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私流の「家族との時間」の過ごし方


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記事:shiho(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「この飛行機は1時間ほど遅れています」
 
遠方からの帰り道だった。最終便で東京に戻る予定だった私は、この知らせに焦った。1時間遅れるとなると、空港から家までの終電に間に合わない。どうしようかと悩んでいるうちに、ダメもとで神奈川県に住む父に連絡をしてみた。
 
「いいよ、迎えに行くから心配するな」と父。
 
結局、空港まで迎えに来て、私の一人暮らしの東京の家まで送ってくれた。
 
車内で呆れ顔の父を横目に、内心ちょっと申し訳ない気持ちもあった。でも、それ以上に嬉しかった。実家に住んでいない私を、当たり前のように迎えに来てくれる父。娘ながら、「優しすぎるな」と思わず微笑んでしまう。
 
思い返してみれば、こうした出来事は過去にも何度もあった。京都で暮らしていた大学時代、仕事の都合で千葉に住んでいた社会人時代。そのどちらでも、父は時々車で会いに来てくれた。
 
京都までの距離は、車で片道6時間以上。それでも「ちょっと用事があったんだ」なんて言って、笑って訪ねてきた。父にとってはそれほど大変なことではないのかもしれないが、当時の私はそのたびに心の中で「そんな無理しなくていいのに」と思ったものだ。けれど今考えれば、その行動の裏にどれほどの愛情が込められていたか、ようやく理解できる。
 
千葉に住んでいた頃も、神奈川の実家との送り迎えをよくしてくれたし、遠方からの帰省時にはわざわざ空港まで迎えに来てくれた。父の車に揺られながら過ごした時間は、いつも静かで穏やかだった。
 
そんな記憶を懐かしく思い返していたとき、ふと気づいた。「ああ、私は父とのドライブが好きなんだ」と。車内でぽつりぽつりと交わす会話が、心から心地よかったのだ。
 
 
「社会は面白い」
 
私の父がよく口にする言葉だ。幼い頃から、父が楽しそうに仕事の話をする姿を見てきた。忙しいはずの毎日を、時には茶化すように、時には本気で熱を込めて話していた。その背中を見て育った私は、仕事とは楽しむものだという価値観を自然と育まれていたのだと思う。
 
時には父の職場に遊びに行ったり、簡単な仕事を手伝ったりすることもあった。私はそれを「父と一緒に過ごせる特別な時間」と思っていた。少し緊張しながら、楽しんでいたものだ。
 
普段は無口な父だが、仕事の話となると少し違う。特に車の中ではいつもより少しだけ多く話す。「お前、最近仕事はどうだ」「お父さんはこんなことをしてるけど、お前ならどうする」「こんな人と出会って、その人のここが素敵だったんだ」 ……そんな話を、ニヤッとしながらぽつりぽつりと話してくれる。
 
私も同じように、ぽつりぽつりと答える。それが不思議と心地よかった。車内の静けさと相まって、その時間は特別なものに感じられた。
 
還暦を迎えた父だが、まだまだ仕事を辞める気配はない。それどころか、新しいプロジェクトを始めたそうだ。そのエネルギーの源がどこから来るのか、娘ながら気になって仕方がない。
 
でも、よく考えれば私も同じだ。父から受け継いだものだろうか、仕事をいくつも掛け持ちしたり、新しいことに挑戦したりしている。そんな私の姿は、父の友人たちからも「そっくりだ」と言われる。光栄なことだ。そんなことを考えながら、車内で「この人の娘でよかった」と改めて思うのだ。
 
 
「家族との時間を大切に」
 
よく言われることだし、私も誰かに言ったことがある。でも、実際にその意味をしっかり理解していたわけではなく、どちらかというと少し違和感を感じていた。
 
中学・高校時代は片道2時間の学校に通い、大学進学を機に実家を出て京都で一人暮らしを始め、その後、社会人としても一人暮らしを続けてきた私は、いつしか「家族との時間を大切に」と言われても、どうすればいいのか分からなくなっていたのだ。
 
けれどドライブをしながらなんとなくぼんやりと思った。家族との時間を大切にするというのは、特別なことをする必要はないのかもしれない。ただ、このドライブのように、自分にとって家族との好きな時間を大切にすればいいのだ、と。
 
母とカフェで話す時間。
兄と買い物に行く時間。
祖父と日本酒を飲み交わす時間。
祖母が料理を作り並べてくれる時間。
 
どれもが、私にとってかけがえのない時間だ。それらを思い出すたび、ふっと笑顔になり、心に小さな明かりが灯るような気がする。でも、無限にあるわけではない。だからこそ、一つひとつを丁寧に大切に過ごしていきたい。
 
そう気づいた私は、家が近くなり速度を落とす父に、ぽつりと話しかけた。
 
「お父さん、またお願いね」
 
父は、いつものように軽く手を振りながら言った。
 
「いつでも帰ってこい」
 
その言葉を胸に刻みながら、私は走り去る父の車を見送った。赤いテールランプが小さくなり、やがて夜の闇に溶けていく。その光景を見つめながら、心の中で静かに思った。
 
……次に帰るときは、もっとゆっくり話そう。
 
 
 
 
***

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