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名前を知らない彼へ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:天野将明(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

「今年から京都で大学生をしているんです」

「へえ、出身は?」

「沖縄です。初めての一人暮らしで」

寒空の下、駅までの帰り道、私は初対面の青年と歩いていた。

ああ、彼も同期なんだな、と心の中で思った。

 

自分の趣味に、周りを巻き込むのが昔から苦手だ。

映画を観に行くのも、美術館に行くのも、お笑いライブに行くのも、マラソンを走るのも、基本的に全部ひとりだ。

ひとりで現地に赴き、ひとりでの時間を堪能し、感想を言い合っているグループを尻目にその場を去る。それが私の休日の過ごし方だ。

 

ソロ活というのはロウソクの灯のようなものだ。側から見れば儚い。でも、そこに確かな温もりはある。

 

社会人になって半年が経ったある日、Official髭男dismのライブに足を運んだ。

ボーカルの藤原聡氏が声帯ポリープでの活動休止期間を経て、久しぶりに開催されたツアー。大阪会場のチケットが当選し、初めてヒゲダンのライブに行くことができた。

もちろんひとりである。

大阪城ホールの最後列よりさらに後ろの立ち見席ではあったが、ヒゲダンの音楽を全身で浴び、全力でコールし、ファンの一員として同じ空間を共有することができた。時に涙を浮かべつつ、来ることができてよかったと心から感じた。ライブという非日常のために、また日常を頑張って生きていこうと思えた。

こうして、今日もまたロウソクが溶けてゆく。

 

終演後、周辺の観客がステージセットを写真に収め始めた。数人で来ていると思われる人達は、お互いにステージをバックに写真を撮り合っている。

単身来ている私も記念に写真を撮るのだが、本心は自分もステージをバックに誰かに写真を撮ってもらいたい。だが話しかける勇気もなく、下手な自撮りでもするかとそわそわする。

「写真、よかったら撮りましょうか?」

20代と思われる男性が、私に話しかけてきた。

「え、お願いしていいですか? あ、僕も撮りますよ」

ラッキー。心の中でそう呟いた。

ライブグッズをばっちり掲げ、お互いに何枚かずつ写真を撮った。

 

その場の成り行きで、彼と一緒に会場を後にすることにした。

「ライブめっちゃよかったですね!」

「そうですね、僕はあの曲が好きでーー」

感想のキャッチボールが続く。友達とライブに行くって、こんな感覚なんだなあ。

「そういえば普段はどこで何してるんですか?」

感想のラリーが一段落したあたりで、ふと投げかけてみた。

「今年から京都で大学生をしているんです」

おお。私も京都の大学に通っていたので親近感が高まった。

「へえ、出身は?」

「沖縄です。初めての一人暮らしで」

「そうなんだね」

実は私も社会人になってから一人暮らしを始めたので、一人暮らし歴ではある意味”同期”と言えた。

 

会場から最寄りの大阪城公園駅に着いた。

大阪駅までは同じルートだったので、同じ電車に乗った。

ヒゲダンファンのおかげで一瞬にして満員電車となった車内。他愛もない会話は続いた。

「生活は慣れた?」

「はい。でもなかなか友達ができなくて」

なるほど。道理で彼もひとりで来ているわけだ。

「そっか。僕も大学の時は結構時間がかかったなあ。今でもそんなに友達は多くないし」

「そうなんですね」

お互い静かに微笑んだ。

ここはひとつ人生の先輩としてアドバイスするところなのだろうが、何も言えなかったし何も言わなかった。

彼は数年前の自分の写し鏡のようだった。だからこそ、あえて。

 

「では、またいつかどこかで」

大阪駅に到着し、それぞれの帰路に着く。

連絡先を交換するかずっと迷ったが、結局しなかった。自分が社交的なキャラクターなら、インスタ交換しようよなんてさらっと言ってのけるかも知れない。

でも、自分がソロで会場にいたからこそ、こんな一期一会に恵まれたとも思うのだ。

ライブの余韻と、彼との交流。少しずつ寒さが増してくる夜だったが、どこか温もりをまといながら乗り換えまでの待ち時間を過ごしたのだった。

 

「これからもみんなで一緒に歳を重ねていきましょう!」

ヒゲダンのライブの最後の楽曲でのMCが、今も鼓膜に響く時がある。

名前を知らない彼は、今どうしているだろう。そろそろ就活の時期だろうか。心を許せる友達に出会えただろうか。

お互い長く生きていれば、いつか会場で隣り合わせになるかも知れない。そんな日が来ることを心待ちにしながら、また新品のロウソクに灯をともす日々が始まる。

 

≪終わり≫

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