メディアグランプリ

挫折を乗り越えるだけが全てじゃない

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:淋代朋美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
後にも先にも、家族の前であんなに泣き叫んだのは、あの時だけだ。
 
「ゆきが亡くなった」
電話の向こうで、友人はそう言ったのだ。
ゆきは、大学で一番仲良くしている友達だ。
私は、次になんという言葉を発していいのか、わからなかった。
しばらくの無言の後、
「どうして?」
やっとそう言った。
「まだ私もよくわからないけど、病気、とかではなかったみたい……」
 
死んだんだ。ゆきは、死んだ。自ら、死んだんだ。
すぐに私は、そう理解した。
なぜ、ゆきがその選択をしたのかも、すぐにわかった。
1ヶ月ほど前に、悩みを打ち明けてくれていたからだ。
でも、その時のゆきは、笑っていたんだ。
まるで、大した悩みでもないかのように。
ちょっとした段差につまづいちゃったの! バカでしょー! みたいに。
 
電話を切って、私は、発狂した。
「ワー」とも「ギャー」とも表現できない、文字にはならない声。
異変に気づいた母と姉がすぐに駆けつけて、暴れる私を拘束するかのように、抱きしめた。
大人になって、家族にあんなに強く抱きしめられたのも、あれが、最初で最後だ。
 
ゆきがもういないなんて、信じられない。
人見知りを拗らせて大学生になった私は、「ひとりでも大丈夫」というよくわからない強がりを盾に、自ら友達を作ろうとすることもできなかった。
そんな私に、ゆきは、声をかけてくれた。
「ねえ、良かったら、友達にならない?」
そんなストレートな言葉だった。
友達になるのに必要なのは、そんな簡単な言葉だってこと、私は知らなかった。ゆきが教えてくれたんだ。
ゆきは、誰に遠慮することもなく、面白ければ「あはは!」と大声を出して笑ったし、つまらなければ「何それ、つまらない」と平然と言った。誰といても態度を変えることがない。
人といる時はいつだって話題の中心になるのに、一人暮らしの家に帰ると、ひっそりゾンビのテレビゲームに興じているというギャップも、ゆきの魅力だった。
そんなゆきに惹かれる人は多く、いつでも周りには人が集まっていた。ゆきが大学生活で一番最初に声をかけてくれたのが私で、それがなぜだったのかもう知ることはできないけれど、私にとってはとてもラッキーなことだった。ひとりで過ごすはずの大学生活が、ゆきのお陰で、私も友達の輪の中の一員になることができ、一気に笑いの絶えない毎日になったのだから。
そのゆきがもういないなんて……。
 
寂しさと同時に押し寄せたのは、強い後悔だった。
ゆきは、あの時、私に、ヘルプを出していたのだ。滅多に悩みを打ち明けることのないゆきが、珍しく「話したいことがあるんだ」と。
私は一通りの話を聞いた後、「話してくれてありがとう」と言った。
それは、大学が長期休みに入ったばかりの頃のできごとで、その後実家に帰省したゆきとは、連絡をし合うこともなかった。その帰省中の実家で、ゆきは……。
ゆきの「助けて」という心の叫びを、私はしっかり受け取ることができなかったんだ。
 
この後悔は、そこから何年もの間、私の心から消えることはなかった。
ゆきが亡くなったのは、私のせいだ、とさえ思った。
 
何をどう思っても、事実、ゆきの時間は、二十歳のまま、止まった。
何をどう後悔しても、私の時間はどんどん進んでいき、ゆきとの年齢差は、毎年ひとつずつ開いていき……今は、もう、20歳以上、離れてしまった。
 
ゆき、あなたは、あの時、私に悩みを打ち明けて、なんと言ってもらいたかったのだろう?
私は、いまだに、そのこたえが出ない。
バカな考えをしている彼女を叱咤すれば良かったのか、全面的に味方になれば良かったのか、それとも。
どうしたら、ゆきの未来を変えることができたのか、そればかりに思いを巡らせている。今さら、どうすることもできないのに。
思えば、これが、私の人生の、初めての乗り越えられないほどの大きな挫折だった。
 
20年経っても、まだ、乗り越えられていない……。
仮にもう一度、同じようなシーンに遭遇することがあったとしても、どうしていいのか、いまだにわからない。もしかしたら、まだ同じように後悔してしまうのかもしれない。
成長しない自分に笑っちゃうけど、でも、私は、乗り越えられないままでも生きている。
 
それからも、数えきれないほどの、挫折も、絶望も、あった。
今思い出しても、恥ずかしくなるような、消してしまいたい、大きな失敗もある。たくさんある。
だけど、私は、生きているし、誰からも「あんな大失敗したよね〜」なんて嘲笑されたり、後ろ指刺されたりすることもない。平然と生きていられるんだ。
 
ねえ、ゆき、あなたも、乗り越えられなくても良かったんじゃないかな……。
人生なんて、挫折しっぱなしのこともたくさんあるし、逃げ出して、なんとなく箱に納めて見ないふりしてることもたくさんある。
それでも、良かったんじゃないかな。
「あんなこともあったよね」っていつか、あなたと、笑い合いたかったなぁ……。
 
20年以上経った今でも、私は、1年に一度、ゆきの誕生日には花を贈り続けている。
ゆきの命が終わった日ではなく、命の始まった日に贈るのは、ゆきが生きていたら、に思いを馳せているからかもしれない。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



関連記事