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嫉妬も案外悪くない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:濱田 綾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
自分は、自分でいい。
 
そう思うことは、何でこんなに難しいんだろう。
今でも、そう思えないことはたくさんある。
目の前の強い光を放つ人に憧れたり、嫉妬さえ覚えたり。
たくさんの感情が生まれる。
でも、そんな感情が生まれることは、ある意味とても幸せなこと。
そう思えるようになったのは、紛れもなく「憧れの人」のおかげだ。
 
 
5歳から習っていた日本舞踊教室でのこと。
人と比較される。
自分自身が、人と比較する。
そんな体験をしたのは、あの時が初めてだったかもしれない。
「私は、あんな風には踊れない」
小学校最後の年。
私は、羨ましい気持ちが嫉妬へと変わり、どんよりと重たい気持ちでいっぱいだった。
 
教室の中には、ひときわ華がある2つ上のお姉さんがいた。
舞踊というのは、ある意味とても残酷だと思う。
小さい頃は、その愛らしい存在感だけでよかった。
幼いながらの一生懸命さが、見るものを惹きつける。
ただ、ある程度の年齢を重ねていくと話は違う。
上手い、下手はもとより、心が動くか。
同じ演目を踊っていても、その人によって、まるで違って見える。
何というのだろうか。
その場にいるだけで目を引く人がいる。
文句なしの存在感を放つ人がいる。
それは一人で踊っていても、数人で踊っていても。
いやおうなしに惹きつけられる。
そして、その観客の反応は、踊っている人自身が手に取るように分かってしまうのだ。
 
そのお姉さんのことを認めたくない。
練習中でさえ、強い光を放つ。
同じ教室の仲間も、そして、私も惹きつけられる。
すごい。認めざるを得ない。
でもすごいを通り越して、羨ましいを過ぎて、悔しいに変わっていく。
ちょうど、自分の踊りについて悩んでいた時期でもあった。
自分の踊りって何なのか。
もう、かわいいだけではだめだ。
何が必要か。
振り付け通りに踊ったとしても、つまらない。
どうしたらいいのか。
お姉さんは、何であんなに人を惹きつけるのか。
私は、何であんな風になれないのか。
つい、比べてしまう。
そして言い訳を探す。
2つも年が上なんだし。先に習っていたんだし。
そうやって自分を納得させようとして、見ないようにする。
そんなことを繰り返していた。
 
そんな日々の中。
舞台の演目が発表されるときに、先生が言った。
「綾ちゃん。あなたはここが、勝負どころ」
「自分の踊りを見つけるためには、今しかない」
優しい先生だったけれど、その眼はいつになく真剣だった。
そして、その真剣さが怖いとさえ感じた。
 
分かっていた。今しかないこと。
ここで逃げていたら、この先も何も変わらないこと。
でも、怖かった。
何かのせいにしていたら楽だから。
お姉さんを「憧れ」にして、こうなれたらいいなと思っていれば、自分は変わらなくてもいいから。
私は、どうやってもお姉さんにはなれない。
自分の踊りを見つけるには、そのことを認めるしかない。
「憧れ」にはなれないことを認めるしかない。
苦しくて、悔しかったけれど、そこから始めるしかなかった。
 
それからは、自分の踊りを見つける。
そのことだけを考えていた。
といっても、何から始めていいのか分からなかった。
だからとりあえず、認めたくなかったお姉さんの踊りをよく見るようにした。
何が、それほど人を惹きつけるのか。
やっぱりお姉さんは、抜群のセンターだ。
どうやったって、私はセンターにはなれない。
見れば見るほど、自分にはできないと悪循環になった。
今までの私だったら、そこでまた言い訳していたけれど。
その時は、先生の真剣な眼が忘れられずに諦めたくなかった。
そして先生に聞いてみた。
「どうしたら私の踊りが出来るのか、分からない」
いつもの柔らかい口調で、先生が言った。 
「踊りは誰のため? 自分のため?」
「この演目はどういうものかな。そして、あなたはどう表現したい?」
 
そうか。演目の意味なんて考えたことがなかった。
誰のためなんて考えたことがなかった。
それまでの私は上手いねって、とにかく褒めてほしかった。
認めてほしかった。
自分のためでしかなかった。
 
そこから、曲調を味わってみたり、歌詞を見たり。
その背景を考えたり。
自分なりに、演目を考えてみた。
そして私がこの主人公なら、こうするだろう。
こう歩くだろう。そんなことを考えながら踊っていた。
そうやっているうちに、だんだんと考えるという感覚がなくなって。
舞台の上ではまるで、本当にその演目の主人公のような。
感情が一体化するような、不思議な感覚になっていった。
だから舞台袖で待機してから、終わって幕が下りるまでの記憶があいまいなことが多くなった。
熱を帯びる感覚というか、あのぞくぞくした感じが、私のモチベーションになっていった。
もちろんお姉さんは、あれからもずっとセンターだったけれど。
私の感情は、重たいものではなくなっていた。
お姉さんのことはやっぱりすごいと思うけれど、いつからか比較をしなくなっていた。
あの熱を帯びた感覚が、私を嫉妬から解放してくれていた。
 
そんな風に踊り続けて、数年。
引っ越しのため、教室を離れる日が来た。
「あなたの踊りの、あの空気感は、あなたにしか作れない」
「それに触れたときに、何故か泣きそうになるほど心が震えることがある」
先生が言ってくれたその一言は、泣きそうになるくらい嬉しいものだった。
 
自分は、自分でいい。
初めてそう思えた瞬間だった。
 
 
センターにはなれなくても。
自分が描くような姿ではなかったとしても。
それでも、自分にしかなれない姿は必ずある。
自分だけの何かには、必ず出逢える。
そして、それは「憧れ」を感じる存在だったり、嫉妬だったり。
そんな、色んな出逢いや感情から生まれるもの。
きっと自分だけの世界だったら、そんなことも考えないと思うから。
出逢いから生まれる感情は、自分を見つめるきっかけをくれる。
 
だから、憧れや羨ましさ。
時には、苦しくなるくらいの嫉妬があっても。
それは、ある意味幸せかもしれない。
そんな日々の中で逃げるのではなく、時にはもがきながら。
 
自分は、自分でいい。
 
簡単ではないけれど。
そう思える瞬間を積み重ねていけたら、幸せだなと思う。
 
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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