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かつてあった外国語学習とかいうやつについて

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まこと(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「昔は外国語という科目があってな……
 まともに習得しようと思ったら10年は修行が必要だったのじゃ」
「またお爺ちゃん、変なこと言って……」
 
僕の死に際。ひ孫にこんな話をしているのかな、なんて。
 
ここ1~2年のAI翻訳の発展が凄まじい。
3~4年前なら「Google翻訳もまだまだ」なんて思っていたけど、去年・一昨年あたりからのAI翻訳は一気に機械の壁を突破した感がある。自然だし、おおよそこちらの意図通りに翻訳してくれる。専門でやってる大学生のレベルなら優に超えてると思う。ときどき変なのが混じるなんて些末な問題で、時間の問題で早晩潰されるだろう。
 
スマホで音声入力と音声出力を使えば、140か国語に完全に対応した翻訳機になる。どれだけ優秀な人間だって140か国語を翻訳できるようになるのは一生かけても不可能だし、イヤホン型の小型のものが発売されるのは時間の問題だ。
 
SFみたいだけど、いっそのこと脳ミソにチップでも埋め込んでネットに常時接続でもしてくれよ……。そのくらいの気持ちだ。半分は絶望による自暴自棄、もう半分は未来に生きる人間たちへの憧憬と不安。
 
それくらい、今まで語学の習得に費やしてきたリソースは大きかった。特にこの国では、語学がある程度「真面目な人」マーカーとして機能している。それでもって他者との差別化の一つにして、飯を食う自分にとって競争力の3分の1くらいを強制的に引き剝がされていく感覚に陥る。
 
僕をはじめとして、それなりの時間を外国語の習得に当ててきた人間も否定に回りたいはずだが、語学のプロであればあるほど、勝てないことを認めて自分の進むべき道を変化させていっている。
 
「英語を勉強してこなかった俺が勝ち組だったな!」
 
ドライブ中、そんな外国語の未来の話をしていたら、友人が言い放った。
 
まあそうかもねぇ。
ただ、こういう未来を見据えてポジションを張ってたわけじゃなくて、単に怠け癖のある人間であるお前が「勝てる」ような見込みは今後も皆無だけどな。
 
車が大きな通りに出ると、見慣れない看板のお店が目に入ってくる。
 
黄緑地に赤い大きな文字がよく目立つ。べたべたと無造作に食べ物の切り抜き写真、垢抜けないデザイン。一目で日本ではないどこか別の国の料理屋だと認識し、看板の文字を目で追って僕は言う。
 
「おー、あんなところにアフリカ料理屋ができたんだ」
 
友人はシートから身を乗り出して窓の外をキョロキョロ見渡すが「え? どれどれ?」と一向に見つけられない。
 
「は? あそこに『African/Continental Dining and Bar』って真っ赤な文字で書いてあるじゃねえか」
 
僕は言おうとして辞めた。こいつは外国語が読めない。というか、こいつにとって外国語で書いてあるのは存在しないのと同じなのである。
 
この人とはこういうことがよく起こる。道案内をしていてもそうだ。
 
「あそこの角に写真屋があっただろう、その角を右へ行って……」
「いやいや待て、写真屋なんて無いだろうよ……」
 
いや、あるのだ。
「Professional Photo Studio/Development Lab」という看板が。なお日本語表記はない。
教えてやると「へー、あれ写真屋だったんだ」……って、お前はこの近辺に何年住んでるんだ……。
 
AI翻訳機が人間にとって標準装備となる時代になっても、外国語を学ぶ意味はまだ2つくらいはあると思っている。
 
一つは情報感度。
上記の友人の例で出したように、外国語を読める読めないは圧倒的に情報格差になって現れる。特に現実世界ではまだ「ARメガネ」みたいなものもないので、街を歩いたりして得られる情報量の差が凄まじい。
 
こういう人は外国で電車に乗ったりするときどうしてるんだろうっていつも不思議に思ってしまう。災害や事故に巻き込まれたらひとたまりもない。
 
もう一つは異文化理解。
どれだけ翻訳機が発達しても、文化差異を吸収することがまだまだ難しい。
 
仮に「豚」が豊かさの象徴として非常に珍重され、紙幣にも豚の顔が刷られるような国があるとしよう。その国の人に向かって「この豚野郎!」と罵るとき、翻訳機が文字通り「あなたは豚のような男性です」と相手に提示すると、我々の怒りや苛立ちは逆の意味で伝わってしまう。
 
こちらの「罵りたい」という意図通りにAIが判断して翻訳するかは微妙で、汚い言葉はAIによるフィルターがかかってしまうことがほとんどだ。
 
また、僕は職業柄インドとのやり取りが多いのだけど、日本人の言う「できる」といえば、ほぼ100%完璧にできることなのに対し、インド人の言う「できる」は1%でも可能性があることであったりする。
 
これでも翻訳機を通せば同じ「できる」であって、仕事を遂行する上で大きな認識の差異を生んでトラブルになる。
 
こういうときには「その『できる』は何%なの?」と確認したり、言葉に現れないギャップを埋めることが必要になる。これには「外国語学習」を通じて、文化や考え方の違いがあるのだ、という認識を獲得することが欠かせない。
 
まあ、そんな2つの意味を提示しつつも、人間の人生における外国語学習の位置づけは、この1~2年で信じられないほど大きく変化した。
 
僕の正直な考えとしては、何年も苦労して学習に時間を割くよりは、上記のように「情報感度を担保」できて、「異文化理解への認識を獲得」できるところまでやれば、あとは翻訳機で十分かなって思う。
 
「外国語学習が不要になった」とか、「やってない人が勝ち」だとかは全く思ってなくて、むしろ必要となるレベルがクリアに定義されたので、そこに向かって必要な分だけ一生懸命やればよくなった。残りの時間をもっと別の事につかえる未来の人間たちが羨ましい。
 
あと、逆張りをしたいのか、勉強界隈は暗記を否定する人も多いんだけど、「記憶力」というのは基本的に全ての能力の源泉みたいなものだと僕は思っている。
 
優秀な人ってみんな記憶力すごいからね。外国語は暗記して脳に負荷をかけるトレーニングとしても有用だと思うので、「暗記が無駄」「外国語はAIで不要」とか言ってる人たちをよそに、脳トレとしてもやっておけばいいと思う、外国語。
 
 
 
 
***

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2025-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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