おしゃれは歳を取るほどその真価を発揮する
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:黒田美祐(ライティング・ゼミ日曜コース)
先週一年ぶりに、曾祖母が住む施設に行った。
この施設では毎月、その月のお誕生日の方を祝うため、家族も呼んでお誕生日会を開催している。毎日通っている祖母と違って、私たち家族は一年でこの日だけしか、会いに行けないでいた。
「一番奥に座っておられる辻井さんは、10月の最長寿、99歳になられましたー!」
施設の方がそう言うと、他の入所者の方や集まったご家族の方から、わっと歓声が上がった。
当の本人は、何もわからずずっと首を動かしている。
「老いたなあ」と心の中で思った。
認知症で要介護レベル5の大きいおばあちゃん(私たちはそう呼んでいる)は、今年で99になった。昔は手芸が好きで、貝のキーホルダーやティッシュケースなどたくさん作っては遊びに行くたびにお土産をくれ、その小さな体のどこにと思うほど酒飲みの元気なおばあちゃんだった。
ほんとに、つい5,6年前の話である。
それでもその日は顔色も良く、栄養士さん特製のりんごプリンもペロッと食べた。それが大きいおばあちゃんの、「元気」ということの証だ。
「老い」というのは、人間誰しもが直面する現実だ。捉え方は人によるけれども、大体「悲しい現実」というような消極的な意味を含んでいるように思う。
20代前半、まだ老いとは無関係な私だが、自分の性格として、周りよりも老いに対する恐れが強い、というのを昔から感じていた。
それはたぶん、小さいころから人より美に対する憧れや意識が強かったからだろう。昔から、美しくなりたいと思っていた。とりわけ、おばあちゃんになっても綺麗でいたいという思いが強かった。日焼けしてシミになったらいけないと、中学2年生から日傘をさし、大学生になっても、毛穴が詰まったらいやだとめったにファンデーションはつけなかった。我ながらアホだと思うこともあるけども、今よりも将来の美しさを大事にしていたのだ。
だから、最近親の白髪が増えたのを発見したときも、なかなかショックだった。親の老い。一般的にも、親の老いは自分の老いよりも悲しいと聞いたことがあるけど、確かにそうだった。なんだか、確実に自分より先に(当たり前だけども)人生の下り坂にさしかかっているような感じがして、やっぱり年を取るんだなと少し悲しくなった。
大きいおばあちゃんはその日、先日母があげたちゃんちゃんこを着て、頭にはウールの室内帽をつけて、いつもよりちょっとおしゃれにしてもらっていた。写真撮影の時に手がかすって帽子が脱げてしまったので、祖母が寒そうな頭にもう一度かぶせる。その帽子を見て、私はちょうど前の日に仕事で接客したおじさまを思い出した。
「よろしければお伺いいたしますので」
帽子のイベントがあり百貨店で接客していた私は、女性ものの売り場に迷い込んだその男性を見つけると、すぐに話しかけた。婦人雑貨に来るお客さんはもちろん9割がた女性で、男性が一人のときは大体プレゼント探し。男性は早く決めてしまいたいという方が多く、また大体こちらがすすめたものを買ってくれるので、非常に接客しやすいお客様である。内心、よっしゃ! と思いながら話しかけたのだ。
だが、その男性は違った。
私のひと言目に反応して、「母にプレゼントで」と言ってからまもなく、寝たきりのお母様のことをぽつり、ぽつりと話し始めた。
「髪の毛がないので、ハゲ隠しに、おしゃれな帽子でもと思って。部屋の中でも、ずっと着けれるようなやつを。どんなんがいいか、わからないんですけど」
「さようですか。でしたら、こんなのはいかがですか? お部屋の中でもかぶっていただけますし、お外でも十分おしゃれに見えます」と小さなリボンとパールの付いたニット帽を手に取った。
「カシミヤなので普通のニットよりも暖かいですし、伸びもいいのでずっとかぶっていられるんです」
「あー。いや、もう外には出なれいので、部屋の中だけなんです。先もそんな長くなくて、寝たきりなので。部屋の中なので、そこまであったかくなくても。それに、ニットよりも、なんて言うんですかね、こう、ちょっと形のある、おでかけっぽい感じの方が……」
先が長くないなんて言わせてしまったことに、しまったと心の中で思いながら、「それでしたら」と何個か持ってきて、めげずに説明を始める。
その後も、やっぱりつばのある帽子は食事の時に邪魔かもしれない、とか、色は明るい方がいい、髪の毛が抜けるので付きにくい素材の方がいい、サイズ調整テープも取り除く髪の毛が見えやすいように黒以外がいい、など、盛りだくさんのご要望を聞きながら、ほぼ全部の帽子を紹介し、結局いちばん最初のニット帽に決まった。
最後に、「右からも左からも見て楽しくなるように、この、リボンと反対側に、パール付けてください」とイベントのパール付けをオーダーしてくれた。
一時間近くたっていた。でもよかった。周りの販売員さんたちには「大丈夫だった?」と苦笑いされたけども、その男性は最後何度も何度もお礼を言って、「良いものに会えてよかった」と嬉しそうに帰ってくださった。
その男性にとってはたぶん、ものなんて何でもよかったのだと思う。ただお母様の毎日を少しでも、明るく楽しくしてあげたかったのだ。いろいろ沢山考えて、どれが一番、お母様を明るくできるか、求めていたのは、それだけだったのだ。
自分の大きいおばあちゃんの姿を見て、昨日の男性の気持ちが手に取るようにわかった。
少しでも毎日を明るく。少しでも楽しみがあったら。ちょっとでも綺麗に見えたら。
「老い」ることは怖い。でも、白髪が増えても、髪の毛がうすくなっても、おしゃれな帽子はかぶれる。顔がしわしわになっても、背中が曲がっても、ちょっと何か付けたり、おしゃれして、毎日を楽しくすることはできる。そんな時のおしゃれはきっと、今私がしているものよりももっと大きな楽しみになるし、大きな価値がある。だから歳をとったって、心配することはない。
少しでも大きいおばあちゃんが美しくなるように、毎日が楽しくなるように。人にばかりすすめてないで、自分のおばあちゃんにも、可愛いカシミヤのニットをプレゼントしようと思います。
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