現代人のパワースポット、「寄席」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:はるな(ライティング・ゼミ日曜コース)
土曜日の夕方、私は新たな世界に一歩足を踏み入れた。
「寄席」である。
「行ってみたかった」という彼に、言われてみると確かに私自身も落語という世界に関してほとんど知らなかったことに気づく。
テレビで落語家を見ることはあったものの、バラエティ番組で面白い話をしているイメージしかなく、落語というものは一回も聞いたことがない。
時間は開演の17時を少し回っていた。
窓口でチケットを買うと「21時終了です。再入場はできないのでご注意ください」と。全く調べていなかったが故に、「4時間も?」と内心耳を疑った。
すでに始まっている会場に横から入れていただいて、畳の小上がりの席を案内された。
席に着いて驚いた。会場は満席なのだ。
しかもお客さんも私くらいの世代のカップルも多く、またお父さんお母さんに連れてこられたであろう小学生くらいの女の子もいた。
途中から入ったので、最初は内容が分からなかったが、様子を伺っているとその落語家の時間は終了した。
入れ替えの時間でもらった出演者表を見る。
正直知った名前は大トリの方しかいなかったが、さらに驚いたことは出演者の数だ。これからさらに20人くらい出てこられるらしい。これでは確かに21時というのも納得だ。
面白いことにコント・太神楽・俗曲・曲芸など、落語以外のものも予定に
入っていたが、コント以外どんなものなのかよく分からなかった。
そのようなことを色々考えているうちに次の落語家が出てきた。
申し訳ないことに数日経った今、誰がどんな話をされていたかを失念してしまったのだが、いつもお笑い番組を見てもなかなか笑わない私でさえも、クスクスと笑ったことは覚えている。
「意外に面白いのかもしれない」
その後も、たくさんの方が出て来られ、お客さんは私たちのように落語初心者も多いのか、色々と説明をしてくださった。
東京は江戸落語と呼ばれるが、大阪など関西では上方落語と呼ばれ、机などが用意されること。
寄席という場は昼の公演も行っていて、ここは入れ替えがない。よって中には約40組もの方々を3,000円という価格で見ることもできる。
落語にはいくつか型があり、話す内容はあらかた決めては臨むものの、誰が何を話すかは知らないので、自分の出番前に似ている話をしていたら、急遽内容やお着物まで変えるのだとか。
「見れば分かると思うけど、こんな年でも頑張ってるの」
「こんなおじいさんばかりだけど、また笑いたくなったらぜひ来てね」
皆さん、笑いながら話すのでつられて笑ってしまったが、明らかに私の両親以上の年齢の方も多い。落語家として、何十年と活躍されて来られた皆さんには大尊敬だった。
正直、人を笑わせてなんぼの世界でも年齢は関係なく「プロ」は「プロ」。
ど真面目であまり笑わない私自身にはなかなか遠い世界だからこそ、余計に尊敬の念が強まっていった。
話の冒頭はここ最近世の中を賑わせている話題などから入って場を温めながら、私たちの様子を見ながら「ここだ」と思った瞬間に落語に入る。
その瞬間は何故か私も息を飲み、都度「次の展開がどうなるのか?」気になって落語にのめり込んでいった。
また曲芸とされる、皿回しや傘回しも初めて生で見たが、見ている私たちも怖くなるほど大胆な仕掛けに、時々会場のあらゆるところで「きゃー」という声も漏れた。
周りは見知らぬ人たちなのに、いつの間にか会場は一体感が生まれていた。時々足がぶつかって、一瞬ドキッとなるが「すみません」と互いに笑顔で謝るし、席を立つ時は自然と譲り合う。このような空間は久しぶりだったように感じる。
いつの間にか閉まっていた2階席のカーテンも空き、2階席にもたくさんのお客さんが座っていた。
私自身、実は朝から顎が痛かった。俗にいう顎関節症で、ストレスが溜まっていると症状が出る。今日は久しぶりに痛みを感じていたのだが、いつの間にかその痛みも消えていた。驚きだ。
ついに最後、大トリの出番になった。
日頃からテレビで見る方だったが、この場でどんな話をされるのだろうかと楽しみだった。
先日亡くなった、桂歌丸師匠のお話からスタート。
「悲しい現実ではあるものの、落語家である以上、寄席でお客さんを楽しませて笑わせる」という想いをお持ちで舞台に立つという話を冒頭にされながら、その後はドッカンドッカン笑いが起き、あっという間に終わってしまった。
「寄席」という場はまさしくパワースポットだ。
ただ座って話を聞いたり、見たりしているだけなのに、目の前の皆さんが作り出す空気にいつの間にか吸い込まれ、元気をもらえる。
正直なところ、「寄席」という場を舐めきっていた。
落語というものを「お年寄りが見るもの」と勝手にレッテルを貼っていた私自身をとても反省し、新たなブームがたくさん起こる今だからこそ、もう一度これまでの伝統に触れるべきなのだと感じている。
私自身も日々仕事などで「疲れたな」と感じることもあるのだが、ストレスが溜まっていたり、何だか元気が欲しいと思ったりした時にはまたふらっと寄ってみようと思う。
だって、「また来てね」とたくさんの人が待っていてくれるのだから。
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