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小さな命が教えてくれた、何よりも大きな気付き


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「僕は良い子じゃないから、ぽぽちゃんの待ってる天国には行かれへん。だって、みんなが行ってる学校に行ってないから、良い子ちゃうもん」
泣きながら次男が言ったその言葉を、私は一生忘れることはないと思う。
次男、小学3年生の秋。不登校になって、2年ほどが経過した頃のことだった。
 
一昔前なら、不登校についての対応は、どちらかといえば、半ば無理やり連れて行く方針だったそうだ。だがここ数年で、その流れは大きく変わった。
「学校に行けない理由を探しても意味がない。理由は分からなくても、学校が苦痛の場であることは間違いない。だから、焦らずに子供の状態を受けいれて、家で好きなことだけをして過ごそう。エネルギーが溜まれば、子供はいつしか、自分の道を見つけて動き出す」
そのように言われることが増えてきた。
 
実際に私も、不登校初期に相談した人に、似たようなことを言われ、実行してきた。
すると最初の方は本当に元気がなく、私から離れることができなかったのに、1年ほど経つと明らかに表情が変わり、少しずつ元気になってきた。
やりたいことや興味も膨らみ、ゲームや動画ばかりだった毎日に、一緒に工作をしたり、お菓子を作ったりという変化も現れ始めた。
 
なのに、だ。
元気になったらなったで、別の不安が私を襲うようになった。
 
「元気になったら動くと聞くけれど、本当にみんな、そうなのだろうか?」
 
元気になったように見える。表情に変化も出てきた。それでもなお、次男は学校に行こうとはしないではないか。
毎日楽しく暮らすだけで、甘えてだらけているようにしか見えない。
確かに、「みんな」は動き出すのかもしれない。
でも、うちの子に限って、そんなことはないのではないだろうか。
一生このまま、好きなことだけをして、遊んで暮らすようになるのではないだろうか。
そんな不安が時々私を襲うようになっていた。
 
そんな時だった。次男が突然、「ハムスターを飼いたい」と言い始めたのだ。
もともと、動物が大好きだった次男。以前私が同じ提案をした時は、「責任を持ってお世話できない」と断られたのに。これはきっと、良い兆候なのではないか?
そう思った私も夫も二つ返事で了承し、その週には我が家の初代ハムスターである「ぽぽちゃん」をお迎えしていた。
 
ほとんど外にも出られない次男だったが、一緒にでかけ、ホームセンターの小動物コーナーでハムスターを選び、お店の人に聞いて必要なものも購入した。
朝晩の餌やりも、水替えも、トイレ掃除も、次男と一緒に楽しくお世話した。
小さくてふわふわのぽぽちゃんに、次男だけではなく、家族全員が癒された。
その命が、たった2週間で尽きることになるとは知らずに。
 
異変に気がついた時には手遅れだった。悪質な寄生虫に感染していたらしい。母体から感染する寄生虫らしく、ほぼ間違いなく、購入したホームセンターでの管理が不十分だったせいだろうと、動物病院では言われた。
 
 
何度か動物を飼っていた私とは違い、次男も長男も、初めてのペットとのお別れだった。毎日泣いて、早く気がついてあげればよかったと、家族全員で後悔するばかりだった。
でも、心の傷は時間とともに、少しずつだが癒えていく。
今回も例外ではなく、日々の暮らしの中で、次第にその痛みは薄らいでいっていたように思っていた。
 
そして、ぽぽちゃんがお空に還り、1ヶ月くらい経った頃だったろうか。
次男が突然、「死んだらどうなるの?」と聞いてきた。
 
 
ぽぽちゃんのことがきっかけなのは間違いないだろう。この疑問に対して、私はよくある答えを伝えるしかなかった。
「どうなるかは分からないけれど、お母さんは天国があると思ってるよ。そして天国には、ぽぽちゃんもいるからね。あなたがおじいちゃんになって、天国に行く時まで、きっと待っていてくれるよ」そんなことを言ったと思う。
 
そう伝えると、次男が突然、大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。驚く私に次男は言った。
 
「僕はいい子じゃないから、ぽぽちゃんの待ってる天国には行かれへん。だって、みんなが行ってる学校に行ってないから、いい子ちゃうもん」
 
衝撃だった。
毎日好きなことをして、気楽に過ごしているのかと思っていた。
学校に行かないのは、逃げているだけなのではと、疑っていた。
でも違う。この子は毎日、学校に行けない自分を責めていたのだ。
責めているから、それが辛くて、ゲームをしたり、動画を見たりして、気持ちをなんとか保っていたのだ。
あれだけ沢山の人が、同じようなことを私に教えてくれていたのに、どうして理解できなかったのだろう。
私は表面だけを理解したふりで、寄り添っているつもりになっているだけだったのだ。
 
その時に、私の中で完全に、次男を信じきるスイッチが入った。
 
不登校になっている子は、間違いなく自分を日々責めている。他の子が毎日できることを、なぜ自分はできないのかと。将来の不安も、もちろんある。でも、どうしようもないのだ。
どうしても、体が拒否してしまうのだ。
その理由は分からない。分からないけれど、事実がそうなのだ。
そのことを私が心の底から理解するのには、小さな命の犠牲がひとつ、必要だった。なんという愚かな母だろう。
 
「僕はいい子じゃないから、天国には行かれへん」そう言われた時に、だまって次男を抱きしめることしかできなかった。どんな言葉も、かけてあげることができなかった。
でも、学校に行けないから悪い子なんだろうか? いや、違う。
だから、しばらく次男を抱きしめた後に、これだけは伝えた。
 
「学校なんて、行かなくてもいい。学ぶ方法は沢山あるんだから。勉強だって、したい時にすればいい。タイミングなんて、人によって違うんやから、無理しなくていい。失敗だって、いくらだってすればいい。そして誰がなんと言おうと、あなたは誰よりも良い子やで。とってもとっても良い子やで」
 
それを次男がどう受け止めたかは分からない。
でもそれからしばらくして、次男が突然私にこう言った。
「お母さん、僕は大きくなったら、寄生虫を全部退治する人になる。勉強して、寄生虫の病気をこの世からなくす人になる」
そして次男は、少しずつではあるが、自宅で勉強をするようになった。
 
あれから月日が流れ、次男は相変わらず自宅にいる。
相変わらずゲームと動画の毎日だが、自宅学習も彼なりに進めている。
「寄生虫をやっつける人」の夢はいくつか変化し、今はまた模索中だ。
その姿は、ある意味子供らしいのではないかと、私も穏やかに見守っている。
 
今では、学校に行っていなくても、家で好きなことをしていても、大きな不安になることはない。
時々ふと不安がよぎることはあるが、不登校に限らず子育て中の母として、子供の将来にふとした不安を感じるのは、誰にでもあることだろう。
その度に、ぽぽちゃんの愛くるしい小さな姿を思い出す。
あの子が命をかけて伝えてくれたことを、私は一生忘れないだろう。
 
 
 
 
***
 
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2024-04-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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