6年有終 あおい書店町田店/峯坂英之店長に聞く《書店をゆく》
思えば、僕が峯坂さんを知ったのは、意外なお引き合わせによってでした。
去年の春、僕は再独立したばかりで、天狼院書店開設のための資金を貯めるべく、まさにフルスロットルで仕事をしておりました。再独立とは言うものの、ほとんど徒手空拳といってよく、仕事のあてすらない状況で、ふたたび「銃声なき戦場」へと舞い戻ったのでございます。
たしかに、徒手空拳でした。けれども、はじめて独立したときとは大きく違っていました。
やるべきことが、より明確に定まっていたのです。また、あるできごとをきっかけとして、多くの皆様と交友を持たせてもらえるようになっておりました。
著者の皆様、編集者の皆様、営業の皆様、そして、書店人の皆様。
それは、すべて、一冊の本が紡いだ関係であり、あの方とは、あの本を通じて知り合ったのだと、それぞれ思い出すことができます。
峯坂さんと知り合ったのは、僕がCORE1000で日経BPさんの『小さく賭けろ!』を仕掛けているときでした。
紹介してくれたのは、フォレスト出版の営業、末永さんでした。
「CORE1000プロジェクトにぴったりの方がいます」と峯坂さんを紹介してくれたのです。
言うまでもなく、フォレスト出版さんにとっては、何のメリットもありません。メリットよりも、むしろライバルの版元に売り場を明け渡すリスクもあるので、本当ならばそんな紹介はありえないことです。
けれども、末永さんは、どうしても僕と峯坂さんを引きあわせたいという一心で紹介してくれたのです。この業界も、捨てたものではないのでございます。
はじめて会った峯坂さんは、穏やかで、謙虚で、けれども「いろいろ教えて下さい」と溢れる向上心をもっておられました。それは、何度会っても変わりませんでした。つねに、挑戦と学びの姿勢を崩さない方です。
それが、確実に売上にも現れておりました。僕がもっていった本の悉くを、しっかりと、こちらが想定していた以上に売ってくれたのです。様々、僕が拡材を開発して持って行くと、峯坂さんは、すでに素晴らしい売り場を構築して待っててくれている。そして、確実に実力でランキングに入れてくれる。
そんな信頼関係ができておりました。
今から10日ほど前だったでしょうか。
その峯坂さんからメールがありました。
あおい書店町田店さんが「2月17日をもって営業を終了する」旨が記されていました。
とりあえず、直接、峯坂さんに会って聞いてこようと、今日、峯坂さんの元を訪れたのでございました。
今年明けてから知らされて、本当に急だったこと。
オープンから6年間いて思い入れがあること。
売上が問題ではなく、建物との契約上の問題であったこと。
様々聞いた中でもっとも聞きたかった言葉がありました。
「これからも僕は書店で働きたいと思います。それは変わりません」
この言葉を聞きたくて、直接聞きたくて、町田まで電車を乗り継いでやってきたのです。
僕はほっとしました。
峯坂さんは、本当にいい本を一緒にしかけてきた同志です。戦友です。
「これからも、一緒にいい本を仕掛けましょう!」
そう約束して、帰って参りました。
この業界に、ひとつ、希望が残ったと安心しました。