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脱皮

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:島田智弓(26年9月ライティング・ゼミwith AI)

 

「あー、まただ。もう無理。」

込み上げる怒りを、マウスにぶつける。

 

「何で同じ経営企画なのに、早く来ないんだ。」

誰もいない静寂なオフィスに、私の声が響き渡る。

 

18時を指し、彼女はいそいそと帰り支度を始める。

香水の匂いが通り過ぎ、「お先に失礼します」。

 

私のタスクはまだ20も残っている。

今日も22時かな。

終わりが見えない。

いつからこんなことになったのだろうか?

 

入社当初のAさんは、質問が多かった。

「ここ教えてください」

「一応不安なのでみてください」といった具合に。

 

しかし、いつの間にか変わってしまった。

議事録はつけるが、現場仕事については知らん顔。

その一方で、社長には「新幹線の予約しておきましょうか?」とアピール。

 

忙しさと比例して、彼女への苛立ちで気がおかしくなりそうだった。

 

「彼女とは合わない。これ以上は距離を取った方が自分のためにもいい。」

そう思って、仕事以外での話をすること、プライベートで食事をすることもやめてしまった。

 

追い打ちをかけるように、私は経営企画を突然降ろされることになる。

「マーケティング部へ異動してくれ」

「え?」

突然の辞令に私は言葉を失った。

 

私は社長と意見を戦わせることも多かった。

「そのやり方では誰もついてこないと思いますよ」

「その企画はこうした方がよくないですか?」

私は会社を思ってのことだったが、どうやらこれが良くなかったようだ。

 

「君は反対ばかりするので社長とのコミュニケーションコストがかかると判断された。社長がやりたいことをスピーディにできないから、異動になったんだよ。Aさんはそのまま。」

静かな口調で新しい上司にこう言われた。

 

その言葉を聞いた瞬間、目の前でパキリと何かが音を立てて崩れ去り、喉の奥がキュッと引きつるような窒息感に襲われた。

 

この数年、社長の世代交代、組織改革、新規事業などと様々なことを任されてきた。責任はあったが、任されたことが信用されているようで嬉しかった。

 

それなのに、私のやってきたことはすべて「コスト」だったのか。

後から入社した人が次々と責任者になっていく背中を見送りながら、「私が積み上げてきたものは、一体何だったのか」と、目の前が真っ暗になった。

 

正直44年生きてきて、一番辛かった時期かもしれない。

 

こうして、私のカレンダーからミーティングは綺麗になくなった。

これまでの業務量とは一転、暇になった私。

 

転職サイトに登録し、希望条件を検索しようと思った瞬間手が止まる。

「はて?どこに応募しようか?」

「何で検索すればいい?」

 

いざ応募してみようとなると、

今度は志望動機が書けない。

書いてみても、いまいち真実味がない。

 

専門性もなく、これをやってみたいと思えるものが一つもなかったのだ。

 

そんな時、ある会社のサービスを思い出した。

「人生のパーパスを探してみませんか?」

私への言葉だと思い、高額ではあったが、プログラムに申し込んでみた。

 

プログラムの中で、自分の正念場(試練)に向き合う問いがあった。

脳裏によぎったのは、小学生の頃のいじめだった。

 

あの時、世界から孤立したような絶望感の中で私を救ってくれたのは、担任の先生だった。先生が作ってくれた心理的安全性の中で、いじめが消えただけでなく、お互いに遠慮なく質問し合い、理解を深めることで成績も上がっていったあの記憶。

 

「そうだ、この空気でクラスが変わって、私も変われたのだ。」

 

画面に向かっていた手がピタリと止まり、私はマウスから離して自分の膝の上でぎゅっと握りしめた。息を呑む。

 

「誰もが自由に発言できる、お互いに意見を言い合える空気。心理的安全性を作りたいんだ。」

 

ストンという音と共に、モヤが晴れた感覚に包まれた。

呼吸が整い、資料作りをする手が突然進み出す。

 

今まで暗闇の中でもがいてきた答えと思われるものが出てきたのだ。

 

例えば、新しい人が入ってくる時は必ず自分から話しかけにいくし、学生のインターンシップがあれば真っ先に声をかけていた。チャットやメールよりも、温度の伝わる電話を好む。私の行動の源泉は、すべてそこにあったのだ。

 

同時に、私が苦しみ悲しんでいた理由は、これだということにも気づいたのだ。

私にとって「心理的安全性のある場づくり」は重要かもしれないが、他の人にもそれぞれ大切にしていることはあるのだ。

 

「人はそれぞれ考えていることや価値観が違う」そう心の中で思うようになった。

 

同僚との毎日のランチをやめ、一人で過ごす時間を増やした。

そして、「自分だったらどうか?」「私は今どう感じているか?」を考えるようにしている。

 

以前の私は、自分が正しく相手が間違っていると思い込んでいた節がある。

場合によっては、同僚に同調圧力を強いていたかもしれない。

私が大事にしていることがあるように、相手にも大事にしていることがあるのだ。

 

傷だらけになりながら見つけたこの答えを胸に抱き、私は今日も、重いオフィスのドアを開ける。

 

以前マウスを叩きつけた手は、優しくパソコンとマウスをにぎる。

私の1日が始まる。

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