メディアグランプリ

文章を発信することは人におなかを見せることに似ている


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:宮本 晃伸(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

文章を発信することは人におなかを見せることに似ている。

私はXやInstagramといったSNSをやっていない。自分の言葉や写真を気軽に世間に向けて発信する機会はほどんどない。なので、いざ書こうと思ってもどうしたらいいかわからない。いきなり「おなかみせて」と言われたときぐらいどうすればいいかわからない。

おなかを出すことは難しくない。蝉の声にも気合いの入る夏真っ盛りに私はこの文章を書いており、上はTシャツ一枚。ぴらりとめくればすぐにおなかを出すことができる。

試しにめくってみる。30歳を超えて少し、ほんの少しおなかが出てきたかもしれない。緻密な描写をお届けするには気が引ける程度のおなかだ。

けれども一人暮らしなので誰の目も気にならない。寝て起きたときにおなかが出ていても恥ずかしくない。最近買うズボンは腰回りがゴムなものが多くなっているが堂々と履いている。

近所のスーパーでおなかを出すとなると話が大きく変わってくる。私のおなかが板チョコのようにパキッとしてシックスパックであっても出したくない。

出したとして「店内での腹部の露出はお控えください」と店員さんから注意を受けるぐらいですめばまだいい。「へそ出しコーデ」といったあだ名が付けられるかもしれないし、おまわりさんのお世話になりちゃんとした注意をうけるかもしれない。

そうなったら買い物は外出をせず、ネットスーパーに頼るしかない。おなかをだしちゃった人にもやさしい時代で良かった。

文章を書くにしろ、おなかをだすにしろ私にとっては普段は行わないことだ。

目的がないと困ってしまう。「誰のため」「なんのため」、そこが明確であれば抵抗はない。健康診断で腹囲を測ってもらう際は、素直に見せられる。おなかにフッと力を入れて細く見せるようなこともしない。

今回の書く目的はライティングゼミでの課題提出だ。2000文字程度の文章を書くこと。商品のレビューでもなく道具の使い方の説明でもなく書くこと自体が目的だ。

テーマは設定されていない。とても困った。

私の中の執筆家が頭を悩ませている。

頭には白いタオルをぐるりと巻き、紺色の甚平を着ている。すごく猫背。

辺りにはくしゃくしゃになった用紙が散らばっている。

一枚ひらいてみると数行しか書いていない。資源の無駄遣いも甚だしい。

2000文字書くこと自体は難しいことではない。キーボードのAボタンを長押しすれば「ああああああ」っという間に書き終えることができる。

けれども「それは違う」と執筆者が制止してくる。

給料が出ているわけでもないのに何なんだこの人は。

意味のある文章で埋めるのも難しいことではない。

「さっき食べたじゃがりこの肉みそ味が美味しかった」

「最近、朝晩が涼しい。夏のピーク終わったのでは?」

といった一日のエピソードを細かく書いて行けば2000字はすぐ埋まる。

それでも私の中の執筆家は首を縦に振らない。それどころか貧乏ゆすりを始めている。

本当に何なんだこの人は。

「書いた記事が見られないことが不安なのか?」

と聞いてみるがそうではなさそうだ。読み手にとって箸にも棒にもかからない記事を作ったとしても、文筆初心者なので開き直れるといった様子だ。玄人感があるのは見た目だけのようだ。

長い沈黙の末

「納得」

という言葉を執筆家がポツリとつぶやいた。

「どうせなら納得のいくものを」「どうせなら精一杯頑張ったものを」

続けてボソボソとつぶやいている。

その言葉を聞いて私は腹が立ってきた。下手な考え休むに似たり、という言葉がある。知識や経験が浅い中でどれだけ思い悩もうと、読み手にグッとくる文章を書ける確率は極めて低い。ChatGPTに頼るほうが幾分か建設的である。

はじめてのおつかいを微笑ましく見ていられるのは主役が子供だからだ。

執筆家がとまどい、しょげたところで慈しみの情は湧いてこない。

新しいことへのチャレンジは素晴らしいことである。だからといっていつ訪れるかわからない納得がいくまで待って欲しいというのは行き過ぎた要望に感じる。

なので執筆家は放っておくことにした。

おなかどころかその中身を見せる勢いで書いてみた。

とりあえず、私のための文章は書けた気がする。

            

 

 

≪終わり≫

 

 

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