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週刊READING LIFE vol.212

ゴッホの魂を受け継ぐライターよりご挨拶《週刊テーマ:ライターとしての自己紹介文》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/4/10/公開
記事:杉村五帆(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
美しい景色を探すな。
景色の中に美しいものを見つけるんだ。
 
画家・ゴッホの言葉です。ひまわり、夜のカフェテラス、郵便配達人など目に入ってきた身近なモチーフを全力で描いた彼の信念が感じられます。
 
皆さんは、ゴッホというと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
 
情熱家?
不遇の画家?
 
どれも正しいと思います。
 
ゴッホは、37歳で亡くなりました。自らの命を絶ったのです。画家として活動したのは、約10年です。しかし、その短期間に見る人の心を動かす油彩を900点以上生み出しました。これは、1日半で1枚を仕上げるという驚異的なスピードとなります。
 
そんなゴッホと私は不思議な縁で結ばれています。
 
私の名前は、杉村五帆(すぎむら・いつほ)といいます。
でも、ほとんどの人が名前を読み違えます、「いつほ」ではなく「ゴッホ」と。
 
現在の仕事としてはアート鑑賞の講演を主催していますが、過去、30年近く普通の会社員として企業に勤めてきました。のちほどお話ししますが、ある方との出逢いに導かれ、40代半ばでアートの仕事をするようになったのです。
 
実際にアートの業界に身を置いてみますと、ゴッホはプロたちからも畏敬の念を集める巨匠の一人であることがよくわかりました。この名前にふさわしいものを産み出せる人間でありたいという想いから、ライティングはもちろん、アウトプットの力を鍛える一環としてのスピーキングや、広い視野で執筆するためマーケティングをはじめとする学びにも取り組む日々を送っています。
 
少しおこがましいのですが、ゴッホと私は似たところがあります。これから2つの共通点、1つの違いについてゴッホの人生を交えながら、お話しさせてください。
 
第一の共通点は、あきらめることなく自分探しを行ったことです。
 
意外に思われるかもしれませんが、ゴッホは遅咲きの画家です。自分は何に向いているのか天職を激しく求め続けたにもかかわらず、なかなか見つけることができなかったのです。
 
彼は、1853年にオランダに生まれました。6人兄弟の長男で、父は聖職者でした。紆余曲折を経て最終的に画家になったのは、27歳のときでした。
 
それまでの間、画商や教師、牧師などさまざまな職を転々とします。
 
ゴッホは気性が激しく、不器用な性格だったため、折に触れてトラブルを起こしたと言われています。失恋のショックから仕事に身が入らなくなり、退職に追い込まれたこともありました。どの仕事も長続きしませんでした。
 
職を失ったゴッホは、父親からの仕送りで生活をしていました。そして、農夫や農家のスケッチを始めます。聖職者である父親は、働かないゴッホに我慢がならず、精神病院に入れようと考えるようになります。見かねて画廊で働いていた弟のテオがゴッホに金銭援助を始めたのです。
 
当時の絵は、重苦しいタッチで後年のゴッホからは想像もつきません。
 

初期の代表作『じゃがいもを食べる人々』
 
その後も、トラブルを起こして転居を繰り返します。でも決して無意味ではありませんでした。回り道をするなかで、自分のスタイルを少しずつ構築し、歩みを進めたのです。
 
ある日、パリに住んでいたテオに招かれて夜行列車で向かい、一緒に暮らすようになります。そこでゴッホは、印象派の絵と出会い、明るい色彩に目覚めたのです。画風が一変しました。
 
希望や生きることの本能的な喜びが絵にこもるようになりました。そののちに有名な『ひまわり』や『夜のカフェテラス』が生まれていきました。
 

『ひまわり』
 

『夜のカフェテラス』
 
一方、私はと言うと、自分の居場所をアートの分野に定めるのに40年かかりました。
もともと両親が、絵画とクラシック音楽鑑賞が趣味でしたので、子供のころからよく美術館やコンサートに連れていってもらいました。しかし、仕事にしようと思ったことは一度もありませんでした。
 
大学卒業後はごく平凡な会社員として生きてまいりました。
 
しかし、そういった日々を送りながらも、「自分は何のために生まれてきたのだろう」という疑問が、小さな炎となって自分のなかで静かに燃え続けていました。
 
そんなとき、私の前にある人が現れ、道を開いてくださいました。のちほど説明いたしますが、その人の名はアートディーラーMr.Kといいます。
 
第二の共通点は、キーパーソンに恵まれているという点です。
 
ゴッホは、短期間に多くの油絵を描きましたが、生前には一枚しか絵が売れませんでした。画家としての彼を経済的かつ精神的に支え続けたのは、弟のテオでした。良き理解者であり、支援者の弟をゴッホが持ったおかげで、名作が生まれました。
 
これによって100年後を生きる私たちが彼の絵を見て魂が揺さぶられるような感動を得られるのです。そういう点で、この出逢いは、神に定められたような特別な意味があるように思えてなりません。
 
私にも、この人との出逢いがなければ今の自分はないと断言できる人が存在しています。それが、アートディーラーMr.Kです。
 
彼の仕事は、絵画を売買することです。扱うのは、レンブラントやモネ、ルノワールなど美術館クラスの作品。顧客となるのは、国内外の富裕層、美術館です。
 
絵画の本場であるヨーロッパでは、アートディーリングは貴族階級の仕事です。生粋の日本人であるMr.Kが、そのような職業についている理由は、イギリス貴族出身のアートディーラーをビジネスパートナーに持っているからです。
 
有名な絵画は、非常に高額で債権の代わりとして扱われることも多いです。例えば、モネやルノワールの絵画であれば、軽々と億を超えます。
 
一例として東京・新宿のSOMPO美術館に所蔵されているゴッホの『ひまわり』は、1987年に安田火災海上(現・SOMPOホールディングス)が4000万ドル(当時のレートで58億円といわれる)で購入しました。今なら数倍の高値がつくと予想されています。
 
このように巨額の金額が動くのが絵画取引の業界であるため、ここではご本人を守る目的で本名ではなくMr.Kと呼ばせていただくことにいたします。
 
「あなたのような平凡な人が、なぜそんなすごい人と会えたの?」とよく聞かれます。
 
不思議なことですが、彼と私は導かれたような縁でつながっていました。共通の友人が早世し、お弔いの会がレストランで開かれました。私の隣に座ったのが、Mr.Kだったのです。
 
そのときに彼が語った仕事の話は、アメリカの財閥との絵画取引、ゴッホの絵を売買しようとした時の裏話、イタリアの武器商人の邸宅を訪ねた時の様子、贋作を買って大損害を受けたお金持ちのことなどでした。
 
自分が立っている地続きの陸の上で、見上げている同じ空の下でこんなエキサイティングなことが起きているなど信じられませんでした。
 
その日まで私はこのまま何事もなく一生を終えていくのだと思っていました。しかし、私に見えている世界は、真実の世界のごく一部であることに気づいたのです。
 
自分が自分に問いかける声が聞こえました。
 
「世界は想像以上に広く、私はわずかな一角しか知らない。このままの自分で生き続けるのか?」
 
私は長く生きるうちにガラスの壁で目の前をふさぎ、「限界はここまでだから」と可能性にフタをしていました。世界のほんとうの広さに気づきさえすれば、世の中はいろいろな可能性に満ちています。そして、私と同じような人は存在するのではないかと考えました。
 
Mr.Kの話によって、誰かの心を奮い立たせるようなきっかけ作りができるかもしれない。
それでできるだけ多くの人に彼の話を聞いてもらいたいと思うようになりました。
 
Mr.Kを講師に招き絵画取引の裏話をしていただく会をたちあげたのが、アートの仕事をしたいちばん最初でした。
 
アートビジネスについて未経験であった私でしたが、そのあと、高名な画家や絵画コレクターを講師に招いた講演を開くとともに、画廊、美術館とも仕事をさせていただいています。
 
私が現在、全精力を注いでいるのが「ライティング」です。その理由は、Mr.Kの過去の講演をもとに絵画取引のドキュメンタリーを書きたいと思ったからです。
 
アートという分野は、「難しい」という印象を持たれています。興味があってもなぜか中に入りにくいという声をよく聞きます。Mr.Kのストーリーによって、一般の人たちがアートの扉を開くきっかけづくりをすることが自分の使命だと考えているのです。
 
そのような理由で、2022年8月より天狼院書店様のライティング・ゼミで学びはじめました。今年より上級コースのライターズ倶楽部に所属しています。こちらでは、アートをテーマに毎回記事を制作しました(末尾にいくつか記事へのリンクをご用意しました)。
 
アートについて書けば書くほど自分のなかから言葉が湧いてくることに不思議さをおぼえました。
 
年齢的なスタートとしては遅いほうに入るのかもしれませんが、遅咲きのゴッホから勇気をもらい、これを機会に本格的にライターとしての活動を始めたいと考えています。
 
さて、最後にゴッホと私の異なる点についてお話しさせてください。
 
人のタイプについてよく「右脳派」「左脳派」という言葉を聞くことがあります。
 
右脳は、想像力やひらめきを司る役割を果たしており、物語を読んで映画のように情景が浮かぶ人は右脳派とのこと。一方、左脳は言語や計算力、論理的思考を司ります。
 
基本的には人は双方の力を持ち合わせており、そのうえで右脳が強い、左脳が強いという判断になるそうです。
 
勝手な推測ですが、ゴッホは右脳が極端に強いタイプだと思います。私も基本は右脳派ですが、限りなく左脳に近いところにポジショニングしている右脳タイプです。
 
世の中に存在するアートについて書かれた文章を観察しますと、考証を重ねながら書かれた専門性が高い左脳的なもの、感情があふれるままに任せた右脳的なものという極端な二極が存在していると感じています。
 
アートの執筆について私のスタンスは、二極の真ん中に存在しています。つまり、限りなく左脳に近い右脳派として、誰もが思い描ける日常的なシーンとアートをリンクさせながら、わかりやすく書いていくことを大切にしています。
 
さらに今後は初心者が「アートを所有する」ためのガイドになるような執筆を行ってみたいと思っています。
 
アートの楽しみ方は、「鑑賞すること」と「所有すること」に分かれます。これまで日本では、鑑賞する楽しみ方がメインでした。しかし、2021年より文化庁の指導のもと「アート市場活性化」を合言葉に国際的なアーティストの育成やアート作品を所有するためのインフラを整える方向へと舵がきられています。
 
ゴッホの作品が認められたのは、死後十年たってからのことでした。今、その絵に感動してもゴッホ本人に「これを描いたとき、どんなことを考えていたのですか?」と質問することはできません。
 
しかし、同じ時代を生きる画家となら、作品が生まれたストーリーについて話を聞いたり、どこから創造性を得ているのかなどコミュニケーションをとることができます。
 
そういったやりとりのなかから、一目ぼれしてしまうようなアートや、どうしても身近に置いておきたいような作品に出逢う方もおられることでしょう。そのようなかたちでアートに接することは、鑑賞を超えた新しいエンターテイメントの可能性を秘めています。
 
すでに築いたアート界の人脈を生かし、鑑賞と所有という両面からのアプローチを行っていけることが私のライティングの特徴です。
 
今後、AIが隆盛していくにあたって、「人にとっての創造性とは何か」という定義によってさらにアートにスポットがあたり必要性が高まっていくことは間違いありません。
 
アートについて文章を書き続けることが、自分なりの社会貢献です。ささやかではありますが、それが日本のアート市場の成長につながり、経済の活性化をもたらすだろうと考えています。
 
今日もゴッホの声が聞こえます。
 
美しい景色を探すな。
景色の中に美しいものを見つけるんだ。
 
そう、アートは特別なものではありません。
誰しものそばにあるのです。いつもその気づきを届けたいと願っています。
 
 
 
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
以下は、天狼院書店様のREADING LIFEに掲載された杉村五帆による記事です。
 
アートが教えてくれる理想の結婚と夫婦のかたち
一昨年亡くなった父とそれをきっかけに寝込んでしまった母、彼らが私の両親でなければ今の私は存在しませんでした。二人へのリスペクトを込めるとともに、さまざまなジャンルのアートを楽しんでいただけるように構成しました。
 
心があたたかく溶けていく、モネの絵の前
人としての基礎を作ってくれた会社員時代とアートの関わりについて書きました。モネが私の人生にもたらした救いは大きく、当時の関係者が今の私を見たら別人と見間違うことでしょう。美術館を気軽に楽しまれ、アートによって人生への好影響を受ける方が増えることを願って書きました。
 
未来が楽しみで仕方ない、人生を生き切るということ
アートを通じて学べたことは多々ありますが、最も大きかったのは、天国に昇る瞬間まで希望を持ち続け自分らしくいかに生きるかということです。最期まで自分らしさを貫いた実在の画家たちについて知っていただくことで読む人が将来に希望を持っていただけるように願いを込めました。
 
誰よりも臆病で見栄っ張りの自分へ、現代アートからのメッセージ
書道アーティストを目指して書道を学んでいます。これにより、アーティストとしての視点を自分なりに鍛えることができ、創造する側からものを見ることができていると感じています。ここでは、大きなムーブメントとなりつつある障がい者アートなどについて書きました。
 
我が愛しのコム・デ・ギャルソン~バブルから令和まで~
ファストファッションと言われて久しいですが、ファッションは自分の感性を刺激してくれるだけでなく、「自分は何者なのか」を見つめ直すために大切な要素だと考えています。会社で陰鬱としたネズミ色の日々を過ごしていたとしても、それが未来に必ず何かを生み出してくれるはずだという働く世代へのメッセージを込めました。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
杉村五帆(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
VOICE OF ART代表。30年近く一般企業の社員として勤務。アートディーラー加藤昌孝氏との出会いをきっかけに40代でアートビジネスの道へ進む。加藤氏の富裕層を顧客としたレンブラントやモネの絵画取引、真贋問題についての講演会をシリーズで主催し、Kindleを出版。美術館、画廊、画家、絵画コレクターなどアート作品の価値とシビアに向き合うプロたちによる講演の主催、自身も幼少期より芸術に親しむなかで身に着けた知識を生かし、講師を務める。アートがもたらす知的好奇心と創造性の喚起、人生とビジネスへ与える好影響について日々探究している。

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2023-04-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.212

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