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「英語って、何が何だかわからない」の正体


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:永石美香子(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

「英語って、何が何だかわからなくなります」

 

授業で、こんな言葉を聞くことがあります。30年以上、高校で英語を教えてきましたが、この声は今も変わりません。何年も英語を習っているのに、なかなか話せない。教える側としては少し耳が痛い話です。でも、生徒たちを見ていると、単語や文法を覚えるだけでは乗り越えられない壁があるように感じます。

 

では、何が壁なのでしょうか。

 

例えば、中学1年生で習うbe動詞と一般動詞です。「私は学生です」は “I am a student.”。「彼は学生です」なら “He is a student.” で、「あなたは学生です」は “You are a student.”。日本語なら、どれも「です」で済みますが、英語では主語によってam、is、areを使い分けます。疑問文も “Are you a student?” と、be動詞を前に出します。

そこに一般動詞が登場します。「私はテニスをします」は “I play tennis.” ですが、「彼女はテニスをします」なら “She plays tennis.”。疑問文は “Do you play tennis?” です。さっきはAre youだったのに、今度はDo you。「どうしてこっちはareで、こっちはdoなの?」と混乱するのも無理はありません。

 

この違いを考えるとき、私は日本語と英語の文の作り方に目を向けます。日本語の「よろしくお願いします」は、仕事を頼むときにも初対面のあいさつにも使えます。場面や相手との関係が分かっていれば、細かく説明しなくても通じることがあります。一方、英語では、何をお願いしたいのかを具体的に言葉にする必要がある場面も少なくありません。

 

文化人類学者エドワード・T・ホールは、『Beyond Culture』(1976年)で、コミュニケーションにおいて文脈に頼る度合いの違いを「ハイコンテクスト」「ローコンテクスト」という考え方で論じました。日本語と英語を単純に二分することはできませんが、言葉にしなくても伝わることと、言葉にする必要があることの違いを考える手がかりになります。

 

この違いは、英語を書くときにも表れます。英検のライティングや発表で、生徒が困るのは、文法よりも先に「何を書けばいいのか」ということだったりします。日本語では言いたいことが浮かんでいても、英語にしようとすると主語が決まらず、説明したいこともぼんやりしてしまうのです。

以前、「自分の推し」について発表した生徒がいました。

“She is very cute. She is interesting woman. The basketball outfit is very cool.”

かわいい、面白い、バスケの服がかっこいい。伝えたい気持ちは分かります。ただ、何が面白いのか、服そのものがかっこいいのか、本人が着ている姿がかっこいいのかは、少し曖昧です。単語を知らないというより、頭の中のイメージを相手に伝わる形にするところで止まっていたのでしょう。

一方、好きなマックのポテトについて書いた別の生徒は、こう書きました。

“It’s soggy, but delicious. I could eat them forever. Please give it a try.”

文法や代名詞には直すところがあります。それでも、しなしなしているけれどおいしい、いくらでも食べられそう、よかったら食べてみて、という気持ちは伝わります。食感まで表現しているので、読んだ側もポテトの様子を想像できます。

二人の違いは、英語の知識の量だけでは説明できません。自分の好きなものを、どこまで具体的に捉えているか。その違いも英文に表れているように思います。

 

高校生の英語ライティングを扱った福島知津子・伊東治己の2009年の研究では、考えを図に整理する方法を授業に取り入れ、自由英作文や書くことへの意識の変化を検討しています。英文を書く力を育てるには、書く前に考えを整理する過程にも目を向ける必要があるのです。

では、英語が伝わる人と、なかなか伝わらない人の間には、どんな習慣の違いがあるのでしょうか。

私は、英語を書き始める前の、ほんの短い時間に鍵があると考えています。

 

好きな人や食べ物について英語で書くとき、いきなり英文を作るのではなく、少しだけ立ち止まってみてください。そこで役立つのが、次の三つの問いです。

「何を伝えたい?」

「どこが、どう好きなの?」

「それが分かる具体的な例はある?」

 

例えば、「彼女は面白い」で終わらせず、「一緒にいると、よく笑わせてくれる」と考えてみる。すると、“She makes me laugh.” という英文につなげられます。曖昧だったイメージが、少しずつ言葉になっていきます。

もちろん、単語や文法を覚えることも欠かせません。それでも、英語が苦手だからといって、才能がないと決めつける必要はないと思います。30年以上教えてきた今も、生徒が何につまずいているのかを考えることは、私自身の課題です。

 

授業で「何を書けばいいか分からない」と言われたとき、私はまず、日本語で何を伝えたいのかを聞くようにしています。本人の中にある言葉を引き出すことが、次の一文につながる場合があるからです。

 

もし今日、英語で何かを書こうとして手が止まったら、まず日本語で一文だけ書いてみてください。好きな理由でも、伝えたいことでもかまいません。その一文を具体的にするところから始めてみる。

英語の勉強は、英文を作るところから始めなくてもいいのです。

 

≪終わり≫

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