わたしの中に住んでいる家
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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)
わたしは家が好きだ。
いや、正しくは、住宅展示場が大好物だ。
思い返せば、わたしは小学生低学年の頃から住宅設計の雑誌やハウスメーカーの住宅展示場の案内、不動産物件情報のチラシを読みあさっていた。新聞折り込みとしてやってくるそれらを家族の誰よりも早くに回収し、にやにやしながら一人堪能していた。
どんな家が住みやすいかな。
わたしが大人になったら、どういった家をつくろうかな。
この間取りだったら、どんな暮らしができるかな。
もともと地方で育ったわたしは、おそらく日本全体でいえば平均よりやや広めの住環境に身を置いていた。
・家といったら庭があるのが当たり前で、車も二台ほど止めるスペースも確保していること
・来客もあるから、客間もあり、8畳程度の和室が2部屋続いていて宴会ができること
・各部屋に一間以上の広さの押し入れがあって、布団やとして本を収納できること
小学生のわたしは、いくつか条件を立てながら家の間取りやスタイルを偉そうに検証する毎日だった。ときには、住宅展示場のチラシを握りしめて、両親へ物件の良さと展示場へ足を運ぶことに熱弁をふるった。わたしの中で、住宅展示場はとりわけ特別な存在だったのだ。
当時住んでいた家はわたしが5歳の時に両親が建てたもので、汗をかいて働く大工さんたちに差し入れをする母の姿がぼんやりと脳裏の片隅にある。両親たちの思いが詰まった実家は、“家とはこういうもの”という概念をもたらすとともに、家族が暮らすということの意味をも教えてくれていた。
大人になって、やがてわたしは大阪に嫁いだ。いわゆるマチナカ、都会にだ。
大阪に来て間もない頃は、街並みや家の姿かたちに困惑する一方であった。
建ぺい率という考え方はないのかな? 庭がない!
車が1階住宅部分にガレージとして割り込んでいて、部屋がせまい!
間口が狭く縦長で、階段の勾配が急すぎる!
3階建てときいて豪邸をイメージしたけど、延床面積が少ない!
和室2部屋続きの物件がない!
収納スペースの全くない部屋がある!
育ってきた環境との大きな違いに、多く戸惑い少なからずがっかりもした。
だが、意外にもすんなり、その違いはわたしに馴染んでいった。
住めば都とはよくいったものだ。
狭くても庭がなくても生活を楽しむことができるという気づきは、『家は広い方が良い』という自身の常識に大きな疑問を投げかけることとなった。
そして、数年後、わたしたち家族の住まいとしてマンションを購入する頃には、幼いころからの条件は見事に霧散していた。代わりに新しい条件として、夫の実家に近いところ、保育園に近いところ、3LDK以上あることなどの項目がアップデートされた。加えて、広い家は掃除が大変なのでコンパクトに暮らしたい、がわたしの中で重きを置くようになった。
とはいえ、住宅展示場への熱い思いは大人になっても冷めやらず、何やかんやの理由をつけては夫と子どもを連れて足を運んでいる。
一般の住宅よりも華美に、そして多機能につくられた住宅展示場は、まるで別世界のような雰囲気だ。きれいに飾られた家を隅々まで眺めながら、自分自身のテンションが少しずつ上がっていくのがわかる。こんな家もいいな。このインテアリア素敵だな。吹き抜けのある広い空間は気持ちがいいな。ふわふわと気持ちが高まっていく。そして、そんなわたしに声をかけてくるのが住宅販売会社のコーディネーターだ。きっちりとしたスーツに身をつつみ、胸に黒い厚手のファイルを抱いて、決まってこう言う。
「いまのお住まいはどのような感じですか?」
「どのような住まいをお求めですか?」
と。
そして、わたしは大きく現実に引き戻され、また気づくのだ。
いま自分はどんな暮らしをしているのか。そして、これからどう暮らし、生きていきたいのかを。
住むことは暮らすことである。そして暮らすことは生きることである。
わたしは、家に住んでいると思っていた。だが、どうやら違うようだ。
わたしの中に、“家”が住んでいるのだ。
わたしが、わたしらしく生きていくのに必要な家が。
いま、わたしの中の家はこう言う。
「家族5人だから、部屋は3部屋あるとケンカのときや病気のときにいいよ。手狭な家の方が、みんなの距離感が近くてコミュニケーションをとりやすいし、掃除もしやすいからね。床や壁紙はこどもが汚すから、手入れしては辛抱しよう。おばあちゃんちが近いとお互いすぐに行き来しやすくていいね」
その声を聞きながら、わたしもわたしという家もつくっていく。
これまでも。
そして、これからも。
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