週刊READING LIFE vol.181

オノマトペ実況中継〜痛みは伝わるのか編〜《週刊READING LIFE Vol.181 オノマトペ》


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2022/08/15/公開
記事:黒﨑良英(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
日本語の「オノマトペ」は誠に便利である。音声を文字化する擬音語だけでなく、感情や状態を表す擬態語までも文字化してしまう。
 
期待に胸が高鳴る様子は「ワクワク」、得意げなときは「イェーイ」(これに「乗ってるかい!」等がつくとセリフになってしまう)、音のない状態は「シーン」、雑音があれば「ワイワイガヤガヤ」など、枚挙にいとまがない。
 
無論、英語などの外国語にもそれに相応するものはあるが、日本語のように多種多様なものは珍しいと思う。
そして時として、このオノマトペで表現した方が、より的確に感情や状態が伝わることもある。
 
そこで、今回は、最近起こったある出来事について、オノマトペを多用して報告したいと思う。
 
その出来事とは何か。
私が最近行った施術について、である。
何をしたか。色々省いて言うと、「血管にワイヤーを入れて、それに沿って風船のようなものを入れ、膨らませることで、細い血管を広げる」というものだ。
聞くからに痛いと思うだろうか?
その通り、痛かった。半端ではないほど痛かった。
 
それは「ズキズキ」というレベルではない。「ン」を入れて「ズキンズキン」でもまだ足りない。
今まで様々な痛みに向き合ってきた私であるが、その私を以てしても前代未聞であった。
 
風邪はうつせば治るという。食卓もみんなで囲めば一層美味しい。
ならば、痛みも報告し、共有することで緩和するのではないか、と読者の皆さんにとっては誠に迷惑千万な試みではあるが、ここは一つ寛容な御心でお付き合い願いたい。
 
そもそも、私がこのような目に遭うこととなったのは、幼少期からの持病のせいである。
私は腎臓を患っており、しかし子供から大人になる途上で様々な治療を行い、いよいよ気にならないぐらいになったかな、と思った矢先、健康パラメータの数値がかなり悪化してきたのである。
 
数値の悪化に伴い、次第に体に変調をきたしてきた。
顔色は悪く、少し動けば大変疲れて、いくら休んでも体のだるさから抜け出せない。
これらが続き、私は断腸の思いで「透析治療」という、機械に腎臓の役割を担わせる治療を選んだ。
 
これは、血管から血液を吸い上げ、機械を通して綺麗にし、体内に戻すというもので、実施するためには少々工夫が必要である。
一度にたくさんの血液を処置するために、血流が拡大した血管が必要となるのだ。
そこで、「シャント」といって、静脈を動脈と結合する手術を予め行った。
 
これはこれでヒドイものである。
いや、麻酔を打っているため、痛みはない。だがこの麻酔、部分麻酔なのだ。すなわち、私は、痛みはないが感覚が残ったまま、腕をザックリと切られたのである。
もう一度言うが、手には全く感覚がない。しかし、切ったと思しき感覚がある。そしてその瞬間、「トロリ」とした感覚もあった。大方血液が溢れ出るときの触感であろう。
今思い出しただけでもゾクリとする。
 
このように散々な思いをして得られた血管であるが、どうもつなぎ目が細く、血栓ができやすく、つまりは詰まりやすくなってしまった。手術後、たった5ヶ月のことである。
 
一度は薬を使って、血栓を溶かしたが、かなり頻繁に血管が詰まる。これはよろしくない、といって、他所の大型病院で、先ほど言った施術をすることとなったのだ。
 
病院では説明を聞いている段階でガクガクブルブル(通称:ガクブル)し通しだった。何せ、お医者様からは「痛いよ」と予め宣言されていたくらいなので。
 
ビクビクしながら、私は施術台に横になる。
最初は早速、造影剤の注射が待っていた。血管の位置をレントゲンカメラで確認するためだ。この薬剤を注射すると、血管がレントゲンカメラに映るようになる。
このときの針は細く、チクリとしただけだったが、薬を投与すると、腕全体がジワッと暖かくなった。お医者様曰く、血液の濃度が濃くなると、暖かくなるらしい。
 
次に、ワイヤーを入れる針である。
このとき、針を2種類使うのであるが、太い針の時は、流石に部分麻酔を打ってもらった。だから針を刺すときは、まあ、良い。
 
問題は次の段階である。
読者諸君、信じられるだろうか? 「血管にワイヤーを入れる」のである。言葉の通り、間違いなく、だ。
正直に言って、この治療を最初に考えた人って相当頭湧いてる人なんじゃないか、と思ったくらいである。
だが、もちろん、背に腹はかえられぬ。私は、ワイヤーを受け入れざるを得なかった。
 
この時の衝撃は今でも忘れない。
痛いのは痛いのであるが、前にも言ったようにズキズキとかズキンズキンとか、そういった生やさしいものではない。
 
あえて言うならば、グサグサと、あるいはザクザクと、もしくはギチリギチリと、ワイヤーが入っていくたびに痛むのである。
そして突き当たりに当たったのだろうか。ここ一番の痛み、というか、もはや本当に衝撃が襲った。
グサリ、いや、ビキリ、と痛みと共に電流が走ったかに思えた。
 
さらにはそのことで、自分でもびっくりするぐらい変な声を出してしまった。
アダ! だったか、イギ! だったか。エデ! だったか……ア行とダ行もしくはカ行を組み合わせたなんとも言えない声で叫んでしまった。
これにはお医者様もびっくりであった。
 
ともかくも、それが済んだらいよいよ風船である。風船と言ってもバルーンと呼ばれる小型のものだ。
ワイヤーに通して血管内に潜らせ、細い箇所についたらバルーンを広げ、それにより血管の幅を拡大するのである。
 
これが、やはり、この世のものとは思えないほど痛かった。
予め聞かされてはいたが、それでも痛いものは痛い。
 
膨らませている時間は、体感で1分くらい。その間、極上の痛みが襲う。
ギリギリと、ジクジクと、ズンズンと……ああ、この痛みを何と表したら良いのか。
 
私は地獄の責め苦を味わい、しかしその甲斐あって、今のところ血管が不調をきたすことはない。
フラフラとした足取りとジンジンする腕で、私は病院を後にした。
 
如何だろう? 少しは私の痛みを共有できたであろうか。
いや、実際のところ、これで「痛み」という「感覚」ができるとは思えない。「音」や「状態」ではなく、人体器官の感覚に関するオノマトペは多いが、しかし、普通に考えてみて、的確な表現をしているとは思えない。
それはひとえに、痛みなどの感覚は、主観によるもので、要は「人による」からである。
 
しかも書いていて気がついたが、感覚にオノマトペの表現を当てはめることによって、「痛い」ということは分かるが、その程度が低くなってしまうように感じるのだ。
そう、思いを言葉にすると、なぜか薄っぺらくなってしまうように。
 
「ギリギリ」「ジクジク」「ズンズン」「ズキンズキン」……
 
感覚や状態が音となり、文字となるとき、私たちはその状態・感覚・音を明確にすることができる。それがために、名状し難い、説明し難い、言葉にできないものに対しては、限界があるのだろう。
 
「痛い」は分かるが、その程度を詳しく再現することはできない。
もちろん「ズキズキ」と「ズキンズキン」の間には程度の差が現れていると思う。しかしそれは相対的に知れることであって、その痛みがどれほどのものか、明確に再現するものではない。
 
結果、分かることは、オノマトペは表現方法の一つであり、より詳しい伝達を望むのであれば、数多の言葉を駆使しなければならない。
 
これは当たり前のようだが、実際、オノマトペに頼りすぎていて、対応する言葉を忘れてしまうことも多いように思う。
 
ワクワクやドキドキなどのよく使うオノマトペを、では他の言葉で言い換えたらどうなるか、と聞くと、一旦困惑する人もいるように思う。
 
これが方言だと尚更で、私の故郷山梨県では「ワニワニ」とか「ワサワサ」と言う言葉があり、説明に困る。(「落ち着きのない様子」くらいだと思う)
 
言葉とは難しい。
それでも、誠意を込めれば、この痛み、伝わってくれただろうか?
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒﨑良英(READING LIFE編集部公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。持病の腎臓病と向き合い、人生無理したらいかんと悟る今日この頃。好きな言葉は「大丈夫だ、問題ない」。

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2022-08-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.181

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