『一億人に伝えたい働き方』鶴岡弘之著《READING LIFE》
JBpressは月間1000万pvを誇るメディアでございます。
月間1000万pvとは、平たく言えば、「一ヶ月で延べ1000万ページ読まれた」ということです。
そのJBpressの副編集長が、鶴岡弘之さん。
じつは、つい最近、さわや書店の栗澤さんのご紹介で、池袋で鶴岡さんと飲んでお話する機会がございました。
JBpressの鶴岡さんについては、「サトーカメラ」の記事が載った際に、アスコム編集長の黒川さんから聞いていて以前から知っていました。が、まさか、ももクロ好きの方とは知りませんでした笑。ちなみに、飲み会においても、ももクロの良さを力説されておられましたが、正直に告白してしまえば、未だに僕にはその良さがちっともわかりません笑。
その鶴岡さんが書かれたのが、この本、『一億人に伝えたい働き方』(PHP新書)。
タイトルに「働き方」とありますが、読んでみると、今トレンドとなっている「働き方」テーマとはちょっと乖離した内容。
どういう内容かといえば、鶴岡さんご自身が「この本の読み方―まえがきにかえて」の中で書いている、ある部分が全体を集約しているなと思ったので、引用させていただきます。
大企業が大型タンカーや豪華客船だとすれば、中小企業は波間を漂う小型船です。日々生きるか死ぬかの勝負をしているわけです。だからこそ、顧客と真正面から向き合い、これでもかというほど脳みそを絞り上げて作戦を練るのです。そうやって編み出された経営手法には、規模に左右されない経営の真実があります。
そう、この本は「中小企業の経営論」なのでございます。もちろん、働き方としての本としても読めますが、「経営論」として読んだほうが、しっくりと来ます。
鶴岡さんが書いたJBプレスの記事でも、前述の黒川さんが編集した『日本でいちばん楽しそうな社員たち』(アスコム)でも、「サトーカメラ」については読んで知っていましたが、この本で改めて読んで、やはり、すごい「商い人」が世の中にはいるものだな、と感動させられます。また、負けてられないなとも思います。
「サトーカメラ」は大型家電量販店が立ち並ぶ地域において、まさに大型船の間を巧みにすり抜ける小型の海賊船のように、縦横無尽に面白い商売を展開します。フィルムからデジタルに移行しようとしていた過渡期、カメラ業界は、ちょうど紙か電子かで揺れる今の書店・出版業界のような状況でした。「サトーカメラ」が取った針路は常識とは真逆、効率性を捨てて、お客様に寄り添うことでした。手間と時間を惜しむことなく、徹底的にお客様にサービスをする。
それが、業績に結びつくのだから、やはり、世の中面白いものです。
サトーカメラのような、様々な「海賊船の船長」の話が、この本にはぎっしり詰め込まれています。
特に、書店人の方には読んでいただきたい。必ず、気づきがあるはずです。逆をいうと、これを読んで何も感じないようではまずい。実に、まずい。
スーパーのような規模で店を作る、角上魚類の話も面白い。今では観光バスまでくる、名所となった「魚の市場通り」は、そもそもこの角上魚類が店を出したことから始まったといいます。鶴岡さんはそれをこう表現します。
まるで砂漠にラスベガスをつくってしまったような話なのだ。
今では「にんにく卵黄」で知られているコッコファームの話も実に興味深い。
養鶏を始めてから一年ぐらい経ったある日、卵を納めている地元の農協から連絡があった。急いで現金を持ってきてほしいという。行ってみると職員は次のように説明してくれた。「あなたの卵の売り上げよりも餌代が上回っています。現金を入れてくれないと、農協から借金をすることになりますよ」
このことをきっかけに社長の松岡さんは農協依存の体質から脱却したのだが、これはすべての農業を営む人たちが読むべき話だと思います。もちろん、農協だけでなく、他の業界にもこれは当てはまることです。
この本に出てくる「船長」たちに共通しているのは、バイタリティーがあって、アイデアがあること。そしてもうひとつ、猛烈に営業活動をしていることです。
いい技術があったとしても、知られないと意味がない。それには、自ら売り込む以外にない。
商売における大原則を、改めて思い出させてもらったような気がします。
そして、この中で僕が一番感動したのは、菓匠Shimizuという長野のケーキ屋さんの話です。
家族の夢を募集し、それをケーキに描いてお客さんにただで配るという、奇跡のようなことを実践している店です。
はじめは9個だったが、それが50個、500個、850個と増え、最終的には1000人以上が全国からやってきて、行列を作ったといいます。
1000個以上のデコレーションケーキを無料にするのだから、材料費や人件費など、夥しいほどの経費がかかる。
大赤字を計上してもおかしくないのに、不思議と業績が上がったといいます。この5年間で売上が3倍以上に増えていると。
どうやら、商売の秘密というのは、このあたりにありそうです。
この他にも、様々な「船長」さんが登場します。彼らの奮闘ぶりをみるに、本当に勇気がもらえます。
そういった意味においても、この本を買わない理由が見当たりません。
*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。