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70歳の母がヒップホップ?!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深井沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 

「え? ヒップホップ? お母さんが?!」
電話口で思わずそう言っていた。
「初心者のおばさん向けのだよ。それに、3ヶ月だけだし」
昨年70歳になった母は、声を小さくして、なんだか申し訳なさそうに言っている。
 

今までも、町が企画している運動教室を利用して、ヨガや、インターバル速歩というウォーキング法、バレーとヨガを組み合わせたバリトンというものなどをやっているということは、知っていた。その他にも毎週水曜日にアクアビクスに、もう20年も通っている。
私が実家に帰ると、教えてもらってやっている身体をケアする方法をいろいろと伝授してくれる。そして、例えば、え? こんなポーズ取れるの? とびっくりするようなヨガのポーズをとって、驚かせてくれる。真似をしてみるけど、娘の私でもそんなポーズ取れないよ、と言うような。
 

それが、今度はヒップホップを習うのだと言う。
 

確かに、びっくりした。だけど、申し訳なさそうに言うことなんてないのに。
私は、それを聞いて、むしろ「すごいじゃん!」と母を誇らしく思った。
 

これだけ聞くと、私の母は健康オタクで、もともと身体を動かすのが好きな人と思うかもしれない。
 

確かに、健康オタクな一面もある。私たち子供が小さい時には、身体にいいと聞いたものは人体実験みたいに試されたこともある。風邪を引いて咳が出ている時に、生のレンコンをすってレモン汁を混ぜたものがいいとどこかで聞いてきて、それを作ってくれた。一口食べて、おえっとなって、余計に咳が出た。せっかく作ってくれたのだからと、頑張って2口くらいは食べたけど、ギブアップして「まずくて食べられない」と言ったら、「折角作ったのに」と言った母がそれを食べてみて「ほんとにまずいね」と笑っていたのを覚えている。
 

春になると花粉症で体調を崩すことはあっても、大きな病気もすることもなく、いつも元気で家族の食事を作ってくれていた。それがずっと続くと思っていた。あの時までは。
 

「お母さん、手術をすることになった」
そう電話をかけてきたのは、今から7年前の1月だった。母が、64歳の時だった。
「手術? どこが悪いの?」そう聞くと、脳の手術だと言う。
目の視野が狭くなったように感じて、眼科に行ったら、目の問題ではなく脳だと言われて、病院で検査をしたら脳に直径6センチの腫瘍が見つかったのだと言う。開頭手術が3月末に決まったと、そう淡々と言っていた。
 

それを聞いて、私は少しパニックになった。6センチの脳腫瘍?脳の手術?
そうだ、3年くらい前から匂いがわからないと言っていた。5人目の孫のオムツを取り替えてもにおわないと。あれだって、その脳腫瘍の影響だ。なぜ、もっと早くに気づいて医者に行けって言えなかったのだろう。そんな大きな脳腫瘍、術後、今まで通りの生活はできるの? そもそも、手術できる医者がそんな田舎にいるの? セカンドオピニオンは受けたの? 本当に大丈夫なの?
 

「大学病院から先生が来てくれるって言っている。セカンドオピニオンは受けていないけど、今の先生にお任せするから」
 

それでも、心配で、私がいろいろと言ったら、母は「じゃあ、どうすればいいのよ」と荒い口調で言った。
 

そうだった。一番不安で怖いのは母だった。
 

東京で離れて暮らしている私は、その時医療機関に務めていたので、できるだけの情報収拾をして、自分と、母を安心させることをした。手術ができる位置に腫瘍があるということだけでもありがたいことだった。
 

手術が近づいた3月、東日本大震災が起こる。
実家のある場所は、あまり影響を受けることはなかった。
そして、3月下旬に予定通りに手術は行われた。
 

母は、9時間の手術に耐えた。
術後、会えた時には、「ご飯は食べたの?」と私たち家族を気遣う、いつもの母だった。
 

手術後の入院期間で、私たちはいろいろな話をした。
母は脳腫瘍があるとわかった時に、お医者さんが言ってくれた一言で手術をすることを決めたのだという。
 

「まだ64歳ですから、手術を勧めます」
その時、母は、自分のことを「もう64歳」と思っていたそうだ。先は短い。変わらずにこのまま年をとって死んで行くのだと。
それなのに、先生は「まだ」だと言っている。まだ、なのだとしたら。
 

この手術を境に、母は変わった。それは、東日本大震災の前後くらいに。
匂いを感じることは戻らなかったけれど、その他の後遺症は全くなかった。
変わったのは、人生に対する見方だ。
 

「残りの人生で今が一番若い」それを地で行く人生になった。
 

「退院したら何がしたい?」と聞いたらすぐに答えが返ってきた。「リフォーム。もうあの煤けた天井は見たくないの」
それを聞いた父はとても喜んだ。母に何度か確認してしないと決めていたリフォームをその年の8月に実現した。母は、使いやすくなって気に入った家に住み、夫や、娘の家族のために美味しい食事を作っている。
 

そして、健康のための身体を動かすことや、絵手紙などのたくさんの趣味にチャレンジして、人生を楽しんでいる。
 

そして、今回、娘の私でもやろうなんて思わないヒップホップをやってみるなんて!
 

年を決めるのは年齢ではなく、自分次第なのだということを、母から学んでいる。
 

まだ47歳。さて、私は何にチャレンジしようかな。
あなたは何にチャレンジしますか?
 
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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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