ロシアの文豪は社会の縮図? ドストはクズだし、トルスは説教くさい
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記事:上西幸江(ライティング・ゼミGW特講)
ロシアには、「黄金の19世紀」と呼ばれる時代がある。この時代のロシアでは、後に文豪といわれる作家陣が多く誕生した。フョードル・ドストエフスキー、レフ・トルストイ、アレクサンドル・プーシキン、ニコライ・ゴーゴリ、イワン・ツルゲーネフ……。と、書いていくと、いかにも難解そうで、なんだか近寄りにくい印象を与えるかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。
ロシアの文豪だって、人である。まだロシア文学を読んだことがない人のなかで、もし「難しそう」「理屈っぽそう」という偏見を持っている人がいるのであれば、人が書いたものが、本当にそんな崇高なものばかりなのかと考えてみてほしい。彼らは人間である。どう考えてもそんなはずはない。文豪という言葉に惑わされているが、個性豊かな、ちょっと面倒くさい作家ばかりなのである。
まずはドストエフスキーであるが、彼の代表作といえば、『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』、『地下室の手記』が有名どころとして挙げられるだろう。今、話に出ている3作品のなかで、『地下室の手記』以外は長編小説であり、とにかく長い。そして作品は全体的に暗い。人は死ぬし、すぐ神の話になる。けれども、彼の作品はその世界観の薄暗さや、わかりやすい表現により人気が高い。
どんな教育を受けたら、このように小説が書けるのだろうか。なんて、考えるだけムダである。ドストエフスキーはクズだ。そこそこの貴族の家庭の生まれであるものの、彼はギャンブルに金をガンガン突っ込み、いつも金がなかった。そして、金を稼ぐためにとにかく雑誌に作品を寄稿していたのである。作中、会話文がやたら多い箇所がある。これは読者に向けてスピード感を出したかったのではない。ナレーター部分を考えている時間をなくすため、会話文でごまかしていた。そして稼いだ金は、ギャンブルと女に消えていく。
次に、トルストイである。彼の作品として、小説『アンナ・カレーニナ』、歴史小説『戦争と平和』、風刺童話『イワンのばか』等がよく知られているのではないだろうか。特に『アンナ・カレーニナ』は良質な長編小説として知られているだけでなく、日本でも2015年ごろに映画が公開され話題になっていたかと思う。この作品は、華やかな貴族の世界と、質素な農民の生活が交互に描かれている。そして、なんだかんだ人が死ぬ。
トルストイは貴族でありながら、農民の暮らしに憧れを持っていた。自分の農地を自ら耕したことがあったが、周りの農民からは「金持ちの道楽」としか思われなかったという。また、彼には芸術家と思想家との、2つの顔があった。彼の小説は広く評価を得ていたものの、人生の空虚さに苦悩していた。この苦悩により、小説は次第にエンターテインメント性を欠いていき、晩年は特に教訓っぽいものになる。道端で説教をしてくるような、理屈おじさんの誕生である。
そして、プーシキンである。詩人プーシキンの作品には、詩『エヴゲーニイ・オネーギン』、『ルスランとリュドミラ』だけでなく、小説『スペードの女王』等がある。彼は現代のロシア語をつくった人物であるといわれており、ロシアでのプーシキンの評価は高い。ロシアの人々は幼少期から彼の詩を学び、暗唱できる人が多い。また、彼の詩が秀逸であると評価されているのは、長編詩であろうと一貫して一つの手法を使って書かれ、隙がないところだ。
しかし、プーシキンは、とにかく女グセが悪かった。彼にこれまで関係した女性の名前を書かせたら、何メートルにも及ぶリストとなった、という逸話はあまりにも有名である。また、その女グセの悪さが関係しているのかどうか、定かではないものの、彼は仲間内からの信頼も薄かった。1825年に起きた武装蜂起「デカブリストの乱」では、プーシキンも革命派の一人であったにもかかわらず、仲間から蜂起の日を知らされておらず、この革命運動に参加をすることができなかった。哀れである。
さて、これまでに3人のロシアの文豪を紹介したが、ギャンブル狂い、説教親父、信頼度ゼロの女好きと、なんとも人間味の溢れる顔ぶれである。人柄だけ見れば、果たして文豪であるのだろうかと首を傾げたくなる面々だ。難解だ複雑だと言う前に、いったん、彼らがどんな人か思い浮かべてから、気軽に本を開いてみると良いかもしれない。こんな彼らの描き出す小説や詩の世界を一度でも覗いてしまったなら、最後まで抜け出せなくなる。その勇気があるのなら。
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