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アホではない生き方

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記事:珠海 (ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
昨年2023年12月29日に、お笑いタレントの坂田利夫さんが亡くなった。私が訃報を知ったのは年が明けた今年になってからだ。ファンだったわけでもなく、特別嫌いだったわけでもない。関西育ちの私にとって、吉本新喜劇は身近にあり、当然彼のことは「アホの坂田」と、幼い頃から認識していた。
 
関西では「アホ」というといい意味で使われることも多く、場を和ませる雰囲気もある。だが時には「あほか!」と本気で怒られることもあるので、一概に良い意味とは言いきれない。
そんな日常的に使われている「アホ」という言葉を、他人から言われても怒りもせず、へらへら笑い、時にはネタとして返しているのが坂田利夫さんだった。
子どもの頃、テレビで坂田利夫さんが出るたびに嫌だった。アホの坂田と言われているのにへらへら笑っている彼の姿が、どうにも不愉快だった。「アホ」という言葉も嫌いだった。「アホの坂田」などというタイトルの歌まであり、坂田利夫さんが出演するとながれていたのだが、人を傷つけることが肯定的にされているような印象を受けていた。それでも身近にある番組だったので、あまり面白いと思わなかったが毎週家族で観ていた。「アホの坂田」に不愉快に感じつつも、坂田利夫さんが嫌いではなかったことが、子どもながらに不思議だった。小学校高学年にもなると自然と吉本新喜劇から他のテレビ番組やドラマへと興味の対象は変わり、吉本新喜劇から自然と遠ざかっていった。
 
関西を離れると、テレビから吉本新喜劇を観る機会がなくなった。関西の番組を目にすると、坂田利夫さんが出演することもあったが、不思議と子どもの頃のような不快感はなかった。そのうちお笑い番組を観ることがほとんどなくなり、私の生活から吉本新喜劇どころか、坂田利夫さんを思い出すことすらなくなっていった。
 
昨年テレビが壊れたことを機に、テレビがない生活となった。必要な情報はインターネットや職場のテレビから仕入れていた。すっかりテレビのない生活が慣れてしまった今年の初め。いつものようにネットニュースを観ていると、坂田利夫さんの訃報が目に飛び込んだ。もう80代になっていることにも驚いたが、私が子ども頃からテレビに出ていたのだから、当然といえば当然だ。だがそれ以上に驚いたのが、生涯独身だったこと、彼の最期を間寛平夫妻が看取ったことだった。
坂田利夫さんが生涯独身を貫いた理由について、自身の子どもが「アホの子や」と言われるかもしれないから、と述べていたそうだ。インターネットの情報であり、実際に聞いた話ではない。しかしこれが事実であれば、彼の人に対する愛情の深さを感じる。「アホ」と言われていても、自分を蔑んでいたのではなく、あくまで芸風として大衆を楽しませるためであったこと、自分より家族が傷つくことを気遣っていたのかもしれない。子どもの頃、「アホの坂田」に不快さを感じながらも、嫌いになれなかったのは、彼自身の人柄が芸風にでていたからなのだろう。
 
晩年、施設へ入所した坂田利夫さん。間寛平夫妻は彼との交流を絶やさなかったそうだ。大切な友人に見守られながら旅だった坂田利夫さん。とても満ち足りた人生の終焉だったのではないだろうか。
生涯未婚率は年々上がっているが、晩年一人でいることへの孤独感から婚活をする人も少なくないそうだ。結婚をしていてもパートナーに先立たれることもある。晩年に離婚するかもしれない。予測もつかない事故や急病により、突然命を絶たれることもあるかもしれない。結婚をしているからといって必ずしも孤独死をしないとは限らない。
 
死にざまが生きざま。
幾度となく耳にした言葉だ。
 
誰しもが満足のいく人生を送りたいと願うが、死ぬ瞬間を考える人間は果たしてどれだけいるのだろう。坂田利夫さんの訃報を聞いた時、私は人生について振り返った。今までやってきたことや、やりたかったことの達成度、本当にやりたかったことなど。
人の人生は有限であり、時間だけは無限に流れている。あっという間に流れにのまれ、自分がどこにいるのかさえ忘れてしまうほど無情に流されてしまう。ふと立ち止まった時、ずいぶん遠くまで流されていたことに気づき愕然とした。だがまだ流れの途中にいることに安心した。
自分が死ぬ時は、家族と友人に見守られたい。
家族ともいえる間寛平さんに見守られながら人生の幕を閉じた坂田利夫さん。死ぬ時を考えると怖くもあり避けてきた。彼の死により、人生にはいつか「死」という終わりを迎えるものであることを、改めて私に教えてくれた。
「死」とは決して怖いものではない。自分の人生がそこに集まっている。
私の中では「アホの坂田」としてのイメージが強かったが、「坂田師匠」と尊敬され慕われている一面もあった。どんなにマイナスの言葉であっても、自分自身がしっかりと歩んでいれば、プラスの言葉へ変換できるのだ。
彼の生き方は決して「アホ」ではなかった。
私の人生もまだ残されている。願わくば、彼のような死に方をしたいものだ。
 
 
 
 
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2024-04-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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