メディアグランプリ

1年間ぼうずまみれになった話


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記事:久保田めぐみ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
世の中には、「自坊」という言葉を使う大学生がいる。
 
教室の中には、坊主頭をした学生たちがあちらこちらに座っている。青い頭、とはよく言ったものだ。100名ほどの学生の中に、モグラたたきのようにして青々とした頭が埋もれている。
 
とある仏教系の大学で、1年間、授業の支援員として働くことになった。大学の仕事には慣れていたが、こんなにもたくさんの小坊主がいる大学は初めてだった。
授業をするのも〇〇宗〇〇派の僧侶。私以外の支援員も僧侶。
「スキンヘッドと坊主の違いってなんだろう?」
そんなことを考えながら、教室の後ろから形の良い頭を眺めていると、グループディスカッションが始まる。
最近の大学の授業は、座学だけでは終わらない。今日のテーマは「寺院でのイベントプロディース」。仏教学部の必修となっているこの授業では、仏教にまつわるありとあらゆることがテーマとして扱われた。
ブッダの生涯から始まり、お寺の年中行事、仏像の種類、寺院が抱える地域課題、仏式結婚式、死生観、LGBTとお寺……等々。私もこの仕事に就かなかったら、この世の中にフリーズドライ葬があることも、カレー坊主という僧侶がいることも、「お骨を郵送!?」という文字が躍る仏教業界専門誌があることも知らなかった。
ディスカッションが始まると、我々支援員も話し合いに参加する。
「いやぁ、まじでリアルの精進料理ってひどいんすよ」
同じグループになった坊主の学生が、顔をしかめながら言う。グループの女子が提案した、「精進料理のレシピ大公開♥」という企画に反応したらしい。
私はひそかに、クラスにいる小坊主たちを「イケぼうず」「学生系ぼうず」「癒やし系ぼうず」「かくれぼうず」という4種類にカテゴライズしていた。
目の前の彼は「学生系ぼうず」。真面目な学生で、小坊主というより野球部の少年に見える。
ただ野球部と違うのは、彼らがグループの中で話し出すと、どういうわけか話に聞き入ってしまう。多分、声が良いのだ。生まれ持った血筋であるのか、このクラスの学生系ぼうずたちは皆、声が澄んでいた。
精進料理に慣れるのがいかに大変か、というのを力説する学生系ぼうずの横で、うんうん、と頷く小坊主がいる。「癒やし系ぼうず」だ。
癒やし系ぼうずは、おっとりとした学生が多い。口数は少ないが、人の話を丁寧に聞いている。マイペースと素直さが特徴だ。
以前「僕は暗記が苦手です」と、打ち明けてくれた癒やし系ぼうずがいた。「お経どうやって覚えんねん!」とつっこみたくなるところだが、彼らはただ、そこにいるだけでゆったりとした空気が醸成される。もう本堂に座っているだけで、檀家さんたちは心が癒やされるであろう。グループに癒やし系ぼうずがいると、終始和やかな雰囲気で話し合いが進んでいった。
どっと、となりのグループから大きな笑い声があがった。
グループの中心に、大きな身体を揺らしながら笑っている小坊主がいる。
「イケぼうず」である。学生の輪の中にいて、時々冗談を言ったり、ヘマをしたりもする。いわゆる愛されキャラだが、そういう学生が意外と、リーダーシップを発揮したりするのだ。
さらに、イケぼうずの中には「外見的イケぼうず」も存在する。外見的イケぼうずは、着ているものがとにかく品が良い。数は少なかったが、嫌みがないオシャレをするのが上手だった。渋い緑色の革ジャンなんかを着ていると、その坊主頭さえもオシャレに見えた。
一通り話し合いが終わると、グループごとに発表をする時間がやってきた。
私がいたグループにもマイクが回ってきた。茶髪の男子学生がそれを受け取る。
「こういう意見が出たので、今度夏休みに自坊に帰ったときには、地域の人たちと交流する場を作ってみたいと思います」
なんだ、君は「かくれぼうず」だったか。
1年生のうちは、まだ剃髪をしていない学生も多い。僧侶である支援員は、頭を丸めていなくとも名前を見ただけで「君は〇〇寺のところのご子息さん?」と当てることもある。父親や曾祖父から、名前の漢字を受け継ぐことも少なくないらしい。かくれぼうずは地方出身の学生が多い。課題の多さと自炊の時間のバランスを取るのが難しい、と悩みを聞いたことがあった。
 
ここの学生たちは皆、感じが良く、乱暴な言葉遣いは一切しなかった。話してみれば普通の大学生だが、端々に育ちの良さを感じた。彼らのおかげで、とても気持ちよく仕事が出来た1年間となった。
 
先日、ふらりと深川不動堂に出かけた。あのぼうずまみれになった1年を経て、よく寺院に足を運ぶようになったと思う。境内の真言宗智山派という文字を見てすぐに、智山派の学生たちが目に浮かんだ。
ドンドンドンドンドドドドドドド……
大きな太鼓の音が鳴り響き、護摩祈祷が始まった。
「暗記が苦手なあの学生は、どうなったかな」
本堂の中央に僧正が座る。
その横で、僧正の袈裟を整えている若い坊さんから目が離せなくなっていた。
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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