メディアグランプリ

登山って意味ないじゃん。でもだから楽しいのよ


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記事:北 堅太(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
大学入学後、まずは新歓というイベントがある。コンパやイベントに参加して、どのサークルに入るかを決める。もちろんいくつ入ってもいいし、どこにも入らなくてもいい。強制ではないゆるい選択だ。
 
ぼく自身は大学時代、登山サークルに所属していた。春はサークル員とともに毎週末。夏もサークル員とともに一週間の登山。これを三年間繰り返していた。
 
それまで登山経験はなかった。しかも自然が好きなわけじゃない。汗を書くのが好きなわけでもない。集団行動が好きなわけでもない。むしろ全部キライだ。虫とかごめんだし、なるべく運動はしたくないし、ひとりで行動する方が気が楽で好きだ。
 
今でも「登山が好きか」と問われても、迷いなくぼくはキライと答えるだろう。登山はけっこう面倒だ。専用の靴、雨具、リュックなどもろもろの装備品を揃えないといけない。買わずに自分たちでごはんをつくる気なら、ガスや食器、食材なども全部用意して、リュックに詰めて運ばないといけない。泊まる気ならテントも必要だ。そして登山好きは、たいてい泊まるし飯もつくる。サークルは登山好きだらけだから、泊まるし飯もつくる。ぼくの荷物も増えていく。ああ、面倒なこった。
 
「それならなんで入ったんだ?」
 
そんな質問が飛んできても、当然だと思っている。そして、そんな質問には、ぼくはビクともしない。そんな質問、在学中に百も食らってきた。新歓のたびに後輩からたずねられた。ぼくは答え慣れている。
 
「そこに山があるから」
 
なんてふうには、答えはしない。これは答えになっていないし、もはや常套句になってしまった。こんな没個性な回答を、生意気なぼくはしたくない。聞きたいのは、そこにある山に登る理由。ぼくは次のように答えている。
 
「意味がないからね。登山って」
 
そう、登山には意味がない。これっぽっちの意味もない。山まで行き、山を登り、山で過ごし、山を下り、家に帰る。これが登山。べつに何かを生むわけでもない。ただただ勾配を登って下りるだけ。それこそが登山。
 
達成感。ほかの人ならいざ知らず、ぼくは感じない。景色。ほかの人ならいざ知らず、ぼくは興味がない。おいしい空気。ほかの人ならいざ知らず、ぼくは吸っているだけで特に意識はしていない。どれも全部、ぼくの登山の目的ではない。なんならそもそも目的なんかない。意味もなく登って下りるだけだ。
 
お金もかかるし、時間もかかる。体力も削られる。費やすものばかりだ。けれど意味はない。ただ、お金と時間と体力とを費やすだけ。それだけのために登山に行く。少なくとも、ぼくの場合はそれだけだ。
 
ここで考えてほしい。意味がないことの重要性を。意味がないことの贅沢を。意味がないことをできるのは人間だけだ。動物は生きて暮らしていくために、山に暮らす。でも人間は、特に意味はないけれど山に登る。この贅沢と幸運を想像してほしい。人間はラッキーなことに、生活に不要なことをしてもいい。生きるために必要ではなくとも、気分で意味もないことをする。
 
アクティビティとはそういうものだ。アクティビティはどれに
も特に意味はない。サッカーでボールを蹴るのも、ゴルフでナイスショットを打つのも、カラオケで歌を歌うのも、激流の川を下るのも、生きていくうえではまったく関係がない。アクティビティは生活と切り離されている。これは贅沢なことだ。明日生きるか死ぬかの心配をせずに、人間は遊ぶことができる。気を抜くと肉食動物に食べられるなんてことはまずない。
 
ぼくはいつも登山に行って「ああ意味ないことしてる。うれしい」、「ああ無駄なことしてる。たのしい」だなんて考えている。これはもしかしたら、ぼくがひねくれているだけなのかもしれない。確かにぼくもちょっと、自分のことをいやなヤツだと思うこともある。それでもこの考えは間違ってないと思うし、いつもこの感覚を味わうために山に登っている。
 
この発想はおすすめだ。余暇活動をしている時、それがどんな内容であれ「これは人間にしかできない。人間に生まれてよかった」と思えれば、その時間に対する感謝の念が起こってくる。恵まれている自分を、謙虚に見つめることができる。いっしょにいる仲間を祝福することができる。
 
「ぼくら幸せだ。こんなことに時間使っていられるのだから」
 
この気持ちが素直に出てくる。全員がこの気持ちになれれば、お互いケンカしたり遠慮したりして、余暇がつまらなくなるなんてこともなくなるんじゃないかな。
 
あれれ、ぼくはやっぱり登山が好きなのかもしれない。まあ、それでもいいか。
 
 
 
 
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2019-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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