皆さんと楽しい思い出をたくさん作りたいです」と前向きな言葉を述べ、温かい拍手で迎えられるのがお決まりの流れだろう。だが、Mは他の誰とも違った。
 
険しい表情を一切崩さないまま、冒頭の言葉に続けて「皆さんにはこの言葉を肝に銘じて、私の授業を受けてほしい」と言い放ち、これまでの経歴と担当科目を端的に述べた。
 
「やばい人が来たね」という友人のささやきに頷きながら、
「できる限り関わりたくない」と私は小さく答えた。
 
当時、高校1年生だった私がこのMにとてつもない恐怖を感じたのを今でも鮮明に覚えている。私のMに対する印象は、卒業までその印象が変わることはなく、Mと1対1で会話をしたことは一度もない。けれども私は、自分の人生に影響を与えた人物の一人として、迷うことなくこのMを挙げる。このMの言葉が今の私を作っていると言えるほど、大事なものになったのだ。
 
 
高校2年生の終わり頃、化学の授業中にクラスメイトの一人が内職(授業時間内に授業とは無関係の勉強をすること)をしているのがMに見つかった時のことだ。「なぜ日本史の勉強をしているのか」とMに問われたクラスメイトは、正直にこう答えた。
 
「文系志望の私にとって、苦手な化学の授業を受けるよりも日本史の勉強をする方が受験には有意義です」
 
クラス中の誰もが、「あいつ終わったな……」と哀れみの気持ちを浮かべながら、Mに視線を向ける。Mが教科書を置くのと同時に強烈な怒号を覚悟したが、予想に反してMは静かこう私たちに語りかけた。
 
「君たちの年齢にもなれば、自分が得意なこと、苦手なこと、やりたいこと、やりたくないこと、やらなければいけないことが段々と分かってくる頃だろう。だから君たちは中途半端な知識と経験を振りかざして、これは無意味だとか、自分には関係のないことだと生意気な理由をつけて逃げようとする。
 
厳しくてつらい現実から逃げ出したくなる気持ちも分かる。特にもうすぐ3年生になり、受験を控えた君たちが周囲からどれほどのプレッシャーを受けているかも知っているし、焦るのも疲れているのもよく分かる。目の前に迫った受験に関係のないことにはなるべく労力を割きたくないことも理解できる。
 
だけどね、もっとこうすれば、ああすればと後悔することがどれほど惨めなことか、君たちはまだ知らない。成果があるか分からず、一見無意味だと感じることでも、その経験がいつ役立つかもしれない。この先の人生に何があるか分からないのだから、たった17年の経験だけで、自分には関係ないことだと決めつけるのはやめなさい。目の前のすべきことをがむしゃらに頑張ってみなさい。ここで楽な道を選んだら一生頑張れない。」
 
この授業を受けてからMが新任のあいさつで述べた言葉が、私の中で意味を持つようになった。当時はその意味を十分に理解できていなかったかもしれない。でも自分にとって乗り越えなければならない壁が立ちはだかるたびに、Mの言葉が私を鼓舞してくれた。
 
高校を卒業して社会人になった今でも、いろいろな言い訳や理由づけをして逃げ出してしまいたいことはたくさんある。むしろ、高校生の頃に比べたらやりくないことなんて明らかに増えた。
 
そして、社会人にもなれば、高校生の頃よりも知識も経験も増え、さまざまな言い訳で自分を擁護することができるようになる。現に毎週課せられているこの天狼院ライティングゼミの課題だって、「一度くらい提出しなくてもどうにかなる」「今週は仕事が忙しくて疲れているんだから仕方ない」と自分を甘やかして、サボりたくなるのが正直な気持ちだ。だが、その度に頭の中でMの言葉が思い出される。
 
「うるさい、黙れ、いいからやれ」
 
あの日、Mが語った「この先の人生に何があるか分からないのだから、たった17年の経験だけで、自分には関係ないことだと決めつけるのはやめなさい。目の前のすべきことをがむしゃらに頑張ってみなさい。ここで楽な道を選んだら一生頑張れない」という言葉。
 
目の前のことをやり遂げることでどんな成果が得られるのか、今の私には分からないことの方が多い。だけど、やれば良かったと後悔する惨めさを24歳になった私は知っている。下手くそなりにもやり遂げたほうがまだ清々しい気分になれることは知っている。
 
だから今は見返りを求めずにひたすらに駆け抜けてみる。
未来の自分に成果を託すつもりで。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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