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メディアグランプリ

親が死んだらもう死にたいと思ってた私を変えてくれた一冊


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:林絵梨佳(ライティングゼミ木曜コース)
 
 
親が死んだらもう死にたい。
 
その考えに囚われ続けていた。
そんな筈はない。私の人生は親のご機嫌伺いのためだけに存在するようなものではない筈だ!
そう思って何度も私の半生を振り返ってみるのだが、思い出せない。
私にとっての「生きる歓び」みたいなものが何だったのか。
 
ごく普通の優しい両親、妹想いの兄の家庭に私は生まれてきた。
正直、もったいないぐらいに愛されて何不自由なく育ってきた。
親から「宿題をしろ」と怒られたことが一度もない。やらなかったらやらなかったで、夏休みの終わりに母が手伝ってくれた。母はぶつくさ言いながらも小学校3年生の理科の問題を楽しそうに解いていたのを覚えている。母は天文に詳しくなり、星座に興味を持った。
私は楽しそうな母を見て、自分で宿題をやらなかったことを後悔した。
「楽」をするために「楽しいこと」を一つ、自ら放棄してしまったのだ。
 
だから、自分で考えて決める。
いつだってそうしてきた。
否。
そうさせて頂いていた。
やりたいようにやらせてもらえていたのだ。
 
どこへ行っても私はそこそこ上手くやるのが得意な方だった。
職を転々としても、どこでもそれなりに楽しくやっていた。
しかし、ある時どうしても上手くできない仕事にぶつかり、挫折した。
 
「私がいるのはここではない」
「やっぱりやりたいことをやらなくては」
 
そういう想いで昔からの夢だった世界に何とか転職した。
初めは慣れない仕事に失敗続きで自信を失くした。憧れの仕事ということもあり緊張感も今までの仕事とは違った。
それでも何とか経験を重ね、アルバイトから社員の職に就けたのは、20代ももう終わろうという時だった。
 
これが私の天職だ、と思った。
私は頑張ったから夢が叶ったのだ、と思った。
たまには辛いこともあるけれど、毎日勉強になることばかり。
職場の人間関係にも恵まれ、尊敬し、励まし合える良い仲間に囲まれて働いていた。
そして何より私を必要としてくれる人達がいる。
順調な将来を思い描いていた。
 
そこで、突然うつ病に罹った。
 
まさか、何故、今?
信じられなかった。
気持ちはこんなに元気なのに? 誤診では、と思った。
しかし体は全く動かなかった。気持ちとは関係なく涙は勝手に垂れ流れた。
自律神経が完全に壊れてしまっていた。医師の診断は正しかった。
 
退職し、療養に専念してしばらくは、うつ病について図書館で勉強する日々だった。
それでこの病気がここ最近2、3年を振り返ればいい話ではなく、今まで生きてきた32年とこれから寿命までの数十年を考えて付き合っていかなくてはならない病気だとわかった。
 
途方も無い。
 
前の職場以上に私に合う仕事が見つかる気がしなかった。
何より、回復して復職できたとして、再発した時にまた周りに迷惑をかけるのが恐怖だった。仕事仲間がいい人であればあるほど恐ろしい。築いた人間関係を壊すことが、信頼を失うことが、怖い。
 
できれば働きたくない。
今の私に何ができるのか。
何も出来ない。
もう考えるのに疲れてしまった。
死にたいけれど、親は悲しませたくない。
だから生きなくては。
生きるためには働かなくては。
でもできれば働きたくない。
 
という堂々巡りで悶々としていた時に偶然この本を読んだ。
「『働きたくない』というあなたへ」(山田ズーニー、河出書房新社)
 
教育関係の企業で高校生向けの小論文指導をしていた筆者が、「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載していたコラム、「おとなの小論文教室。」を収録したものだ。
 
本書はこれから社会に出る、まだ働いたことがない若い人達に向けたメッセージを主に書かれている。
まだ働いたことがないのに(ないから)、働くことに魅力を感じていない学生達。結婚して楽しく自由に生きていくための「添え物」として仕事を捉えている若者達に警鐘を鳴らしている。
ここで言う「働く」ことはお給料を貰うものだけではなく、専業主婦でも、ボランティアでも、自分の居場所にしっかりと身を置くことで繋がる「社会とつながるへその緒」のことを指している。
 
正直私の「働きたくない」のケースには当てはまらない。
しかし、これを読んで私は猛烈に「働き」たくなった。
私が渇望しているものが何なのか明確にわかった。
否、わかっていたのだが目を逸らし続けていた。
さすが、高校生向け小論文指導の手腕を持った筆者である。
ぼーっとした私の頭にも明朗に響く簡潔で優しい文章で、斜め後ろに逸らしていた目を、もう一度真っ直ぐ前に向けてくれたのである。
 
そもそも、転職する前の反省の仕方が間違っていたのだ。
「私がいるのはここではない」というのも、
「やっぱりやりたいことをやらなくては」というのも、
上手くやることが出来なかった自分を省みていないのだ。
向いてないから、やりたいことじゃないから、あまつさえ、教えてもらってない、とか、他人や環境のせいにしていた。本当は出来ない自分が恥ずかしくて惨めで、認めたくなかったのだ。
 
内面が全くレベルアップしていないのに、環境だけ運よくトントンとステップアップしていたのだ。
 
このことに気付かせてくれたのがこの一節。
 
「婚活ブームに便乗した商法で、まるで、『結婚』をパッケージのように売ろうとしているかのようなものに、でくわすことがある。でも私は、『結婚』というキットには、ひとつ、入っていないものがあると思っている。」
 
それは何か。
 
「それ」は新しい家電に時々書いてある「電池別売り」の「電池」にも例えられている。電池が無ければ家電は動かない。
社会がパッケージ化して提供してくるキット、その箱には何もかも揃っているように見えて魅力的だ。安易に手を出してしまう。「玉の輿」もそう。「宝くじ一等当選」なんかもそうだろう。
だけど、「それ」は入っていない。
「それ」は自分で見つけるものである。または工夫してつくりだすものである。
 
私は「憧れの世界で活き活き働く私」という箱に酔っていたのだ。
私の電池がその箱に合わず、漏電しているのに、無理やり動かし続けようとした。
 
私の器と魂の乖離を、無視してぞんざいに扱ってしまった結果だ。
 
本書は働いたことがない若い人のためだけのものではない。
「それ」を探してつくりだすことを忘れてしまった、サボってきてしまった大人達のための本でもある。
 
***

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2018-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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