脳に録画ボタンなんてなくてよかった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:星空志音(ライティング・ゼミ5月コース)
「あっ!」
という言葉がリビングに響き渡るのはもう何度目だろうか。
うなだれる私を見て
「あぁ、消えちゃったんだね……」
と察する家族。
また全録との戦いに負けてしまった……。というより、いい加減学習しない自分自身にまた負けてしまったのです。そんな自身を棚に上げて、ポツリと呟いた。
「脳に録画ボタンがあればいいのに……」
ブルーレイレコーダーに搭載された全録という機能はとても優秀です。好きなチャンネルを一週間ほど自動で録画しておいてくれるのです。俳優さんやミュージシャンの方を応援していて、ドラマやアニメ作品から生きる力を頂いている私にとって、全録のレコーダーは最高の相棒。推しが出演している絶対に欠かせない作品から、未来でハマるかもしれない作品まで、ものすごい数がレコーダーに保存されています。
ただ全録だって万能の神ではありません。当然容量の限界がくれば、番組は自動的に消えていく。消える前にディスクに保存すればいいし、猶予は一週間もあったはず。それなのに間に合わず、冒頭のような事態になるのです。
そんな時はどうするか?
最初の数分だけ消えてしまった場合、レコーダーに保存こそできないが、視聴することはまだできる。こうなれば自分の脳内レコーダーに刻みつけるしかない。もしそれが1話も見ていない作品で、中途半端な6話目だったとしても、とにかく目に焼き付けるしかない。
「えっ……この作品ってこんなに面白かったの?」
何となく撮っていた1話も見ていない作品の中途半端な6話目に衝撃を受けた。録画を失敗したことを心底悔やむほどの神作。ただもし録画を失敗していなければ、いつか見ようと放置されている多くの作品の中に埋もれて、この作品の良さに今でも気付いていなかったと思います。
録画できていなくて、すごく真剣に見たからだろうか。実は録画を失敗してしまった作品ほど、今でも記憶に刻まれ感動した作品が多い。
逆に、録画が成功したものは、いつか見ようといまだに未視聴になっている作品が多い。
思えば今は何でもデジタルで記録しておける時代。誰しもがスマホを持っており、些細な日々の食事まで撮影の対象。スマホの容量が何千枚もの写真で一杯な人は多いはずです。
でも昔はそんなことはなかったのです。「写ルンです」というレンズ付きフィルムが主流だった頃、何気ない食事まで撮っていた人はいたでしょうか?
どうしても撮りたい一瞬だけをレンズに収め、現像して大切にしていました。
かたや今は、何千枚も撮れるし、不要ならすぐ消せる。いつか見直そうと思ったままそのままにしていて、大切にしているとは程遠い。いつでも見直せる分、その“いつか”は先延ばしにされたままです。
「競技が終わったらお子さんの頑張りに拍手をお願いします」
幼稚園の運動会の案内にわざわざ注意書きされていた一文。そんな当たり前のことをと思いました。でも実際参加してみたらわかりました。どの親御さんもビデオカメラやスマホでの撮影に必死で、拍手が思っていたより少なかったのです。
確かに後々まで残す記録を優先すれば、カメラでの撮影は有効だと思います。でも肉眼で見て感動し、頑張った子供達に拍手で気持ちを伝える。そのことは記録するよりも大切なことかもしれません。
ある時、大好きな方のとある配信で、アーカイブが残ると事前に発表があったことがありました。もちろん大好きな方の配信ですから真剣に見ていました。見ていたつもりでした。でも一部聞き逃しても「どうせアーカイブがあるし」という気持ちがありました。
後で不具合によりアーカイブが残らないとわかった時、絶望しました。そして、後で見られるという甘えが、一度しかない目の前の瞬間を真剣に楽しむことをないがしろにしていたのだと気付かされたのです。
「本公演は録画や録音は禁止しております」
演劇やライブ会場で必ず流れるアナウンス。推しの演劇、推しのライブ、滅多に当たらないチケットを手に入れ、ずっとずっと楽しみにしていた最高の瞬間。
「あぁ、この瞬間を記録できたらいいのに……」
何でも記録することに慣れた私たち。そう思ったことのある方も多いかと思います。どんなに感動したことでも、人間は次の瞬間からポロポロと忘れていってしまう。
「脳に録画ボタンがあればいいのに……」
私も実際にそう思ったことがありました。でもあのアーカイブが残らなかった時に感じた絶望を思い出しました。
「もし脳に録画ボタンがあったなら、きっとそれに頼って真剣に生きなくなってしまう」
「目の前の素晴らしい演技や音楽に感動して涙を流すことも、きっと無くなってしまう」
人生にはリハーサルもやり直しもないのです。巻き戻しのボタンも早送りのボタンも、ましてリセットボタンもありません。
この同じ瞬間は二度と来ない。
その刹那を感じるからこそ、舞台やライブは感動するのだと思います。
間も無く開演するとアナウンスが告げる。
スマホの電源を切った途端、雑念は去り脳のモヤが晴れる。
「脳に録画ボタンなんてなくてよかった」
この一瞬を全力で楽しもう!
人生の幕が上がった。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00