週刊READING LIFE vol.200

我が子の可愛さをどう表現すれば良いのだろうか《週刊READING LIFE Vol.200 書きたくても書けないこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/1/9/公開
記事:早藤武(LEADING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「絶対、うちの子はもっと可愛いと思うのよ。どうして写真にしたら、そんなにでもないのかしら?」
スマホをいじっていた妻が私に問いかけて来た。
 
もう少しで夜が明けようとしている時間だっただろうか。
生後1ヶ月になる娘のアカリが泣いてしまったところ、妻と私がほぼ同時にガバッと起き上がって対応に追われていた。
 
アカリは何で泣き出したのだろうか?
 
眠い目を擦りながら部屋の電気をつけて探した育児日誌から、おそらくミルクが欲しいのだろうということがわかって、妻にミルクを作ってもらっている間に私は娘のオムツを交換しておくことにした。
私は年の離れた弟の面倒を見ていたおかげもあって、初めての自分の子どもを育てることになっても、この時に両親を手伝っていたおかげで予備知識があったので、当時はとにかく遊びたい時期の子ども時代にあった私にとって大変でしかなかったけれども、その人生経験は無駄どころか大いに役に立っていると感じている。
 
娘のベッドの近くに置いてあったオムツを手に取って、泣いて暴れようとする両足を優しく支えて新しいオムツと交換してあげると少しグズっていたのが収まってくれた。
台所で作業する妻の様子を見ると粉ミルクにお湯を注いで調乳して、今は人肌になるまで哺乳瓶に冷たい水を当ててこちらの様子を気にしてくれていた。
適温になったミルクを私に渡して、妻は育児日誌にミルクをいくつあげたのかとオムツがどうだったのかの記録をしてホッとひと息ついた。
 
私が哺乳瓶を差し出すとアカリは、待ってましたとばかりに勢いよく飲み始めた。途中でむせそうになりながらも、ゴクゴクと一生懸命にミルクを飲んでいく。
ミルクを半分飲んだあたりで、お腹が空いていたのが落ち着いて来たのか目をトロンとさせて眠りそうになりながら、一生懸命にミルクを飲む口の動きは変わりないのが微笑ましく思えた。
 
「絶対、うちの子はもっと可愛いと思うのよ。どうして写真にしたら、そんなにでもないのかしら?」
スマホをいじっていた妻が、私に問いかけて来た。
どうやらミルクを飲む愛らしい自分の娘の様子を見ながら、スマホに収めた今までの写真を見返していたのだろう。
 
「うーん、そんなに違うかな?」
「絶対に実物のアカリちゃんの方が可愛いわよ」
自信たっぷりに言い切られると母親としての愛情を感じながら、私もその原因を考えてみた。
実際は立体に見える娘が、平面の写真に写っているから、いつもと違うように見えるのだろうか。
 
それは写真の光で表現されるものでは、情報が足りないということだろうか。
そうであれば、口で説明しようと思っても言葉にできないのでないだろうか。
私も仕事や自己研鑽で文章で表現をすることを得意にしているので、文章として言葉で書こうと思っても、書くことができないというのは悔しい気持ちになる。
なんとかして妻が疑問に思っている写真だけでは説明できない娘の可愛さを表現する方法はないだろうか。
 
写真といえば、妻とアカリが退院してから数日してから妻のご両親が遠路はるばる遠路はるばる北海道の旭川市から電車を乗り継いで、私たちが住む函館市まで顔を見に来てもらった時のことを思い出した。
「そういえば、お義父さんたちが来た時に2日間で1000枚は写真を撮影していったよね」
お義父さんは家に到着早々にカバンから一眼レフカメラを組み立てて、真剣な表情でアカリを撮影し始めたのが印象的だった。
記者会見のようにカシャカシャとシャッター音をさせながら、可愛いねと笑顔で娘に話しかけていた。
妻から聞いた話だとお義父さんは仕事を定年で引退してからは、写真が趣味で散歩がてらに景色を撮る以外にも家族写真を取って、絵ハガキにして妻とやり取りしていたのだそうだ。
 
子どもはすぐに成長して移り変わっていくから、これだけの枚数の写真を撮っても愛らしさを残しきれないのだそうだ。
後日、お義父さん選りすぐりの写真の束が封筒に入れられて送られて来た時には、孫を可愛がってくれている愛を感じずにはいられなかったのはまた別の話だ。
 
妻とこのことを話して、スマホの写真だけで自分の娘の可愛さを収め切るには足りないのだということが改めてわかった。
それでは、どうやって私たちの娘の可愛さを表現すれば良いのだろうか?
 
しばらく考えて、それで良いではないかと思えた。
今まで残してきた記録を見返して、現在のアカリが絶対可愛いと思えているのだから、自分の娘を愛らしく思えている思いを磨けているのだ。
あくまで写真は、私たち親子が一緒に過ごしてきた時間を思い出すためのきっかけにすぎない。
今では写真だけでなく、ビデオ撮影どころかスマホで撮影した動画を個人向けにネットにアップしてたくさん保管しておくこともできるのだ。
きっとそれでも思い出を残しておくのは足りないと感じてしまうのかもしれないけれども、きっとそれで良いのかもしれない。
妻に私が考えたことを伝えると現在が一番、自分の娘を愛おしく思えていることに気がつけて嬉しいと言ってくれた。
 
ミルクを飲み終わって、寝直したアカリをベッドに寝かせて私たちはお茶を用意して会話を続けた。
「自分の子どもは可愛いけれども、育児は聞いていた以上に大変なことが多いって痛いほどわかったわ。逆に我が子が可愛いと思えないとやってられないわよね。貴方にはパパ産休を取ってもらって本当に助かったと思うわ」
私も妻と一緒に育児をして、想像以上に大変なことが連続であっという間に時間が溶けていくような感覚を覚えていたので、妻の意見には完全に同意だった。
むしろ私は妻のやっていることを真似してついていくのがやっとで、少しでも役に立てるところがあったのは本当によかった。
 
育児を実際にゼロから始めてみてわかったことは、自分達で想像していたよりも”名もなき仕事”が多いということを痛感することになった。
まだ生まれたばかりの娘はミルクをあげたり、オムツを交換するだけでは日々の生活は成り立たないのだ。
清潔感を保つために、毎日沐浴をしてあげる時も、へその緒が完全に取れて傷が塞がるまで沐浴後に綿棒で水分を拭い取ってから、消毒液で処置をして、全身に保湿するためのローションを塗ってあげるのだ。
想像以上にやることが多くて、私も妻に横についてもらって教えてもらいながら沐浴をした時は工程数に驚き、あたふたしながら一生懸命に手を動かしたのを覚えている。
 
大変なことばかりだけれど、スヤスヤ眠る我が子の顔を見たり、寝ている間に反射で笑ってくれた時には、頑張って育児をしていて良かったと心から思える言葉で表現することができない大きな報酬だ。
今までの苦労が吹き飛ぶくらいに、頑張って良かったと思える。
これは本当に自分の手で子どもを育ててみないと理解するのは難しい話だ。
 
さらに育児開始の数ヶ月は母親も出産の時の負荷でボロボロの状態なので、核家族が多い現代では父親が休業して、家族全体をフォローする必要があることや夫婦共働きでも柔軟に対応できるように2022年10月にパパ育休の制度改正が行なわれた背景があるのは、当事者になってみて、必要性が理解できてくる。
 
生まれて間もない赤ちゃんは、約3時間ごとに起きてミルクを与え続ける必要があるので、育児をする側は確実に寝不足になる。
夫婦で交代して面倒を見れたとしても、泣き声がしたり、睡眠のリズムが変わって起きれなかったりして、上手くいかないことだらけになってしまうのだ。
 
それでも人間は慣れる生き物で、我が家でも最初の1週間はなんとか乗り切ることで精一杯だったのが、日にちを追うごとにどうすればお互いに負担が少なくできるかを夫婦で話し合って協力して、たくさんの課題を乗り越えてくることができた。
気がつけば、娘のアカリが生まれて1ヶ月が経とうとしていて、少しずつ今までの育児記録を見て、今後のことを話す余裕もできてきた。
 
「今は生まれて1ヶ月だから、親子で話をすることはできないけれど、もう少し大きくなったらアカリがどんな声で、どんな言葉を話すのか楽しみでしょうがないのよ。外に出かけた時に通りがかりで小さな子どもを連れた親子が楽しそうにしているのを見ると、あんな風になるのかなって思うの。だから今は寝不足で大変だけれど、毎日頑張れるのよ」
 
育児が始まった時には、娘が何で泣いているのか全くわからなくて夫婦ともにあたふたしていた。
その中でも少しずつ娘が泣いている原因に見当をつけることができるようになって、目に見えて対処できるようになって来たのが2人に取って自信になってきた。
そして妻が遠くない未来に言葉を話せるようになった娘とどんなやり取りをするのか確かに楽しみだ。
もちろん父親である私もどんな話を自分の娘とできるのかは本当に楽しみに思っている。
きっと最初は食べ物の好き嫌いで親子で言い争いになることもあるだろうけれども、それは親子だからこそできるやり取りなのだろう。
私たちが子どもの頃にも同じように両親に苦労を重ねさせていたことを思うと娘のアカリを育てる中で感じた事は、自分の両親が元気なうちに話をする機会を作っていきたい。
 
気がつけば、夫婦の会話が弾んで日の出が近い時間になってしまっていた。
時計を見た私の様子を見て、妻が言葉をかけてきた。
 
「さあ、アカリがまたミルクを飲む時間まで私たちもきちんと休む時間を取りましょう。まだまだ育児の道のりは続くんだからね」
 
妻の言葉を区切りに、忙しい中でも夫婦の時間を作れた私たちはお茶を飲んだマグカップを片付けて、私たちは次のミルクを与える時間が来たことを知らせる娘の声を聞くまで、それぞれベッドに横になって目を閉じた。
次に目が覚めた時には娘のアカリがどんな可愛い姿を見せてくれるのか楽しみで仕方がなかった。
きっと今までなかったような苦労もついてくるだろうけれども、それも乗り越えれば、良い思い出になるはずだ。
 
次に目が覚めるまでに、娘の可愛さを少しでも表現できるたくさんの言葉を考えておくとしよう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
早藤武(LEADING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1984年生まれ東京都出身、城西大学薬学部卒業。
北海道函館市在住の薬局薬剤師の会社員。
SDGsアウトサイドイン公認ファシリテーター。
カッコ可愛いを追究する紳士くじらを名乗り「紳士くじらのブログ」を運営。

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2023-01-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.200

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