北の仕掛人 さわや書店フェザン店《書店をゆく》
きたのくに、イーハトーブにその本屋さんはございます。
全国でもっとも有名な書店のひとつ、盛岡のさわや書店さんのことは、あるいは多くの方がご存じかもしれません。
元々、盛岡の老舗としてあったさわやさんですが、全国的に有名になったのは、「天才」伊藤清彦さんのときだったのではないでしょうか。今は伊藤さんは引退されて、松本さんや田口さんという、書店界の若手のホープと言われる方々の名が、この業界でも響き渡っております。
今日の主人公は、そのいずれの方々でもございません。
僕が彼と出会ったのは、紀伊國屋新宿本店さんで糸井重里さんと西條剛央さんのイベントがあったときでした。『人を助けるすんごい仕組み』という本をダイヤモンド社さんから西條さんが出されて、その出版記念イベントがその日あったのでした。
そのときに、となりの席になったのが、今回の主人公、栗澤順一さんでした。
編集の寺田庸二さんに、
「あのさわや書店さんで、ビジネス担当としてご活躍の方です」
と紹介されるやいなや、すぐに打ち解けました。
実は、その時、僕はすでに天狼院書店のプロジェクトを構想していて、「ビジネスとしての書店」というコンセプトを頭の中に思い描いておりました。
「書店はビジネスとしてやらなければならない」
そう僕が言ったことに、栗澤さんが共鳴してくれました。
と、いうのも、盛岡において、まさにビジネスとしての書店業を実現しようとしていたのが、栗澤さんだったからです。
それ以後、さわや書店フェザン店さんを二度ほど訪れて、栗澤さんにも店長の田口さんにもご挨拶をすることができました。
さわや書店さんの中でも、伊藤さん、田口さん、松本さんは、おそらく、売場最前線で最も活躍できる、いわばフォワードタイプの方なのではないかと、話を伺いながら想像しました。
一方で、栗澤さんという人は、ボランチタイプの方なのかも知れません。
「伊藤という人はある種の天才だったんでしょうね」
と、静かながらも、芯の通ったぶれない口調で、栗澤さんは言います。
「あのやり方は彼にしかできないやり方で、僕らには僕らのやり方があると思っているんです」
さわやさんは、地元の大学や官庁とも組み、また全国から著者の先生方を呼んで、年中イベントを開催しております。
僕が行った近辺だけでも、『独裁者の最強スピーチ術』など、数多くの著作をもつストーリーブランディングの川上徹也さん、『人を助けるすんごい仕組み』の西條さん、『絶対達成する部下の育て方』『脱会議』の横山信弘さんなど、そうそうたる面々が、さわや書店さんの呼びかけに応じてイベントを開催しておりました。
これは普通ではあり得ないことです。もしかして、大都市の仙台よりも札幌よりも、盛岡でのイベントが多いかもしれません。
その仕掛け人となっているのが、栗澤さんなのです。まさに、「北の仕掛け人」。
栗澤さんは言います。
「もっともっと盛岡のお客様のためにできることがあるんじゃないかと考えています。もっともっと地域の皆さんとの関係を強くしていくことが重要なんじゃないかと思っています。様々なイベントを催して、お客様との関係を強固にすることによって、1冊でも多くの本を買って貰えるようになればいいと思っています」
僕は、伊藤さんのことは、著書などでしか知りませんし、その時代のさわや書店さんに伺ったこともありません。
けれども、僕は田口さんや松本さん、そして、栗澤さんという若い力が着実に育っているこれからのさわや書店さんの方が、面白いのではないかと思いました。
そして、この地域に密着してビジネスとしての書店を運営するというさわやさんの姿勢は、どの書店も見習うべきなのではないかと思いました。
ちなみに、栗澤さんは当初からCORE1000に協力してくれております。
少しずつかも知れませんが、書店の明るい未来のために、我々若い書店人ができることを、それぞれやっていけばいいのではないかと思っております。
これから、そういった、志ある書店人が、社を超えて、ともに協力し合いながら未来を模索して行くのが理想だと僕は考えております。
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