メディアグランプリ

心強い師匠を高尾山でみつけた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田村洋子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
それは、夜の天気予報を見ているときにはじまった。
インドア派の夫が、突然、山へ行こうと言い出したのだ。
行きたい山は、高尾山。
 
わたしの山好きが、夫にもうつったかな。
わたしは、にんまりとする。
 
高尾山の標高は599メートル。高すぎる山ではない。ケーブルカーやリフトもあるから、登り道をショートカットすることも可能だ。
インドア派で外歩きをしない夫も、楽しく登れるだろう。これを機会に、ふたりで山に行けるとおもしろくなりそう……。
 
そして、翌朝。
新宿駅から京王ライナーに乗り、ふたりで高尾山へ向かった。
 
ふだん使っているのはJR。京王線には久しぶりに乗った。
窓の外に見えるのは、いつもは通らない街の風景。それだけで、もう楽しい。
 
乗っている車両は、京王ライナー。
座席指定になっているから、ゆったり。のんびり。
お休みならではのお出かけだ、という気分ももりあがる。
 
高尾山に着くまでの1時間は、景色を見たり、座席の感触を楽しんだり。
おもいのままに、きょろきょろ、そわそわ。
いつもは乗らない車両に乗る楽しさもあり、あっという間の時間だった。
 
ごきげんなまま、高尾山に到着。
そして、その勢いにまかせて山を登り始める。
夫は、動画撮影用に新しく買った道具を取り出して、登る景色を撮りながら登り始まる。
 
高尾山の山頂へ向かう道は、たくさんの人。
ぎゅうぎゅうで、足元しか見えないような混雑ではない。遠足でクラスごとに行動するとき、おしゃべりに夢中になってぼんやりと、崩れかけた群れのような混雑。
道を見失うこともない、安心できる混雑ぶり。
 
久しぶりの山道。
頭の上に広がるのは新緑をひろげた木々。風のにおいがみどりだ。
 
登る坂道が急なこともあり、いつもの倍くらい、体の中に空気を入れたり出したりする。みどりのにおいの風を吸い込んで、少しずつ体が透明になっていく。
呼吸は激しくなるけれど、足取りは軽くなっていく。
 
足取りが軽くなると、道の両側にはえている草たちの花を見る余裕も出た。
高尾山の山頂に向かう道は整備されており、あしもとがぬかるみに取られることもない。だから、わき見が安心してできる。
 
道わきにある草たちは、まだ春の花が残っている。夏の始まりの花は、つぼみをつけて準備中。
道の右側で身をかがめて花の写真を撮り、次は左側で樹木の芽をさわり。うさぎのようにぴょこぴょこと登山道を登って行った。
 
「俺、高尾山に倒れそう」
横から、夫のなげきが聞こえた。
すまない、夫よ。
山道の楽しさに夢中になりすぎて、一緒にきたはずなのに忘れていたよ。ペース上げすぎた。
 
少し、はしゃぐことをおさえたわたし。
山登りに慣れない、アウトドアな遊びとは無縁な夫を気づかいながら登る。
 
それからは、ふたりで歩いた。
薬王院にむかう道のたくさんの立て札で知り人の名を探した。
サブちゃん(北島三郎さん)の歌が境内に流れてくる仕かけに驚いた。
おみやげもの屋の「テング注意」のTシャツに笑った。
 
そして、高尾山の頂上についた。
頂上の広場には、たくさんの人がいた。
持ってきた弁当を広げている人たち。頂上にある茶屋でおでんやそばを食べる人たち。
みなが食べている姿を見たら、おなかがすいた。
 
頂上の広場を奥にあるいていくと富士山が見えた。
ほかの方向からは、都心方面にあるビルの群れがかすかに見えた。
わたしたちも、たくさんの人のなかに交じって頂上からの風景を楽しんだ。
 
山頂からの帰りは、登りに比べると楽勝。
リフトに乗ってみたかったので山頂駅をめざす。リフト乗り場までは1時間もかからない。
 
それに、山頂駅には三福だんごが売っているのだ。おなかをすかせたわたしたちは、目の前にニンジンをぶらさげられた馬のように、高尾山を降りていく。
 
連休中ということもあり、山頂駅はリフトを待つ人たちで大変なにぎわい。リフトは50分待ちで、いつもなら行列を待てないわたしだけれど、ここにはだんごがある。
三福だんごをかじりながら、乗る順番を待つ。
 
そして、高尾山を降りるリフトに乗った。乗っていたのは12分ほど。
地上を歩いていると見えない景色が、目の前に広がる。
とおってくる風は気持ちよく、木々の間を飛ぶことができる鳥になったような気分。
上機嫌なまま、少しの疲れと一緒に高尾山を降りた。
 
家に戻る電車に乗る前、夫がたずねる。
「高尾山にきて、よかった?」
「もちろん。全部。楽しかった」
今日、いちにちの楽しかったことたちがあたまの中でぐるぐるまわる。
 
「これが、誕生日のプレゼント」
インドア派な夫がじぶんから「高尾山に登ろう」ということが、プレゼントの始まりだったのか。夫は、山に登りたいわけではなかったのだ。
きょうの、すべてがわたしへの誕生日の贈りものだった。
 
電車に乗るのが好きなわたしが喜ぶだろうと、京王ライナーに乗る。
山遊びが好きなわたしにつきあって、高尾山に登る。
空の下で、ごはん食べるとわたしが喜ぶから、だんごを買い食いする。
……すべて、わたしが喜ぶようにと考えた一日の過ごし方。
 
一日かけて開いていくプレゼントを、わたしは生まれて初めてもらった気がする。
形には残らないけれど、心に深く残るものとなった。
 
「誰か」を喜ばせたい。
それは、だれもが感じることだろう。でも行動に移すのは難しい気がする。
相手に喜んでもらおうと用意しても、それを相手が喜んでくれるとは限らないからだ。
 
自分が相手に喜んでほしいから、行動に移す。ただそれだけ。
そう思うことができるには、心が強くないとできない。
いい意味で、自分は自分、他人は他人と割り切れているから、実行することができる。
 
わたしは、そこがうまくない。
自分の思いを、つい押しつけてしまいがちになる。だから、誰かを喜ばせることをあきらめたくなることも多い。
 
高尾山にきて、心つよくあるための師匠をみつけることができた。
わたしもあきらめないでいよう。心つよく持って行動に移してみよう。
すてきな師匠が、身近にいたのだから。
 
 
 
 
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2019-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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