メディアグランプリ

冷めてて美味しい女の作り方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
 
 
「だからお前はダメなんだ!」
と数も思い出せないくらい言われたセリフを、私は今日も受け止めている。
だから、次に来るセリフもわかりきっているのだ。
「もう少しなんだけどなあ」
何かを成すために、常にあと一歩足りない。
賞も取れない、一番にもなれない。
そんな、どうしようもない私にさえ、世間は“温かい”。
「本当に冷めてるよね」
どうしようかと考えてくれる人の唸り声を、私は今日も聞き流している。
 
熱意が感じられない、とは昔からよく言われていた。
楽しいことがあっても笑わない。寂しくても涙を流さない。
熱意云々以前に感情が顔に出にくいタチなのだ。
……クールとか冷静とか言えば聞こえは良いが、実際は不便なことばかりだった。
「もっと本気でやれ!」
「やる気を出せ!」
ただでさえ苦手な体育で死ぬ気で頑張っても、誰も褒めてくれなかった。
だって周りには“やる気が無いからやってない”ように見えるのだ。
「まあ、しゃあないか」
『やっとるわ!』と言えたらどれだけ楽だったろう。
最初のうちは怒りと悔しさでいっぱいになっていた胸の内も、慣れてしまえば何も気にならなくなっていた。
 
「ちゃんとやってるもん!」
 
……それでも、半ば過呼吸になりながら走った校庭で、泣きわめく友人を横目に見たとき、それがひどく憎たらしく感じたのも事実で。
「なんで私ばっかり」
そんな汚い感情ばかりの自分が嫌で嫌で、なんとか押し込めて校庭を走り続けた。
 
だから、罰が当たったんだろう。
「俺のことなんとも思ってないでしょ」
「え、ああ、うん」
何が、とは聞けなかった。
中学校何年生だったかの春、放課後の図書室。
そこに男女の図書委員が揃ってしまったばかりに、悲劇が起こってしまったのだ。
「引き留めようとも思ったけど、興味ないんだなって諦めたわ」
……この人が私のことを好きだというのは、なんとなく雰囲気で察していた。
友人が、大して話したこともないようなクラスメイトが、不思議な空気を醸し出していたのだ。
 
「好きだった」
 
ぼそっと落とされた声変わり前のアルトを、今でもぼんやり覚えている。
……でも、もっとはっきり覚えているのは、
「で?」
“だから?”とでも言いたげな、彼よりもっと低い私の声で。
「え」
「だから、なんで?」
だって、理解が出来なかった。
私のことを好きな理由も、過去形になってしまった理由も。
今ここでそれを言う必要があったのかどうかも。
……ただ、分からないから知りたかっただけなのだ。
「そういうとこ」
それでも、そうやって話し始めてくれた彼は“温かい”のだろう。
……このときどんな顔をしていたか、もう覚えていないけれど。
「思ってたのと違って」
「うん」
この後のセリフだけはいつだって変わらないのだ。
「冷めてるよね」
ああ、またか。
確かそのときも、今も全く同じことを考えていたのだ。
 
これだけ冷めてると言われれば、雪の女王もびっくりだろう。
……だけど、まだ薄情者になったつもりはないのだ。
「なんだかんだ優しいよね」
「明日槍降るわ」
「優しいに免じて、幸運を祈っとくよ」
まだ、人を助けようという意思はあるのだ。
誰かのためを思って行動はしようと思えるのだ。
……自分で言うのもなんだけど、お人好しだと思うし。
ほら! 私ひどい女じゃないでしょ!
「冷めてるね」
だけど、それでもまだ私は“温かい”に仲間入りできない。
いつまでたっても、体の中に熱意は宿らない。
「どうしろって言うんだ」
ただただ腹の中で煮えくりかえる“温かい”への執着だけが、かろうじて私をお人好しにしていたのだ。
 
「まあ、しょうがないよね」
 
この一言で気持ちがスッと軽くなるから、私はコレをやめられない。
熱意が生まれないならしょうがない。諦めよ。次、次。
この後何かが憎くなっても、友人から進まなかった彼のことを思い出せなくても。
どうせ過ぎたことだ、次へ、次へ。
“温かい”の内側に入れない、私にできることを!
 
「やっぱりさ、コバヤシ違うわ」
 
頬杖をついていた私は、完璧な不意打ちに思わず顔を上げる。
どう頑張っても熱意なんて生まれなかった会議の終わり、急にそんなことを言われてゾクッとする。
……ああ、またか。
いつも通り、そう身構えて、
「第三者視点あると違うよな」
冷たい地面に足を下ろす準備をしていたのに、急に元の位置に戻された。
思わずポカンとする私など知らないと、友人は続ける。
「やっぱり、アツくなる奴ばっかじゃダメだよ。収拾つかなくなるもん。だから、今日はありがと」
またね、と置いてきぼりにされたまま、私はやはり“寒気”がしていた。
「なんだ、冷めてても許してくれるじゃん」
冷めていることは罪じゃないって。
そんなおと一言も言ってないけど。
勝手にそう言って貰ったように感じて、私は初めて“寒い”と分かる場所に立てた。
“温かい”外側に、自分のポジションを見つけることが出来たのだ。
 
「冷めてるよね」
もう何度めだか分からないそれを、今日も受け流そうとしてやめた。
「なんか悪いことでも?」
今なら、冷めてても“温かい”外側に立てる。
だから、今度は冷めててもいい女になりたい。
私の胸が、初めてアツくなった気がした。

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2018-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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