父を延命させたワインボトル
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記事:山口 花(ライティング・ゼミ11月コース)
「お父さんは、お酒が強い人だったね」
「お酒を飲んでも、ぜんぜん様子が変わらなかったね」
と親戚の叔母さんたちが、父のお通夜のあとの会食で話しかけてきた。
2024年11月19日。父の命日になった。
父は、お酒が大好きだった。
叔母さんたちに話しかけられて、3年前の「ある出来事」を思い出した。
「父を延命させたワインボトル」のことだ。
父の日に不思議なことが起こったのだ。
私は実家を出て40年以上の歳月が経っている。
時々、実家に帰省した時も、私が両親と暮らしていた時と同じように、父は晩酌をして母の手作りの夕飯を食べるのが常だった。
しかし、コロナが流行したとき、実家に帰れない日が続いた。
父の日のプレゼントに、父が大好きなお酒を贈ろうと思いついた。
今までの父の日のプレゼントは、40数回、洋服や身に着けるものを贈っていた。
はじめて、お酒を選んだ。
ワインボトルに、名前や好きな文字を彫刻してくれるというサービスを見つけた。
「今年は、お酒にしよう! きっと喜んでくれるはず!」
父の名前入りのワインボトル。
そして、Father’s Day(父の日)の文字を入れ、さらに
I hope you stay healthy(お父さんが健康でいられることを願っています)
という言葉を選んで、ボトルに彫刻してもらうことにした。
文字のデザインは流れるような筆記体
文字の周りには、葉っぱが配されているお洒落なデザインが決まった。
「このワインボトルを、父の日に送ってください」と注文を入れた。
数日後、お願いしたお店から連絡があった。
「ワインボトルの彫刻が完成しました。明日発送させていただきます。父の日の午前中着で日付を指定します」
ワインボトルに父の名前が彫刻された写真がLINEで送られてきた。
「ご連絡ありがとうございます。とても素晴らしいです!
素敵に仕上げていただきありがとうございます。
今までの父の日の中で、一番素晴らしいプレゼントになりました。
父の日の午前中着、よろしくおねがいします」
とLINEを返した。
それから数時間後、またお店から連絡があった。
「申し訳ございません。発送しようとしたら、ワインボトルが箱の中で割れていました。すぐに手配し直します」
そして、翌日の早朝また連絡があった。
「早くから申し訳ありません。また割れてしまいました。実はお酒が割れたのはこれで3本目です。
このお酒のボトルがだめかもしれないので、他の種類のワインに変更してもいいですか? 本当に申し訳ありません。それから職人さんが、デザインの可能性もあるかも、とも言っているので、念のためデザイン変更もさせてもらってもいいですか? 今からすぐ手配しても父の日には間に合いません。本当に申し訳ありません」
「承知しました。他のお酒でも大丈夫です。デザイン変更も承知しました。デザインはお任せします。そして父の日に届かないことも承知しました。よろしくおねがいします」
と返信した。
4本目の父の名前が彫刻されたワインボトルが実家に届いたのは、父の日から遅れて3日後のこと。届いたことを母の電話で知る。
いつもは、父の日にプレゼントを贈った時は、父から電話がある。
その時は、父ではなく母から電話があった。
どうしたのかな? と思いながら、母の言葉を聞いた。
「ワイン、お父さんに贈ってくれてありがとう。
気持ちはとても嬉しいのだけど、実はお父さんはお酒を飲むと胃腸の調子がくずれて具合が悪くなるので、家中のお酒を隠して、お父さんがお酒を飲めないようにしているの。
なので、お酒は誰かに飲んでもらって、ボトルをお父さんに渡して飾らせてもらうから」
と思いもよらない母の言葉だった。
父の大好きなお酒、そんなことになっているとは、知らずに過ごしていた。
ワインボトルを注文したお店の職人さんの言葉も思い出した。
ワインボトルを彫刻している最中に割れたことは初めての出来事とのこと。
そしてラッピングした箱の中で割れたことも、初めてのこと。
いろんな種類のワインボトルを彫刻してきたが、割れたことは一度もないので、不思議な出来事だった。とも聞いていた。1本ではなく3本も。
この出来事、よくわからないが、ワインボトルが父の身体の状態を知っていたのかも、とも思った。
その話を、父のお通夜の会食で親戚の叔父さん、叔母さん達の前でした。
「それは、お父さんを守ろうとしてくれたんだね」
と、みんなが言った。私もそんな気がしている。
あの時、届いたお酒を飲んでいたら、ここまで長生きしなかったかもしれない。
体調をくずして辛い日になっていたかもしれない。
その後も、父はお酒を飲むことなく暮らし、3年の歳月が過ぎ、享年92歳で亡くなった。
お葬式の日は、家族や親せき一同の爪と髪の毛を柩に入れ、みんなで色紙に一言ずつ、故人にメッセージを書いた
私は「お父さん、ありがとうございました。お父さんの生き方、在り方を学ばせていただきました。素晴らしい背中を見せてくれてありがとうございました」と書いた。
たくさんの言葉を交わしたわけではないが、生きる姿勢を感じていた。
自分の人生を生き抜いたと感じる父の一生だった。
私も、こうありたいと思わせてくれる父の生き様だった。
大好きなお酒は、この数年飲めなかったから、あっちの世界に行ったら晩酌を楽しんでほしいと思う。
お父さん、乾杯!
***
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