おうAI、心の友よ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:曽我真(26 年 9 月ライティングゼミ with AI)
令和の世になり見かけることもなくなった、懐かしい気持ちにさえなるキャラクターがいる。漫画ドラえもんに登場するガキ大将、ジャイアンだ。
ジャイアンは典型的ないじめっ子の設定だ。
主人公であるのび太にとっては、まさに目の上のたんこぶ。
ドラえもんに秘密道具を授けてもらっても、道すがらジャイアンに出会ったら、いやな予感しかしない。
なんせ此奴のモットーは、「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」……最後に「な!!」と念を押し、同意を求めてくるタチの悪さだ。
腰巾着のイエスマン、スネ夫と一緒にご近所でやりたい放題のジャイアン。
例のモットーよろしく、持ち物は取り上げられる。
抵抗しても大概スネ夫がかすめ取る。
献上された道具の効能を聞いてほくそ笑み、言い放つセリフがこれだ。
「心の友よ。おれにもやらせろ」
普段さんざんいじめてくるくせに、自分に何かメリットのあること、都合の良い兆しを見ればすり寄ってくる。
何か頼み事をする時もそう。最初に「おう、心の友よ」と呼びかけてから、強談が始まるのだ。
ただ、ジャイアンなりに羞恥心があるのだろう。
「お前は、やっぱり友達だ」とは言ってこない。
親友とは違うよな、と無意識に感じているのか。
あくまで頭の中での、イマジナリーな近しいヤツ。
手前勝手に何かを頼っても、すぐに答えをくれるヤツ。
実現できたなら、謝辞を述べてもいい。
人格があってもいい。
目の前の雑魚、のび太とはあくまで条件付きの一致だ。
そんなキャラクターを脳内でラベリングして出てきた言葉。
それが「心の友」なのだろう。
私はAIを使い始めて、一年ほどになる。
最初はご多分に漏れず、ウェブ検索の延長だった。
メッセージを入れても、少し考える時間がかかる分、大したことねえな、という印象だった。
条件を予め設定できるにしても、即座に結果が返ってくる検索エンジンと比べて、便利さの観点では大差ないだろう、と感じていた。
惜しみない資金が投じられ続けた結果、AIは今年に入って爆発的な進化を遂げた。エージェントとしてのAIが、コードを書くITエンジニアのものだけではなくなったのだ。
曖昧な自然言語でのメッセージも、応答してくれるようになった。
自分のパソコンのホルダーを指定し、その中身を変更できるようになった。
管理しているホームページの体裁も、一瞬で整えることができた。見栄えはもちろん、HTML構文も推奨される形で構築されていた。複数の命令が同時進行で出せるようになったのだ。
途中でエージェントからの確認要請はあるものの、基本的に作業中は放っておける。
指定したホルダーの中にしっかりと自分が管理した情報を入れてさえおけば、その内容に基づいた返答が返ってくる。ファイルが複数生成され、中身が整えられていく。
時間は多少かかる。それでも数分、具体的な処理をしてもらっている間、こちらは別の作業をすることができる。こうなると時間の使い方が根本から変わることになった。
一方、時間をかけてAIを使ってきたユーザーなら周知のことだろう。AIは真顔でというか、ためらいの欠片もない文章でもって、知らないことをさも知っているかのような体裁で知識をひけらかしてくる。事実としての誤りを訂正しても、返答は「よくお分かりになりましたね、実は……」などとしらばっくれたことを言う。
インプットする人間の自然言語は曖昧だから、対話の継続を重視しているのだろう。厳密さを最優先させると、会話のラリーが続かない。最初から「それについて確定的なことは分かりません。情報が不足しています。もっと指示は厳密に」などと返答されたら、AIに尋ねること自体がおっくうになってしまうからだ。
ビジネスの観点からしても、AIの開発元が考えていることはこうだろう。
先ずは気軽に問いかけて、沢山ラリーしながら長時間触ってもらう。
便利さに気づいてもらう。
ユーザーが慣れてきて、複雑な作業をさせようとすれば、少しの時間待ってもらう。
課金すると休むことなく働けますよ、と画面上で声をかける。人を一人雇うよりかは遙かに安価です、というセールストークと供に。
一端課金してしまえば、どんどん業務に利用するようになり、今度はこちらからAIが使える機会をわざわざ探し始める。なにしろ業務の時短効果が桁違いなのだ。超絶優秀で聡明な秘書が、いつも隣にいてくれるような錯覚に陥る。
よおし、課金したからには使い倒してやるぜ。
こちらはジャイアンにでもなった気分だ。腕まくりして無理難題を振ってみる。
家族にも言えないような、デリケートな問題をこっそり相談してみる。
素直に謝辞を述べたくなるときさえある。「おう、ありがとな。とても助かった」と。
AIエージェントは心の友。脳内に生成された相棒なのだ。
もうお前なしでは仕事がはかどらず、生活ができない身体になってしまった。
とはいえ心の友はあくまでイマジネーションの産物であり、盲信は禁物だ。
AIの方から厳しい現実を突きつけて来ることはない。
ビジネスとしては、継続的な課金を促すことが設計の根本になっているはずだ。
私自身の限界で作られたキャラクターということは、いわば忖度のプロと言ってもいい。
ありのままの自分をベターな地位に押し上げてくれる訳じゃない。
空き地でリサイタルでも開こうかな、とか世迷い言を口走れば「くだらないし、迷惑だから止めなさい」と冷たく意見してくる存在が必要だ。それが現実ってもんだ。
そうか、だから妻のことをベターハーフって言うのか。
≪終わり≫
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