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週刊READING LIFE vol.134

コンプレックスと仲良くせよ。《週刊READING LIFE vol.134「2021年上半期ベスト本」》


2021/07/12/公開
記事:廣川陽子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私のコンプレックスは「飽き性」な性格だ。
 
コツコツが大の苦手。コツコツすることが良いことであり、大切なことなのは知っている。子どもの頃、親も学校の先生も「コツコツやりなさい」と言っていた。しかし、出来ないのだ。自分の忍耐力のなさに呆れる。情けない。
興味のあるものが次々と変わっていき、同じものを長く続けることができないのだ。その性格は大人になっても変わらないどころか、年々拍車がかかっているように思う。こんなにどんどん新しいことをして飽きていたら、人生の最後の方にはやることがなくなってしまうのではないか、と不安になったことすらある。
しかし、やってみたいことや行ってみたい場所はどんどん浮かんでくるし、それについて考えているとワクワクするのだ。
 
ヨガ教室は好きでしばらく通っていたが、仕事の忙しさを言い訳にいつの間にか行かなくなってしまった。衝動的に始めたウクレレも3曲くらい弾けるようになると満足してしまい、インテリアと化した。
その他にも、とある年末にはオーケストラの演奏でヴェートーベンの「第九」を合唱したこともあるし、真冬の寒い時期に滝行をしに行ったこともあるし、バック転教室に行ったこともある。
とにかくこんな調子で、心惹かれたものには片っ端から手を出す癖がある。そして、そのほとんどは1回〜数回ほどで満足してしまうのだ。
 
そのため「小さな頃からずっとピアノを習っています!」とか「毎日必ず走っています!」という人を心の底から尊敬しているし、憧れている。と同時に、そういう人に対して、ものすごくコンプレックスがあるのだ。自分には到底できないことをしている人が眩しく、直視するのも憚られるほどだ。そういう人たちには特に、自分の飽き性を知られたくない。コツコツ組がキラキラと輝いていればいるほど、何だか後ろめたさのようなものを感じてしまう。

 

 

 

ある日こんな私の飽き性な部分を「おもろいやん」と言ってくれる人がいた。
「こんなに色んなことを次々やっている大人もそうおらんで。めっちゃおもろいやん」
 
このコンプレックスは、もしかしたら自分の「おもろさ」なのかもしれないと気付いたことは、人生の中でもとても大きな出来事だった。長所と短所は表裏一体であるとはいうが、確かにそうなのかもしれない。
 
そう思えるようになってからは、自分の飽き性を少し許すことができた。この性格を楽しんでしまおうと思えるようになった。そこからは随分とラクになった。人生が今まで以上に面白く思えた。短所を短所のままにしておくか、長所だと思って楽しむかは大きな差がある。
長い間悩んでいたことでも、こんな風にちょっとしたきっかけで解消され、気が楽になるということはよくあることだ。

 

 

 

「ジャケ買い」という言葉がある。
音楽そのものやアーティストではなく、CDジャケットのデザインを気に入って買うことである。これは、CDショップだけではなく本屋さんでも起こる。
 
ある日、本屋さんを何気なくブラブラしていた。
仲の良い友達が最近ジェーン・スーさんにハマっているらしく、私もスーさんの本を読みんでみようかなと思ったのだ。
沢山の本の中で見つけた、オレンジ色や黄色のポピーのイラストが描かれいる文庫本。色とりどりの花が並んでいる表紙の本だなんて、可愛らしくて胸がキュンとしてしまう。が、しかし、次の瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃的なタイトルが目に飛び込んでくる。
 
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』
 
うっ……!!
私はしばらくその場で固まった。もしかしたら、その時一瞬息が止まっていた可能性もある。
30代半ばの私は、このボディーブローをもろに食らってしまった。
 
「女子会しよう!」「女子ってさ〜」「女子チームは〜」
女子女子女子女子……
年齢に関わらず、日常の中で何気なく「女子」という便利なワードを使っている女性陣は多いのではないか。もちろん私もだ。可愛らしい花柄の表紙に、黒字の縦書きで主張してくるタイトルは、インパクトが強すぎた。メンタルがえぐられるような気分だった。
く、苦しい……やめてくれ……
 
怖いもの見たさでこの本を手に取り、恐る恐る目次を開いてみた。
「私はオバさんになったが森高はどうだ」
「ブスとババアの有用性」
「男女間に友情は成立するか否か問題が着地しました」
 
などなど、興味をそそられる章ばかり。一気に心が惹かれた。
すぐにそのままレジへ向かったのだった。
 
エッセイの中でスーさんは、自分自身との折り合いをつけたり、自分を許したり、受け入れたりしてきたこれまでの様々な経験や考察をユニークかつユーモアたっぷりに語ってくれている。
 
「ピンクと和解せよ。」という私のお気に入りの章では、毛嫌いしていたピンクという色やピンクが似合う女性と和解していくスーさんの心の様子が綴られている。
そもそもスーさんは、何故ピンクが嫌いなのかというと自己愛が強く媚びた色だから、とのこと。
では、何故こんなにもピンクが嫌いになったのか、等とスーさんは自分の過去と向き合っていく。すると、ピンク嫌いは自分自身のコンプレックスからくるものだったと気付く。
スーさん(現在48歳)の幼少時代は特にピンクは「かわいい」の象徴的な色だった。また、ピンクの服を着たアニメのヒロイン達は、決まって周囲から愛されていた。
しかし、ある日おしゃれな母親に「あなたはピンクは似合わないわよ」と言われてしまう。「ピンクが似合わない自分は、可愛くないんだ」「可愛くない自分は愛されるべき存在ではないのかもしれない」とまで思いつめてしまった。
そんな幼少期の出来事を大人になっても消化できずにいた。そして、自分には似合わないピンクを、楽しそうに着こなす女性たちが憎かったんだというところに行き着き「私はどうかしていた」とハッとする。
このようにスーさんは自分自身と向き合うことで、ピンクの服を着れるようにまでにピンクと和解することができた。

 

 

 

コンプレックスというものは、あらゆることが原因になって作られる。子どもの頃の出来事がきっかけということも多いだろう。
 
「ピンクと和解せよ。」を読んで、小学生の頃のことを思い出した。
無邪気な友達が「どうして、そんなに沢山ソバカスがあるの?」と聞いてきたことがあった。もちろん悪気なんてない。しかし、私はそんなに気にしていなかった自分のソバカスが、急に恥ずかしくなった。「ソバカス」という言葉を発すること自体も怖いと思うくらいに、どんどん嫌になっていった。あれ以来、割と最近までソバカスは私の最大のコンプレックスだった。
ソバカスのないつるんっとした肌の同級生を羨ましくも、恨めしくも思った。中学生に上がってからは、ビタミンCの錠剤を飲んでみたり、美白クリームを塗ってみたりもした。レーザー治療の相談をしに、女医さんのいる皮膚科に行ったこともあった。自分のコンプレックスについて話すのはかなりの勇気が要ったが、母親に連れて行ってもらったのだ。そして、診察室で小さな声で悩みを打ち明けた。すると、サバサバしたその先生はこう言った。
 
「あなた、ソバカスの量が多いからね、全部取るのは大変!」
 
がーん……
振り絞った勇気がくしゃくしゃとしぼんていく音が聞こえてくるようだった。もちろん先生は、医師と言う立場でちゃんとした事実を伝えてくれたのだが、ひ弱なメンタルだった当時の私は大きく傷付いた。その皮膚科には二度と近づくことなく、心を閉ざした。私のコンプレックスが、より強くなった瞬間だった。
大学生になって化粧をするようになってからは、ファンデーションやコンシーラーを厚塗りし、とにかく隠した。ただひたすらに隠した。コンプレックスを「コンプレックスなんですよ」と言える強さもなかった。
 
しかし「ピンクを和解せよ。」を読んで、いつの間にかこのソバカスを受け入れられるようになっていたことに、ふと気づいた。
本を閉じ、そっとその理由について思いを巡らせてみた。
 
近頃は「美しさ」や「可愛らしさ」にも個性が加わるようになってきた。ソバカスのあるモデルさんをファッション雑誌やSNSで見かけることもある。そんなモデルさんを見つけると、畏れ多いと思いながらも何だか親近感を覚えて嬉しかった。そして、すがるような思いで彼女たちの動向を追った。すると「自分のソバカスが好き」「私はソバカスを隠さない」というようなコメントを目にした。
 
ソバカスが好き!? 隠さなくてもいいものなの?
と驚きはしたが「じゃあ、私も」とすぐに受け入れることはできなかった。
しかし、そんな言葉を目にしたのをきっかけとなり、少しずつではあるが私はソバカスと和解していったのだ。
ファンデーションも、前ほど厚塗りしなくなった。
あんなに憎かったのに不思議だ。そして、ソバカスのある自分を許せるようになってからは、だいぶ強くなったようにも思う。
そんなことにも気づかされた。

 

 

 

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は、スーさんの経験を面白おかしく、時には自虐的に語ってくれる最高のエンタメエッセイである。
しかし、エンタメだけではない。スーさんの文章は、なかなか人には見せないような自分のコアな部分にスッと入り込んでくる。そして、私たちの自意識や自尊心などの「こじれ」「ねじれ」に寄り添い、それを解く作業を一緒にしてくれるようなところがある。
自分のコンプレックスと対峙し、元になった出来事や自分を許し、受け入れるという作業は精神的になかなかエネルギーがいることだ。
しかし、エッセイの中でスーさん自身がその作業をしていて、それを読むことで、私たち読者は自分とも向き合うことができる。
 
自分のコンプレックスと向き合うこと、上手に付き合っていくこと、仲良くなることは、長い人生を生きていく上でとても重要だ。
このエッセイは、そのきっかけを沢山くれる。そのきっかけに救われる読者は多いはずだ。
スーさんのエッセイを読むと心が軽くなったり、なんだか生きやすくなったような気持ちになる。
 
タイトルの辛辣さにボディーブローを食らい、震えながらページをめくり始めた私だったが、最後のページは清々しい気持ちで閉じた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
廣川陽子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県出身。
ラジオパーソナリティー、ナレーター、 MC。
大学卒業後、証券会社で営業職を約2年間経験したのち退職。
その後、関西を拠点に現職にて活動。
主な出演番組
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マイナビTVアシスタント、共同通信リポーターなど

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2021-07-12 | Posted in 週刊READING LIFE vol.134

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