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言葉の喜怒哀楽の力


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記事:吉田実香(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「もう、俺のことは忘れてくれ! 二度と来ないでくれ!」
映画やドラマのワンシーンのようなセリフ。
恋愛の場面で言われてみたかったけれど、そんな経験はありません。
これは、100歳も近いおじいさまから言われました。
私はケアマネジャーをしています。家族からの「デイサービスに行かないってベッドから動きません!」という電話で駆け付けて、説得しようしたときに言われました。
その日は結局デイサービスには行かなかったけれど、私が帰るときには「ごめん。また来てくれるよね?」としょんぼりおっしゃっていました。
その姿がかわいくて、と、人生の大先輩にかわいいだなんて失礼だけど、冒頭のセリフとセットで、忘れられない一言になりそうだと思いました。
 
忘れられない一言、と思ったときに、そういえば、母の忘れられない一言があったことを思い出しました。
それは、「外面がいいだけ。3人の中でいちばん扱いにくいんだから」という言葉です。
これは、伯父のお葬式の精進落としの席で、母が伯母たちに言った言葉でした。
もう10年以上前のことです。

私は子どもの頃から、周囲の大人の顔色を窺って、大人たちが喜びそうなことを言おうと努力していました。礼儀正しく、愛想を良くすることは必須です。
どうして、そんなことを自分に課したのかは覚えていません。
両親が不仲で、父親は子どもに感心がなく、子育てはすべて母が一手に担っていました。
兄、妹との3人兄妹で、母は兄には甘く、妹は末っ子だから甘やかされて、真ん中の私にいちばん厳しい、というよくある構図の中で、私が勝手にそうしなければいけないと自分に課したのだと思います。加えて、兄も妹も、あまり勉強しなくても成績が良かったため、コンプレックスもありました。
何か秀でなくては、気に入られることをしなくては、と子どもながらに思っていたのだと思います。
子どもの頃からの努力の結果、親戚からは気に入られていて、加えて当時は特養で介護士をしていたため、伯母たちが母に「ミカちゃんがいるから、あんたは幸せだね。老後の心配は何もないね」と言った言葉に対しての返事が、先ほどの一言です。
私は、母に自分を全否定された気持ちになり、さらに大人になってからはそれほど気にしていなかった兄妹へのコンプレックスを思い出し、そして極めつけは、兄や妹に勝つために2人にはない要素を伸ばしてきたつもりだったのに、それを母が私の欠点だと思っていたなんて……。
この一言におおいに傷つき、母との間に心の距離が生まれました。
しかし、何年もたってから、ある一言に出会って、母の一言から解放されます。
それは、「外面が悪いよりずっといい。それは長所です」という言葉です。
セミナーに参加したときに初対面の方に言われました。たしかコミュニケーションスキルに関するセミナーでの意見交換のときだったと思うのですが、自分がどのような話をして、どういう過程で言われたのかはまったく覚えていません。
母に言われた「外面がいいだけ」は、私の短所であり、悪しき習慣でしかない、という思い込みがあったのですが、そのたった一言で、とても心が軽くなったのを覚えています。
長年の友人などから言われたのではなくて、初対面で私のことをほとんど知らない第三者に言われたからこそ、素直に受け入れられたように思います。
「そうだよね、ニコニコ愛想がいいのの何が悪いの! これは私の長所だ!」と思えるようになりました。
そうしたら、どうして母の言葉をずっと恨みに思っていたのか、たいしたことではないと思えました。
 
そして、今となっては、伯母たちが私を褒めるため、恥ずかしくなって言ってしまっただけだろうし、お酒で気が大きくなっていたこともあるし、深い意味なんてなかったのだとわかります。
それに、言われる側の私にも問題がありました。
私が社会人になる頃に両親は離婚したのですが、その修羅場の過程で、母がただただ泣き暮らしているのを見て、手助けをしながらも、どこか母を下に見る気持ちもあって、そういう私の態度が長年に渡り母を苦しめていたのだと思います。
だから、母も、私の言動に悩んだだろうし、たくさん傷つけてしまっていたのだと思います。確かめたわけではないので、わからないけれど。
でも、そんなこんなの紆余曲折があって、今はいい親子関係だと思います。母が思っていなかったら、どうしよう……。
 
人生における忘れられない一言は、ほかにもたくさんあるし、これからもたくさん出会うと思います。
なんていうことのない一言に喜んだり、反対に傷ついたり、でもまた何気ない一言に救われたり。
私も誰かを喜ばせるのはいいけれど、知らないところでたくさん傷つけている可能性を忘れず、言葉には気を付けていかなくてはならないと、当たり前のことだけれど、改めて思いました。
ドラマのようなセリフを言ってくれたおじいさまに感謝しています。
くすっと笑わせてくれただけではなく、それがきっかけで母に言われた一言を思い出し、改めて振り返りと気持ちの整理ができ、そして、言葉の喜怒哀楽の力を学ばせてくれたのですから。
 
 
 
 
***

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2025-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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