第2回:声は、身体という楽器がかなでる音《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える!ナレーションで身につく伝達力》
2021/06/21/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
人は、おぎゃあと生まれた瞬間から、声を発します。
生きている限り、声を発します。
声を聞けば、その人の生命力がわかるといっても過言ではありません。
赤ちゃんの産声の大きさに驚いた経験はありませんか。あんな小さな身体から、なぜフロア中に轟くような音が出せるのかと――
声の二大要素は、「呼吸」と、「身体(声帯を含む)」です。
声は「呼吸」によって「身体という楽器」がかなでる音です。つまり、良い呼吸は良い声を、質のよい身体は質のよい声を作ります。さらに言い換えると、呼吸の方法と、身体のメンテンナンスの仕方さえ覚えれば、声は今よりずっとよくなるのです。
ほおっておくと、声は、30代半ばくらいから徐々に衰え始めます。それは、毎日声を意識して発している私自身が身をもって経験しました。
声の専門職なのに鍛えていなかったの? と思うかもしれません。
その通りなんです。実は、私は、その頃までは、声そのものについては、そこまで考えずに仕事をしてきたのです。
もともと学生時代から歌うことが好きで、知らず知らずのうちに発声練習ができていたのだと思います。声色を変えたり、強い音を発したりといった技術も、若い元気な身体のうちは、ちょっと無理をすればできました。
しかし、もともと運動好きではなかったこともあり、身体全体の筋肉が衰え始める年齢になると、声も少しずつ出にくくなっていったのです。一般の人にはわからないレベルだったのですが、「あれ、一番高い音がでなくなったな」とか、「前より息が続かないな」などと感じるようになりました。
そんな折、ある外科手術を経験し、声の衰えは、いっそう激しくなりました。
手術自体は、そこまで大がかりなものではなかったのですが、身体の内側にメスを入れたとたん踏ん張れなくなり、ますます声が出にくくなったのです。
楽器が悪くなってしまった――
そのことに気づいてからは、どうしたら、楽器をうまく鳴らせるのか、その構造について考えるようになりました。
発声の構造をしっかり理解しなおしたことで、今では、簡単なエクササイズによって、声が楽に出せるようになりました。
ここでは、声が小さい、うまく出せないという方はもちろん、ナレトレの前にぜひ取り入れていただいきたい私なりの楽器づくりの方法をご紹介します。
楽器づくりには、「呼吸」を使います。
呼吸ならだれでもできますね!
ランニングの前の準備運動のようなものとお考えください。
■響く楽器をつくる呼吸ストレッチ (身体の内側を張る)
音の響く楽器とは、どんな楽器でしょう。
中に空洞のある楽器です。
子どもの頃、空き瓶に口をつけて吹いた経験がある方ならわかるでしょう。
しっかりした丸みのある瓶、例えばブランデーボトルなどは、ラムネの瓶などより、とてもいい響きでした。
教会のパイプオルガンの響きが、普通のオルガンとあれほど違うのは、壁一面のパイプという空洞に響かせているからですね。
身体という楽器にも同じことがいえます。
身体の内側を張ることができて、空洞のように響く構造であればあるほど、音が響きやすいのです。もちろん身体の内側は、平面ではないですから実感しにくいのですが、内側をパンと張ることができ、さらにゆくゆく拡げることができるようになれば、楽器もよくなります。
具体的に、身体の内側のどこを張るのか、順番にご説明していきます。
1口の中の粘膜を全体に張る
内側の張りで、もっとも意識するは、口の中の粘膜です。
喉の奥にある声帯を振るわせてできた音は、口を通って外へ出るので、この中が響きやすくなっていると、声は、驚くほど変わります。
あくびの口をしてみてください。
ただ、口を縦にあけるのではなく、あくびが本当にでる口です。できますか?
本当のあくびの時に意識してもらうとわかるのですが、びっくりするほど口の中が開き、粘膜という粘膜がピンと張ったような状態になります。
日頃から、このあくびのように口の中を広げるクセをつけると、声が響きやすくなります。
口を開け続けるのは、とてもしんどくて大変ですが、1分くらいは大きく開け続けられるようになってほしいです。
① 軽く息を吸いながら口の中の粘膜を出来るだけ張る
(本当にあくびがでるくらいに。目を見開くとやりやすい)
② そのまま口の形をとめる 最初は15秒~ やがては1分~
(口の形をとめている間は、鼻で呼吸する)
③ 気が向いたら何度でも行う
口が閉じそうになったら、親指を、付け根まで口の中に入れてみてください。こうすると親指に触れないように、奥のほうの粘膜が、張ろうと頑張ります!
マスクをしているなら人からも不思議がられませんし、暇さえあればやってください。
(声楽のトレーニングのよっては、声帯のストレッチの目的でのあくびのエクササイズを指導するものもありますが、私の場合は、あくまで口の粘膜をのばすことにポイントを置いています。)
2 頭の中を張る
これはあくまでイメージです。
上あごから頭のてっぺんまでの内側の意識はとても大切で、ここに音が響くようになると
明るい、ほがらかな声質になります。
声は、基本的に、上あごより上で響かせると明るい音になり、下あごや喉の奥に響かせると暗い太い音になります。どちらも出せると表情豊かな声につながると思います。
私の実践しているのは、片鼻呼吸です。
口を閉じて、親指で、どちらかの鼻の穴をおさえて、ゆっくり5秒間で息を吸います。
その際、目をぱっちりとあけ、上あごの奥の粘膜も上にひっぱるように開きながら、空気を頭のすみずみにまで充満させるイメージを持ちます。
頭もすっきりして、とてもおすすめです。
① 片方の鼻の穴を指でおさえる
② 口を閉じ、鼻から息を吸う 5秒
③ 吸った空気を頭のすみずみまで充満させるイメージで、2秒とめる
④ 口を閉じたまま、鼻からゆっくり吐き出す 5秒
⑤ もう片方もおこなう
※あわせて5セット
3 身体全体の内側を張る
深呼吸のように、鼻から大きく息を吸って、胸郭をひろげます。
このとき、肋骨をひらくイメージで、胸も背中も、まあるく筒状にひろげ、お腹までずん胴につながるイメージを持ってください。
オペラ歌手の方などをみていると、男性も女性も、胸のまわりがとても分厚いことに気づきませんか。長年の訓練で、身体が変化しているのです。
ここでのポイントは、なんといっても背中をひろげることですが、首や肩甲骨が凝っているとなかなか思うようにいきません。
しかし、実はこの背中をひろげる、すなわち背中に空気を入れられるようになることが、響く楽器をつくる一番のポイントです。
背中をひろげられるようになると、お腹までの空気の通り道が確保しやすくなります。
不思議な事に、吸ったときに、一気に身体全体に空気を入れられるようになるのです。
これは、私のイメージですが、人の身体の前面は、内臓が複雑におさまっていますが、背中は、背骨がまっすぐに伸びていて、まるでスロープのように空気を下部までスムーズに誘導してくれるのです。
これは次項お伝えする腹式呼吸という呼吸法にもつながります。
ぜひ、背中をひろげる感覚を身につけてください。
① 鼻から大きく息を吸って肋骨を全体拡げる 5秒
② 身体にパンパンに息が装填されてずん胴になっているイメージで、5秒とめる
③ 鼻からゆっくり吐き出す 5秒
※5セット
私自身、極度の肩こりで、以前は背中をひろげるのがとても苦手でした。
そういう方は、少し背中をまるめて、左右の肩甲骨の真ん中に息を吸い込むイメージで、
まずは、背中だけをひろげるストレッチからしてみてください。
こうした身体の内側のストレッチをしていると、手足までポカポカと温かくなります。
楽器づくりは、気持ちのよい身体づくりともいえるのです。
□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国41局のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」「なりゆきアフロ(チャント!内)」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。
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