メディアグランプリ

コスメカウンターで見つめ直したもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:豊福直子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
「なにか気になるものがあれば、お声がけくださいね」
いつものコスメブランドで商品を眺めていると店員に声をかけられ、「はい……」と顔を上げた私は、「え?」と言ってしまった。
 
「直子ちゃん?」
 
声をかけてきたその店員は、中学校の同級生だった。
 
彼女と私は同じ中学校で過ごした。中学の時に入っていたソフトテニス部で、3年間一緒だった子だ。部活も一緒だった同級生と地元を離れたここ福岡で再会するなんて、まったく思ってもみなかった。
 
私は普段、化粧品をほぼこのブランドで買う。
アイシャドウにしてもチークにしても、色味や質感、使い心地が私の肌質や好みにぴったりでとても気に入っているのだ。
この店舗も普段から良く立ち寄っていた。だけどそんないつもの日常の中で突然、同級生に再会するとは思ってもみなかった。
 
「ひさしぶり!」
「なんで福岡にいるの?」
「よくわかったね!」
と、びっくりしてお互いに言いたいことを言うだけのまとまらない会話をしながらも、彼女が最近福岡に引っ越してきたこと、それにともないこの店舗の勤務になったことを知った。
 
ああ、相変わらずかわいいなあ。
 
表面上はきちんと会話を続けながら、私は頭の隅でこっそり思った。
 
彼女は中学生の時からとてもかわいくて、いつも突き抜けて明るくてよく笑う子だった。
当時の面影はそのままで、だけど流れた月日は確実に彼女をより輝かせていた。きっととてもいい歳の重ね方をしてきたのだろうな、そんなことまで思った。
 
「なにか試してく?」
そう言われて、久しぶりの再会のうれしさも相まってお願いすることにした。
 
ライトアップされたコスメカウンターに座ると、鏡の中の自分と向かい合う形になる。
「ちょっと待っててね」
そう言われて準備をしに離れる横顔を鏡越しに見ながら、自分の顔に視線を戻した。
 
コスメカウンターのライトって、どうしてこんなに明るいんだろうか。
しかも自然光でないあの独特の白いライトは、普段鏡に向かっていても自分が気づかずにいるものまで全部容赦なく浮かび上がらせてしまう、ような気がする。
仕事帰りの、日中汗をかいた後の疲れた肌。
メイク直しを面倒がったせいで色味のない唇。
なにより一番気にかかったのが、おでこ。もとい眉間だった。
 
「私ってこんな顔してたっけ…」
 
なんというか、表現しづらいのだけれど、どこか必死な顔をしているのだ。
綺麗でありたい。認められたい。必要とされたい。愛されたい。
そんな風に必死に、自分の価値を求めながら生きてきたような顔。
単純に、ぶすだなあと思った。
女性にとって、いや女性とひとくくりにするのはあまり好きではないけれど、自分を「ぶす」だと認めざるを得ない瞬間というのは本当に絶望でしかない。
 
私は、綺麗であることが好きだ。特別美人に生まれついたわけではないけれど、女性という性が心から好きだし、女性ならではの綺麗さを追い求めることが、好きだ。
毎日鏡に向かって「よし!」と思えるように、自分の理想を日々追いかけている。
 
の、はずなのだが。
今目の前にいる自分はどうだろう。明らかにぶすである。
 
思わず鏡の中の自分がなんとかましになるように、顔を作ってみようとしてしまう。
けれど必死に生きてきた顔、というのはさすが何年も一緒に生きてきただけあって、驚くほど張り付いてしまっている。
今さらこんなところで悪あがきしたって、一朝一夕に変わるものではないのだ。
 
そんなことをしているうちに彼女が戻ってくる。
 
ああ、相変わらずかわいいなあ。
 
今度こそ、真剣に思った。
 
「必死に生きて」きたのはいつからだったのだろう。
記憶を辿ると、幼い頃の自分にまでさかのぼってしまう。
親から愛されたい。友達に好かれたい。好きな人を振り向かせたい。女性としての価値を認められたい。
私の矢印はいつだって「自分ではないだれか」に向いていた。
だれかに認められないと、自分で自分を認められなかったからだ。
 
中学生だった当時、私はきっと彼女がうらやましかった。
いつも笑っていて、明るくてかわいくて、「愛される」という言葉がぴったりで。
だけど彼女に限った話ではない。私はきっと、自分以外のだれもがうらやましくてたまらなかった。
 
鏡の中で彼女が笑っている。
人って生き方次第でこんなにも表情が違うものなんだなあ、と驚いてしまう。
私が今まさに頭の中で考えているようなあれこれなんて、きっと彼女の中には発想としてすらないんじゃないだろうか。そんなねちっこいことを考えて生きていたら、きっとこんな晴れやかな顔で笑うことなんてできないだろう。
私もできればそちら側の人間がよかった。
 
販売員だけあって、完璧にメイクで整えられた彼女の顔を思わず凝視してしまう。
アイメイクもリップも気になったけど、かなり赤みの強いアイブロウで眉を整えているみたいだ。
それがすごく素敵だったので「かわいいね」と言うと、「似た感じで試してみる? 髪の毛がけっこう赤いからこれが似合うと思う」とおすすめのカラーが用意された。
 
「はい、こんな感じ」
普段自分では選ばないようなカラーだけど、すごく素敵だった。なんだか顔全体がぱっと明るくなったみたいだ。
元々買うつもりだったのはアイシャドウだったのだけど、それと併せてそのアイブロウも購入した。
 
メイクをしながら彼女が言ってくれた。「綺麗だから似合うよ」と。
いや、全然である。むしろ「綺麗だと言われたい」「認められたい」と必死に生きているうちは、その心意気がぶすだ。
 
だけどつゆほどもそんな発想のない彼女に無邪気にそう言われたら、なんだか自分で自分を認めてしまってもいいような気がした。
ショップからの帰り道、私の気持ちは驚くほど晴れやかだった。
 
私も彼女みたいに、肩の力を抜いて笑えるようになりたい。
彼女が選んでくれたアイブロウで毎朝眉を描きながら、私は今日も鏡に向かって「よし!」と思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/86808
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事