青い空、白い雲、まぶしい鉄塔
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:黒崎良英(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
みなさん、鉄塔は好きですか? 電柱は? 送電線は?
そんなこと聞かれても困りますよね。そもそも、これらの存在、今まで意識したことってあります?
ところがこの電力関係のオブジェクトたち、当たり前のようにあるから気にならないのですが、これが意識しだすとジャマでジャマでしょうがない。
せっかくの青い空に無粋な線を引かれるし、綺麗な景色が灰色の縦線で興ざめになるし、下手をすればそれがジャマで遠くまで見えないし……生活に不可欠な電気を送る大事な設備のわりには、ひどい評価がされています。
しまいには「景観を損ねる」ということで送電線を地中に埋める地域も増えてきました。私の家の隣町もそうでした。
ある日、母を乗せてその地域を走っていると、ふと違和感を感じました。それが何なのだろうと考えながら信号待ちをしていると、母がポツリとその答えを言ってくれました。
「ここは電線を埋めちゃったんだね」
なるほど、と思いました。だからこんなに空が広く見えて、スッキリしているのだな、と。
違和感の正体が分かってスッキリしたはずなのに、私の心の中にはもやもやとしたものが残っていました。そして「埋めちゃったんだね」という母の言葉をもう一度思い出し、そのもやもやの理由に突き当たりました。
そうか、私は寂しかったのだな、と
送電線を地中に埋めるのは、何も景観損なうという理由だけではないでしょう。専門的なことは分かりませんが、あまりたくさん電線があると感電の恐れとかあるのでしょうし。
ただ、あまりにも短絡的な考えと、あるはずのものがないという事実に、どうしようもない寂しさを感じたのは事実です。
電線があって、スズメやカラスがとまっていて、世間話でもするように鳴いている。そのような当たり前の風景がなくなってしまうのは、やはり寂しさ感じずにはいられませんでした。
もう少し視線を別のところに向けて見ましょう。
みなさんは山にある送電線とその鉄塔を目にしたことはありますか?
思い浮かべてください。小高い山の頂上に立って、向こう側にある山々を眺める。新緑の景色で、空の青さと山の緑のコントラストが美しい。
が、その山の中腹や山の端に白い尖ったものが見える。よく見ると細い線も。そう、それは山から山へ、そして山の向こうまで電気を届ける送電設備です。
何という無粋さ! 何というもったいなさ! 美しい自然の中にあって、その人工物は景色をジャマする以外の何者でもありません。
あなたはそれに憎しみすら抱くようになるかもしれません。
ですが、ちょっと待ってください。それを間近で見てみてください。それはそこまで悪いものでもないのです。
またまた思い浮かべてください。
あなたは山を登る車道を、車でのんびりと走っています。頃はやはり新緑の季節。青い空に白い雲、鮮やかな緑の山々。
そこに、例の鉄塔が現れます。山の端に沿って電線を広げ、銀色の尖塔で空に釘をさすように立っています。
無粋に感じますか? ジャマに感じますか?
幼い頃、それを見た私は、その堂々とした雄大な姿に、畏怖と感動を抱きました。巨大な自然の中にあって、その姿は周りの景色に引けを取らないほどの存在感を持っていたのです。
しかも当時は黒い鉄塔だったので、今とは違う風情もありました。いぶし銀のような渋さ、ですかね。
自然の背景にした人工物というものは、往々にして非難されがちです。無粋極まりなく、また自然破壊にも繋がる。確かに中にはそういったものもあります。
しかし、ことこの送電設備においては、一見するとジャマに思えますが、無くなると結構寂しくなるものの一つだと思うのです。
さながら、小うるさい小言を言う家族がいなくなってしまうときのように。
「所詮人間は無いものねだり」
なんて言葉を聞いたことがあります。失って初めて気づくことが多いとも。
できれば失う前に、その大切さに気づきたいものです。
自然の中に人工物があってもいいじゃありませんか。むしろ現代ではそれが自然です。そして我々人間の存在も、自然の中の人工物、ではありませんか?
朝、電線に止まったスズメの声で目を覚ます。これは当たり前の光景かつ、無粋でも何でも無い、心地よい1日の始まりのはずです。
ぜひ、今日は足を止めて、上を眺めて見てください。天気がよければ、青い空と白い雲が見えるでしょう。都会でしたら高層ビル群も合わせて見られるでしょうか? 山間部なら山々も突き出ていますね。海辺には遮るものがないでしょうか?
そしてその視界に、電線や電柱、そして鉄塔があったなら、どうかジャマだと思わず、当たり前にあるその光景を慈しんでみてください。
きっと、一安心できる心地になりますよ。
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