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最後のラブレター


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:眞水純子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「はい、○○病院 救命センターです」
 
仕事が終わりロッカー室に戻ると、携帯に見知らぬ番号からの着信履歴がずらっと並んでいた。ただならぬ様子に、すぐにその番号にかけてみた。
「○○病院 救急センターです。ご両親が交通事故に合われました」
「お父さんは軽症です。お母様は誠に残念ですが、すでにお亡くなりになっております」
 
「……」
「え???この人は何を言っているの?」
 
一瞬何のことかわからなかった。ぼーっとした意識の中で、何だかドラマで聞いたことのあるようなセリフだな……そんなことを思っていた。
 
九州に離れて住んでいる両親はとても仲がよく、ちょくちょく二人で旅行していた。今回もお寺に咲く紫陽花を見に山口県まで父の運転する車で出かけていたのだ。その帰りに父が起こした事故だったのだ。
 
朝一番の飛行機で飛んだ私は、病院の霊安室で眠る母と対面した。本当に寝ている様だった。最後にあったのは、去年の8月。どこでもすぐにうたた寝する母だったが、まさにその時に見たうたた寝している顔と同じだった。事故当時も母はうたた寝をしていた。だから意識のないままに事故に合い、帰らぬ人となったのだ。もしかしたら母自身も亡くなったことに気がついていないのかもしれない。今にも目を開けて「もうびっくりしたよ」って言いそうな気がしてならなかった。
 
綺麗にお化粧してもらったお顔は、とても若々しくお肌もツヤツヤで瑞々しかった。触ると柔らかく、しっとりしていた。とても83歳には見えない綺麗なお顔だった。
それもこれも、日頃の努力の賜物なのだろう。自宅にあった高級な化粧品たちが一人じゃ使えきれない程大量に残されていた。最近ではほうれい線を気にしていたらしく、年老いていく姿を見るのが嫌だったらしい。綺麗なままで、若々しいままで最後を迎えることが出来てよかったのかもしれない。
そして、父より先に死にたいといつも言っていた。父が先に亡くなることが不安で不安でしょうがなかったのだ。一人残されたらどうしていいのかわからない、生きていけないと思っていたようである。
 
父はうるさい事は言わず、母の好きなようにさせていた。通販好きな母は、暇さえあればずっとカタログをスミからスミまで見て、気にいった商品を購入していた。美容系からダイエット商品、健康食品など流行りものは何でも一通りあった。好きなものを好きなだけ通販で購入していたのだ。部屋中、物で溢れかえっていた。
「それがお母さんの楽しみなんだから」と父は黙認していた。
そんな父に守られ、楽しく安心して暮らしていたのだろう。そんな母が羨ましくもある。
 
結婚して55年。長い何月を共に歩み、けんかもしていたけど、いつまでも二人仲良くお互いを大切に思っている夫婦だった。子どもよりも父を大切にしていた母。もっと一緒にいたかっただろう。
だけど、いつかはこの世を去る日が来る。綺麗なうちに、体が自由に動くうちに、楽しい旅行中に大好きな父と一緒の時に、安らかにこの世を去ることが出来て、これでよかったのかも知れない。そう思うことにした。穏かな綺麗な母の顔を見ていたらそんな気がした。
 
あとは、父のことだ。
この先も二人で一緒に暮らすと思っていたから、一人の空間に、家事に慣れるまでが大変だと思う。ふとした時に強い悲しみがこの後にやって来るのかもしれない。今後父がどうなるのかわからない。どうなったとしても私は私のやることをやるだけだ。
前を向いていくしかないのだ。残された者たちは、それでも生きていくしかないのだ。
母との思い出はたくさんあるのだから、落ち着いたら母との思い出の場所に父を連れて行ってみようと思っている。
 
にこにこ笑っている母の遺影に向かって父はこう言葉をかけた。
 
私と結婚してくれてありがとう。
充実した楽しい結婚生活ができました。
 
職業柄よく頑張ってくれました。
感謝しています。
 
老後もよくあちこちに旅行して楽しかったです。
嬉しそうに明るい笑顔がすばらしかったです。
いろいろ楽しい思い出が多く出来ました。
 
最後がこういうことになってすみません。
 
いろいろ私を
大事に大事にしてくれてありがとう。
 
 
最後のラブレター、天国の母に届いただろうか
 
 
***

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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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