お母さんと呼ばないで
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記事:前田三佳(ライティング実践教室)
「お母さん、お母さん!」
ある日私は夫と訪れたコストコで見知らぬ男に声をかけられた。
私には娘はいるが息子はいない。
「は?」
「お母さん、携帯は今何使ってます?」
なんだ。
私を呼び止めたのはスマホの営業マンだった。
「今年一番おトクなキャンペーンやってるんです! 話だけでも聞いてくださいよ」
「そんなにトクなのか?」
夫はまんまと話にのってしまった。
情けないヤツだ。
だが私のスマホもすでに4年目。二人同時の契約ならさらに割り引くという。
おトクな話に弱い私も足をとめた。
しかし、しかしである。
「お母さん、月にどれくらい携帯代払ってます?」
「お母さん。これが新しい料金プランです」
「はい! じゃこれがお母さんの新しいスマホね」って……。
営業マンの「お母さん」口撃が気になって気になって、おトクな料金プランなど何ひとつ頭に入ってこない。
(私はあんたのお母さんじゃないわ――!!)
叫び出したくなるのをようやくこらえ、早くその場を離れたい一心で契約を済ませた。
そして渡された新しいスマホの箱にはご丁寧に「お母さん」とピンクの付箋が貼ってあった。
関西では見知らぬ女性を「お母さん」と親しみをこめて呼ぶようだが、関東で生まれ育った私には違和感でしか無い。
まるで新幹線の椅子を倒しそびれてずっと我慢をするような、居心地の悪さだ。
じゃあ、何と呼んでほしいのか。
こんな時はやっぱり「お客様」だろうか。
以前イタリアに旅行した時は、どこの店でもホテルでも「マダム」「マダ~ム」と呼ばれてたいそういい気分だった。
すっかりマダム気分で過ごしたあの1週間。
財布の紐もずいぶん緩んだっけ。
「奥様」「奥さん」「お母さん」「お嬢さん」「お姉さん」……。
考えてみると見知らぬ女性を呼ぶ呼び方はいろいろあるが、日本にはイタリアにおける「マダム」のような呼称が無い。
概ね40代以降、日本の女性は見知らぬ男性から、未婚か既婚か、子どもがいるか否か、そんなことはお構いなしに「奥さん」や「お母さん」と呼ばれている。
結婚後は家庭=奥に入り、良き妻、良き母として生きることが女性の最大の務めであり喜びと信じられていた、そんな時代の名残なのだろうか?
日本では自分の妻を呼ぶ時、「ママ」「お母さん」などと呼ぶ男性が多いが、そんな文化はどうやら日本だけらしい。
子どもが生まれると子どもの手前そう呼ぶうちに名前で呼ばなくなるのかもしれない。
呼ばれる妻も夫を「パパ」「お父さん」と呼び何の疑問ももたない。
些細なことかもしれないが、そんなことから夫婦は新鮮味を失うのではないだろうか?
子どもを産んでも縁あって結ばれた男と女。
別れの時がくるその日まで、名前で呼び合いたい。
そうすることで親でありながらも、いつまでも相手を敬い愛しあう「男と女」でいられる気がする。
ところで今日、私はある大学の公開講座を受講した。
テーマは「源氏物語と紫式部の生涯」である。
大河ドラマ「光る君へ」にすっかりはまり、もっと史実を知りたくてこの講座に申し込んだのだ。
そこで知ったが、平安時代の女性はその名が知られることはごく稀であったという。
宮仕えした女性なら「和泉式部(夫が和泉守であったことによる)」のように夫や父親の官職から女房名で呼ばれるが、宮仕えしなかった場合は「藤原道綱の母」のように誰かの母としか呼ばれていないのだ。
「みっちゃんママ」これが正式名称って哀しすぎるではないか。
道綱母は蜻蛉日記を残した才女であるのに……。
紫式部は実は「藤式部(とうしきぶ)」であった。父が式部丞(しきぶのじょう)という官職であったからだという。
実名は「藤原香子」という説もあるらしいがその名前は系図にも残っていない。
ただ「女子」と記されているだけだ。
世界初の小説の作者であり世界中にその研究者がいるほどの紫式部。
だが幼い頃なんと呼ばれていたのか、名前はいまだにわからない。
まして父親が官職についていない一般の女性の地位がどれほど低かったかがよくわかる。
今では誰もが親や誰かが付けてくれた名前があって、その名で呼んでもらえる。
この当たり前のような幸せをもっと味わおうではないか。
貴方がもし妻を「お母さん」や「ママ」と呼んでいるのなら、恥ずかしさを振り切って
明日から名前で呼んでみませんか?
貴女がもし夫を「お父さん」や「パパ」と呼んでいるならやっぱり名前で呼びましょうよ。
「どうしちゃったの?」と言いながらもきっとパートナーは嬉しいに違いありません。
60をとうに過ぎた今も「ミカちゃ~ん」と大きな声で夫に呼ばれる毎日。
照れくささと幸せが交差して、つい仏頂面になってしまう私なのです。
***
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