諦めるのはまだ早い。私にも使える「服」という名の魔法
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:前田三佳(ライティング実践教室)
「あいたたたたた」脚がつって目が覚めた。
そろそろと起き上がるとカラダ中痛い。
3日前の休日私は寒さで凝り固まったカラダをほぐそうと、思い立って市民プールに出かけた。
初級コースでバタ足するお婆ちゃんたちを横目に、少しばかり泳げる私は調子に乗って泳ぎまくった。
その筋肉疲労が今頃きているのだ。これしきの事で情けない。
私はぐいとタウリン3000を飲み干した。
肉体疲労時、気分がふさぐ日、私は明るい色の服を着る。
鮮やかなオペラピンクの薄手のニット、ふわふわの襟元が優しいグリーンのタートル。
真っ赤なカシミヤのカーディガン。若見えしそうなネイビーと白のボーダーニット。
お気に入りの服たちが「元気出せよ」と私の肩をたたき励ましてくれる気がする。
今、私のクローゼットは色に溢れている。
だが20代、私のクローゼットはほぼ黒一色だった。
1980年代、ファッションブランドの「コム・デ・ギャルソン」と「Y’s」が「黒の衝撃」というコレクションを発表し一世を風靡した。
黒ずくめの服で街を歩くのが最高にカッコいい時代だったのだ。
当時、社会人となり自由に使えるお金を手にした私はファッションにのめり込んだ。
「an・an」は当時常に先を行くファッション誌の先駆けであり、私にとってバイブル的
存在だった。
男性の目を意識した「non-non」や「JJ」ではなくアヴァンギャルドな「an・an」がいい。
私は私が好きな服を着るんだとan・anを片手に、休日は自宅の町田からへ渋谷や青山へ
でかけたものだ。
これぞという1着を求めて、渋谷パルコ、代々木公園を抜け表参道を通り青山へと歩く。
中でも私が夢中だったのは「コム・デ・ギャルソン」だ。
今でも忘れない。南青山フロムファーストビルにその店があった。
曇りガラスのドアをやや緊張しながら開けると、まるで画廊のような静けさの中整然と憧れの服が並んでいる。
胸の高鳴りを悟られないように、平静を装って1枚手に取って当ててみる。
「ご試着されますか」
声をかけられて振り向いたそこには女優の小雪さんのような長い黒髪の美女がいた。
さすがコム・デ・ギャルソン。当時は「ハウスマヌカン」と呼ばれていたショップ店員さんもまるでモデルのようだ。
「は、はい」
声が裏返ってしまったのが恥ずかしい。
彼女は優雅な手つきでシャツを手に取ると、試着室へと案内してくれた。
左胸に控えめにロゴが印刷された濃紺のポロシャツ。
白い貝ボタンが上品に並んでいる。
思いのほか私に似合っている気がする。これを買わないワケがない。
私はポロに合うスカートも購入した。
ブランドものの2着だからそれだけでも結構な額がする。
だがこの高揚感はどうだ。
たった2着でファッションリーダーになれたような大いなる錯覚。
私はギャルソンの服を少しずつ買い集めた。
ほかの人とは違うお洒落が私をどんどん強気にした。
年に2回のセールの日には旅行鞄を持参し、大量購入。
そして私のクローゼットはほぼこのブランドで埋め尽くされ、黒が大流行した時代は
黒一色と相成った。
ところで先日ファッションライターの高橋一史氏によるこんな文章を目にした。
「避けるべきは全身黒の服装だ。特に黒の帽子、トップス、マフラーで顔周りを覆うのは危険だ。『額縁高価』と呼ばれる顔が強調される着方になるから、イケメンや美女なら映えるが、そうでないなら困ったことになる。これぞ素敵な人を真似ても、逆の効果になるという、着こなしの落とし穴である。(高橋一史 penより抜粋)」
ジーザス!! 20代の私はやらかしていたのだ。
小雪さんや富永愛さんのようなミステリアスな美女なら全身黒も美しく映えるが、私のような平面顔のぽっちゃり体型に似合うはずもなかったのだ。
コム・デ・ギャルソンに憧れ、あのショップ店員さんに憧れ、頭の中だけ理想の自分が理想の着こなしをして街を闊歩していた。
鏡の自分をちゃんと見ていなかった。
ああ恥ずかしい。
どうりでモテなかったわけだ。
当時、周りの男性は「JJ」に出てくるようなお嬢様スタイルが好みだと知っていたのに。
それでも私は私の「好き」を譲れなかった。
若さとはなんと傲慢で根拠のない自信に溢れているのだろう。
今はプチプラと呼ばれる驚くほど安い服が市場を席巻し、誰もが気軽にお洒落を楽しめるようになった。
年金世代となりもう服にお金をかけている場合ではない私のクローゼットも、ブランド品は鳴りを潜め、ZARAやユニクロが大部分を占めている。
あの頃のような服を買う時のトキメキは残念ながら無い。
だがYouTube動画ではプチプラ服でお洒落にキメている60代女性が数多く登場する。
手頃な価格の服でも、着こなし次第でお洒落を楽しみ自分らしさを表現できる事を彼女たちから教わった。
私は「年相応」という言葉が嫌いだ。
60代が年相応に地味な枯れた色の服ばかり着ていたら、それこそ枯れたバアサンになってしまう。
少し派手かなと思うくらいの服をエイヤッと着てみて、何度も着るうちに服が顔に馴染んでくる、ような気がする。
「年相応」ではなく「自分相応」でいきたい。
4月には私の推しとツーショットを撮るという、年に一度の一大イベントが待っている。
その日のために1歳でも若く顔周りが華やぐ服を探しに、私はまた街に出かけるだろう。
お気に入りの服が届けてくれる自信をまだ私は諦めていない。
だって服の魔法を信じているから。
***
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