週刊READING LIFE vol.192

リミッターを外した先に見えた、私の恋活《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/07/公開
記事:牧 奈穂 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「リミッターを外す」
これが、大人の生活を楽しむためのコツではないだろうか。
大人は、知らぬ間に、心に制限をかけてしまう。社会から期待される「自分」を演じていくうちに、常識的に生きることを身につけるからだ。若い頃の尖った部分は、社会の中で削ぎ落とされ、次第に「大人の自分」を演出できるようになる。そして、それと同時に心にたくさんのリミッターをかけ始めてしまう。
だから、大きな挫折や失敗を経験した時は、チャンスかもしれない。「幸せ」や「成功」と言われる人生のレールから逸脱した時、「リミッターを外す」ことができるからだ。
 
私は、約2年前に離婚をした。
だいぶ前から離婚を考えていたが、すぐには行動ができなかった。息子がまだ1歳だったことも理由だろう。それから12年近くも月日が過ぎ、ひたすら我慢を続けてしまった。世間体から自由になれずに、長い間、行動に移せなかったのだ。
「離婚」=「失敗」と、世の中では思われている。「バツイチ」という言葉からも、やはり失敗のイメージが強い。
だからこそ、負けず嫌いの私は、決断ができなかった。
「失敗した人」、「かわいそうな人」と憐れんでもらいたくない。きっとこの気持ちが、一番強かったように思う。子供の頃から、いつも何でも頑張ってきた。高校受験、大学受験、そして就職試験……常に競争して頑張ってきた。誰にも求められていなかったかもしれないが、「優等生」という枠から抜け出す勇気がない。やめたいのに、やめられない。そんな苦しい20代、30代を過ごしたように思う。
 
「離婚」は、私に良い意味での「開き直り」を与えてくれた。
私の中では、人生で一番起きてほしくないことが起こったからだ。
契約社員として働き出した初日の会議の場で、何と挨拶をしたらよいか考えていた。離婚について正直に話すか、黙っているか、どちらにしよう?
「息子と二人だけで生きていくことに決めました……」
私は、正直に語る人生を選んだ。皆は、そんな挨拶をされるとは思っていなかったのだろう。私が話し終えると、驚いたような様子で、一瞬、空気が凍った。だが、隠さずに全ての人の前で、堂々と「失敗しました!」と言い切ったことで、私はリミッターを外す人生をスタートさせることができた気がする。
 
リミッターを外した私は、自由だ。
子供は、学校や家庭という限られた世界の中で、生きている。どうしても、大人の助けが必要だから、自由なようで案外自由ではないかもしれない。その分、大人は、もっともっと自由な生き方をしていい。自由に生きられるかどうかは、自分自身に委ねられている。自由になれないのは、単に、自分が作り出したリミッターに気づいていないだけだろう。
 
私は今、ずっとやり直したかったことに、素直に向き合っている。
今、私は「恋活」中だ。
だが、そんなことを、私が職場で言ったら、どんな反応をされるだろう?
若い人ならばいい。高校生の息子がいる、母親である私は、堂々と言ってはいけない気持ちにさえなる。これが、「リミッター」だ。人は一般的な価値観で、自分の行動を制限してしまう。きっと以前の私だったら、「いい歳をして……」「母親のくせに……」と思っただろう。内なる声が私を叱りつけ、私が私自身を許さなかったはずだ。
一般的な価値観を捨て、今、私はもっと自分に正直に生きている。どんなに仕事が好きでも、どんなに息子に愛情が持てても、私は、やはりパートナーが欲しい。一度失敗したからこそ、今度は、自分が本当に求めていたような人に出会いたい。素直に心から湧き上がる気持ちを、否定したくない。
 
先日、久しぶりに占い相談をしてみた。
少し前に、気になる男性がいたからだ。せっかくの出会いを大切にしたいから、そう簡単には思いを伝えることができない。相手も気づいていないようだ。進展のないままの状態を変えたくて、占い師に相談したくなった。
 
「あの……気になる方がいます。その方との相性を見てもらえませんか?」
占い師に生年月日を伝える。
「あぁ、この人はやめた方がいいわね。あなたの望みに合う人ではないわよ。マイペースだし、ナルシストね……きっと、自分を高めることに必死で、自分の世界の中で生きていく人よ。あなたは、隣にいたら寂しくなるはずだわ。」
さらに、勢いよくアドバイスが始まった。
「あなたはね、もっと自分を大事にしないとダメよ。あなたの気持ちを受け止めてくれる人ではない人を、いつも追いかけている。家と職場の往復の中で、いい人を探そうと思っていたら、無理よ! マッチングアプリのほうが、あなたの生活の中より、ずっといい人がいるわよ。サークルでも、何でもいいから、どんどん外に向かいなさい!」
あまりにはっきり言われて、気後れしていると、もっとアドバイスが続く。
「出会い運は、来ているわよ。でも、いくら飛行機のチケットを持っていたって、飛行機に乗らなきゃどこにも行けないでしょ? 出会い運があったって、待っているだけでは誰もやって来ないわよ。動くのよ。わかった?」
 
疑い深い私は、もう一人の占い師にも聞いてみた。やはり、似たようなことを言っている。占いのセカンドオピニオンも同じならば、これはマッチングアプリを使ってみるべきなのか? そんな恐ろしい世界に入って、大丈夫だろうか?
 
「マッチングアプリを使うなんて、変わった人がすること」
この先入観を、まずは捨ててみる。怖い世界、危険な人がいる……思い込みとも言えるリミッターを一つずつ外せば、その世界にしかない素晴らしさに気づくチャンスが得られるのだ。
恐る恐る、マッチングアプリをスマホに入れてみた。
つい最近、天狼院書店の店主である三浦さんに、「魅せる秘めフォト」で写真を撮ってもらったばかりだった。だから、早速アプリにもその写真を入れてみた。やはり、写真は大きな効果があるらしい。三浦さんの腕のおかげで、次々と「いいね」がつき始める。「いいね」をしてくれた男性のプロフィールを見て、自分に合いそうな人を選ぶ。学歴、収入、職業、趣味、様々な情報からどんな人かを想像する。
 
マッチングアプリを見て、感じたことがある。
私に「いいね」をつけてくれる男性だけでも、幅広い年齢の男性がいるのだ。皆が堂々と、そのアプリの中で活動をしている。恋に年齢制限はないのかもしれない。世の中は、いくつになっても、人との出会いを求めていいものなのだ。恋活なんて……と今までの小さな常識に囚われていた自分に気づく。家と職場の往復をしているだけという狭い世界の中で、大切なパートナーを探そうと思っては、確かに選択肢がなさすぎたかもしれない。それは、占い師でなくても、冷静に考えてみればわかることだ。
 
20歳で結婚した私は、恋愛経験がほとんどない。そして、合コンの経験は一度もない。だから、恋愛に関しては、かなりの初心者だ。
アプリの中で、「いいね」をしてくれた人の中から、合いそうな人を選び「いいね」を押す。するとLINEのように、会話をアプリ内ですることができる。プロフィールにある趣味などの記載から、話を始めてもいい。実際に会うところまでお互いの気持ちが合う人は、そうはいない。若い人ならば、もっとフットワークが軽いのかもしれないが、私の年齢では難しい。
 
その中で、私は二人の男性を選んだ。通常の世界では、二股になるからあり得ないことだ。だが、マッチングアプリは、皆が同じように複数の人と会話や食事をすることもあり得る。
偶然だが、どちらの男性も同じ歳で、私と同じ街に住んでいることがわかった。マッチングアプリだからこそ、可能だったことだろう。全く仕事の違う、接点がなかった人と食事をするのは、とても新鮮だ。会うのは危険かもしれないが、会わないとどんな人かは、分からない。実際に会ってみると、二人は正反対のタイプだと言うことに気づいた。
 
それは、「追いかけたくなる人」と「追いかけてくれる人」の違いだ。
私は、いつも追いかけたくなる人を、追いかけてきた。追いかけたくなる人は、強く、華やかで魅力的だ。仕事ができる。強い自分がある。自信があるから、とても華やかに見える。だが、その魅力と引き換えに、安心感は与えない。だから、会えない時間が、苦しさに変わる。知らない部分が、不安に変わる。その華やかさに惹かれ、私はいつも不安になって、失敗をしてきたのかもしれない。
反対に、もう一人の男性は、強烈な魅力で惹きつけようとはしない。とても穏やかに、私の世界に興味を示してくれる。聞かれるままに答え、答えた私に対して反応し、何気ない会話が続いて時間が過ぎる。その会話の先には、安心感が残る。会った後の仕事が、とても穏やかにでき、むしろ、集中して仕事ができるくらいだ。華やかな男性に会うと、その後は不安になるから、仕事にマイナスにもなることが多かった。
リアルな世界で出会うと、いつも同じような人を好きになってしまう。アプリという、非日常の世界に身を置くことで、今までならば、出会えなかった人の存在に気づく。そして、自分の恋愛パターンを、客観視することができる。これは、アプリの先にある、意外な利点だった。男性に出会うだけでなく、私自身に出会えた気がしたからだ。
 
何事も、経験をしてみないと、その先の学びは得られない。
リミッターを外すことをためらわなければ、思いもよらぬ自分自身に出会えるかもしれない。
大人は、心の持ち方次第で、いつだって自由でいられるのだ。
リミッターさえ外したら、いつもの景色が違って見えるかもしれない。
私の恋活がうまくいくかは分からないが、私はまだまだ新しいことにチャレンジしたいと思っている。「いい大人」を演じ、したいことを我慢するのではなく、新しいことを自分の世界の中に貪欲に取り入れていきたい。
私に限らず、どんな人でも、どこにいても、今すぐにでも、リミッターを外しさえすれば、新しい世界に出会えるはずだ。もう40代、50代……ではない。まだ40代、50代なのだ。60代だって、70代だって、年齢は関係ない。
 
次は、何をしてみよう?
私は今、人生で一番、自由に生きている気がする。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
牧 奈穂(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

茨城県出身。
大学でアメリカ文学を専攻する。卒業後、英会話スクール講師、大学受験予備校講師、塾講師をしながら、25年、英語教育に携わっている。一人息子の成長をブログに綴る中で、ライティングに興味を持ち始める。2021年12月開講のライティング・ゼミ、2022年4月開講のライティング・ゼミNEOを受講。

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2022-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.192

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