メディアグランプリ

平凡だと思っていた生活が一変した瞬間〜これってストーカーなの? 〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松原 さくら(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「ここだけの話にして欲しいんだけど、これはストーカーだと思う」
サヤカは、こう切り出した。その日は、大学時代にジャグリングサークルだった仲間の中の5人で飲んでいた。
ジャグリングというのは、長い縄跳びの縄を2人が両手で2本持って回し、音楽に合わせて踊るようにジャンプする競技で、多くの大学にサークルがある。
 
「だから翔はこれ以上被害が出ないように、気をつけた方が良いよ。でないと恐いことが起こるかも知れない。もしかしたら、これまでみたいに翔と仲が良い女性をミキが攻撃するだけじゃなくて、翔、自身が被害を受ける可能性もあると思う」
 
サヤカの言葉に、その場にいた仲間は、やや驚いた表情でじっと聞き耳をたてた。
ついさっきまで楽しく熱のこもった恋愛話をしていた。ところが、5年間も翔のことを片思いしているミキの話になったとたん、急に深刻さを増したからだ。
 
「この間、アユミと翔の2ショットをSNSにアップしたり、コメントでやり取りしたりしたのを見て、嫉妬したんだよ、きっと」
「私、ラブラブな彼氏が別にいるのに、翔のことをミキから奪おうとしてる! みたいな言いがかりを受けて、毎日ミキにめちゃくちゃ怒られたんだよ。もう、しんどくてお腹もすごく痛くなっちゃって……」アユミが本当にひどかったとグッタリうなだれて言った。
「俺は、これまでミキに何回も好きって言われた時、毎回ちゃんと断ってんだよ! なのに、いつも次の日に『やっぱり好き』って言われて、もうどうしたら良いか解らないんだよ。しかも、アユミと2ショット写真撮ったぐらいでそんな……」翔は、ストレスが溜まった様子で困惑していた。
 
ミキはとても真面目な性格で、何かを信じ込んだら一途に一寸の疑いなく尊敬するようなところがある。
大学生時代のジャグリングサークルでは、会計や飲み会の予約など、雑用を率先して全てやってくれていた。
自分から言い出した役割なのに、いつも不満を抱えていて急に泣き出したりすることもあった。
 
翔は、どうやら好きな人はいるようだが、ずっと彼女を作らずにいる。いつも、ちょっと仲良くなっても、すぐにミキが相手の女性を攻撃してダメにしてしまうのだ。
 
「サヤカ、俺の偽装彼女になってよ。そうしたらミキも諦めてくれるかもしれない」
「偽装彼女を作っても効果はないと思うよ。ストーカーはどんな事があっても自分の都合の良いように解釈して、また攻撃するだけだよ」
「そうかなあ。どうしたら良いんだろう。アユミ、本当にごめんな」
「いや、翔が悪い訳じゃないから」
「ストーカー対策についてちょっと調べたんだけど、相手には礼儀正しく対応して、なるべく距離を置くのが良いみたい。できれば第三者を通じて伝えるとか。ジャグリングボランティアの会計や雑務を頼むのも良くないと思うよ」
心配性のサヤカがみんなのためにと一般論を話した。翔は苦しそうに苦笑いしていた。そして小さな声でつぶやいた。
「でも俺は男だしな」
その場にいる全員が、「ストーカーというのは言い過ぎで、そこまで酷い事にはならない」と考えていた。
 
 
それから1週間が経ったある日、ミキと翔はジャグリングサークルOB会で子どもたちにジャグリングを教えるボランティアの役割について話していた。
ミキは翔の顔をウットリしながら見つめている。そうして、いつものようにミキがたくさんの役割を担うことになった。翔はジャグリングサークルOB会で活動する時の取りまとめ役として、ミキに役割をお願いしているのだ。
ボランティアの打ち合わせが終わったのを見計らって、ミキが翔に言った。
「私、翔のこと本当に好き」
「俺、彼女できたんだ。だから、もうその話はやめてくれ。何度も言ってるけど、ミキとは付き合えない」
「翔、どうして? 私が誰よりも一番、翔のこと解ってるし、何でもしてあげられる。絶対に私が一番、翔の事好きだよ」
「そういうことじゃないんだ。とにかく彼女ができたから、もう好きとか言わないでくれ」
翔は彼女ができた訳ではなかった。しかし、なんとしてもミキに諦めてもらって解放されたかった。嘘をついたのだ。
 
「信じられない……」ミキは放心状態だった。何年も心の支えだった翔から、完全に拒絶されたのだ。
そこから、ミキは翔に執拗にSNSや電話をし始めた。翔の行動を予測して待ち伏せし、翔に一番好きなのは自分だ、と訴えた。
 
「サヤカ、俺、ミキから毎日何十通もメッセージがくるんだ。待ち伏せもされて、もうおかしくなりそう……」
「翔、彼女がいるっていきなり突っぱねたの? やっぱり少しずつ距離を置いていった方が良かったんじゃない? あと、ジャグリングの役割、やっぱり頼んでたんでしょ? ミキは頼まれたら、自分は翔の大事な人だと勘違いするかも知れないから、それももう頼まないって覚悟して、ミキとの繋がりをなくしていかないと」
「ジャグリングボランティアの会計もしてくれるのは有難いんだけど。好きとかが困るだけで」
「ストーカー規制法ができたのは、大丈夫だと考えていては被害が大きくなってしまうからなんだよ。生きるか死ぬかの状況で、ジャグリングの役割だけはお願い、なんて言ってられないんだよ!」
「サヤカが言っていることは解るよ。でも今俺は一体どうしたら良いんだ!」
「警察にいって相談することができる。あと弁護士に依頼して、裁判所に6ヶ月間の謁見禁止命令を出してもらうよう申請することもできる。あと、NPO法人でいくつか、相談できるところがある。男性側からの訴えは少ないと思うけれど、相談はできるはずだよ」
 
 
多くの人が、人生のほとんどの時間を平和に過ごせる現在の日本で、一体どのくらいの人が緊急事態に備えることができるのだろう。
自然災害でもそうだ。地震や水害に備えたり、避難勧告のメッセージで避難したりするための防災意識を高めるのは難しい。どうしても、被害に合って初めて危機感を持つことになる。
これは、ストーカーに備える場合にも、同じことが言える。自分が本当に痛い思いをしないと、危機感を持って備えることは難しいのだ。
 
その後、翔は弁護士に相談して、ミキと直接連絡を取らず、間に入ってもらうことにした。ジャグリングサークルをどうするかは、一旦保留だ。ミキが心から納得して仲間と新しい関係ができる可能性は少ないだろう。おそらく、どちらか一方か両方がサークルを辞めることになるかも知れない。しかし、全員の安全を守る方が最優先だ。危機感というのは、命を守る防衛本能でもある。そう、全員の命を健やかに保つよう、守らなければいけない。命があれば、また、何か新しい事も始められるのだから。
 
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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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