メディアグランプリ

私は、親友をパレットナイフで刺そうとしました。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
人を傷つけるって、どういうことだろう?
私はこの一週間、それに向き合うことになった。
 
私は日々頭を悩ませていた。
プロのライターを志し、思い切って飛び込んだ、天狼院書店主催のライティング・ゼミ。隔週でセミナーを受け、課題を提出する。課題の提出は毎週一回ずつ。編集さんたちの内部審査を通ることができれば、天狼院書店のWEBに掲載される。
文章を書くことは、昔から得意な方であったので、大丈夫だと思っていたのだ。
だが、これがまた上手くいかない。書いても書いても落ちる。自分への失望と焦りが募っていく。
そんな時、一つの原稿が審査を通った。亡くなった祖母と過ごした最後の一年を書いた原稿だった。
今まで、自分のことを題材に書いていたが、感情が乗りすぎてどうしても重くなってしまったいた。
もしかしたら、大切な人のことを題材に書けば、フラットな文が書けるのでは?
一筋の光が刺した気がした。
 
原稿が内部審査を通過した。
親友の結婚式で、親友の父親が起こしたハプニングをユーモアを交えて書いたものだった。うれしくて、親友とその当時を知る同級生たちが参加しているLINEのグループで報告した。友人たちもよろこんでくれた。そんなこともあったね、と笑い合った。
親友が、あの時は申し訳ないことをしたと謝る。過去のことだから気にしていないよ、と私たちは彼女に声を掛けた。
一本原稿が落選した後、また掲載が決まった!
親友との学生時代の思い出を書いた原稿だった。頑固な友人をいかにマインドコントロールするかという内容だった。
私はとてもうれしかった。親友に一番に知らせなければならない!
よろこび勇んで、彼女にWEBのリンクを送った。
ほどなくして、返事が来た。
「ねぇ、もしかしてこれって私の事?」
「そうだよ! 学生時代の事」
 
「そうなら、けっこうショックなんだけど」
 
え?
思わず声に出してしまっていた。
 
「前回は、私の父親の事で、今回は私の事。まなさんの親友ってことで結びつくでしょ? これ読んだ人はさ、非常識な親子だって、思うんじゃないの? しかもこれ、WEBに載ってるんでしょ? 何年後もデータが残るなんて、正直しんどい……」
私は目の前が真っ暗になった。
 
私は、パティシエとライターは同じだと思っていた。
スポンジケーキに、刃先の丸いパレットナイフで、鮮やかな手さばきでクリームを塗り、かわいらしく切った果物でデコレーション。お客さんにケーキを切り分けて、リザーブするパティシエ。
ライターも同じ。文章を巧みに操って、自分の感性で彩り、サービスする。
みんなに幸せと、感動を与える、何てすばらしい職業なのだろう、そう思った。
 
なのに、私は、
パレットナイフの刃先を、大切な人に突き付けていたのだ。
 
人を傷つけること、って何だろう?
「ブス」や「死ね」などの端的な悪口を言うこと?
思わず顔をしかめてしまうような、罵詈雑言を浴びせること?
それだけではないのだ。
どんなに過去のことでも、どんなにユーモアで包んでも、心をえぐることがある。
 
親友や家族と一緒に過ごした楽しい思い出を、SNSで投稿したいと、あなたは思うかもしれない。
でもそれは、あなただけの思い出ではない。一緒に居た人との共有財産。
あなたにだから見せた、他人には知られたくないことだったかもしれない。
一般人、著名人は関係ないのだ。思わぬことが、WEBという波に乗って、瞬く間に拡散されてしまうことだってある。
日本だけじゃない、世界中、不特定多数の人が目にすることになる。
 
私は、その感覚が完全に麻痺してしまっていたのだ。
 
大変なことをしでかしてしまったと、号泣しながら電話越しに謝る私をなだめながら、親友は穏やかに教えてくれる。
私に恨まれ、嫌われているんじゃないかと心を痛めたこと。
みんなに申し訳なくて、LINEのグループを退会しようかと、思いつめたこと。
「覚えていて、WEBに載るってことは本当にたくさんの人の目に触れること。その中には、否定的な感情を持って攻撃してくる人もいる。私はそれがとても怖くて、書かれたことがショックだった」
ふっと、親友が笑う。
「でも、親友って書いてくれたことはうれしかった。今度からはさ、事前に教えて。そうしていたら私も、しょうがないなって、苦笑いしながら許してた。こんなことにはならなかったんだよ? 今回のこと、『親友から怒られた話』って書いていいよ。書き続けなよ!」
私は、彼女の言葉に、壊れた鹿威(ししおど)しのように、カコカコと懸命にうなずく。
大切な人を無意識に傷つけたことがあまりにショックで、彼女との仲の修復も、ライティングを続けることもあきらめようと思いつめた私の心に、親友の言葉がじんわりとあたたかく染みる。
 
どうせ、絶交されると思っていたんでしょ? 何年の付き合いだと思っているの?
電話の向こうで親友がカラッと笑う。
すべてお見通しだ。
 
「約束しよう! 今度私や、みんなのこと書くときは、事前に原稿を見せること。後、もう一つ」
 
みんなが笑顔になるような文章を書いて。
 
私が突き出したパレットナイフ。
親友は、それをはたき落としてしまった。
そして、不敵に笑ってその柄を私に差し出したのだ。
私は、涙を拭ってそれをしっかりと受けとる。
口端を吊り上げてニッと笑い返しながら。
 
やっと、私のふわふわと浮いていた両足がしっかりと地面に着地した。
目指すは、カメラ、取材、デザイン、ドイツ語、何でもこなし、みんなに笑顔と感動をリザーブするハイパーライター!
行く先が決まったのなら、後は前を向いて、進むのみ。
いつも朗らかに、笑顔を絶やさずに。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
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2019-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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