チーム天狼院

内定が1つも無いわたしが就活を辞めて池袋のある書店に週5で通っている理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田岡尚子(チーム天狼院)
 
 
「就活、辞めました!」
大学 4 年生のこの時期、初めましての人や、普段知っている人に大体聞かれる、「就活どう?」に、わたしはこう答えている。「就活が終わった」わけではない。就活を「辞めた」のだ。内定が 1 つ出たからやめたわけでもなく、内定が 1 つも出てないけど、就活を辞めた。大学の授業は週に 1 回しかない。残りの 6 日間何してるの? と思われるかもしれない。サークル活動、バイト、さまざまだと思うが、わたしは池袋のある書店に、週 5 で足を運んでいる。その書店に初めて出会ったのは、1年半ぐらい前の大学 2 年生のころ、テレビの画面越しだった。
 
「人生を変える書店」
 
読書が趣味だとはとても言えないほど本は読まないのに、なぜかその画面の向こうにある書店に、そのワードに心を惹きつけられ、テレビに夢中になっていた。今まで、高校や大学、部活動や習い事を選ぶとき、「なんか楽しそう」というフィーリングで生きてきた。その、「なんか楽しそう」が、ここでまた発動したのだ。「ああ、なんか、ここで働きたいな」とそのときはなんとなく思っていた。でも、ただの憧れだったし、「こんなところで働けたらいいな」ぐらいの感覚だった。
とはいえ、お店として気になっていたので、ちょくちょくホームページをチェックしていた。
それからいつのまにか大学 4 年生が近づいてきて、就活を本格的に始め、説明会に、インターンにと駆け回り、家ではエントリーシートとにらめっこをする毎日。その日も、日付が変わるころだし、そろそろ寝ようかなと布団に入り、日課である Twitter をチェックしていた。すると、その書店のスタッフさんの、「記事を更新しました」というツイートを見つけたので、これを読んでから寝よう、とクリックをした。「あぁ、今回の記事もおもしろかったな」と下にスクロールしているときだった。「クリエイティブインターン」の文字が目に入る。このころ“インターン”という言葉に敏感になっている時期だったので、「え、ここ、インターンやってるの? 聞いてない!」と焦ってその記事を読んだ。しかも、クリエイティブって。大学でデザインを学んでいるので、“クリエイティブ”という単語にも弱い。「なにこれ、楽しそう!!」もう、寝ている場合じゃない。急いで布団から出て、パソコンを開く。もう日付は 0 時を越えている。あれ、なんだろう。この、ドキドキする感じは。就活でエントリーシートをいくつも書いてきたけど、全部締め切り間際にめんどくさいなと思いつつなんとか言葉を振り絞って書いていた。でも、こんなに夢中になって書いたのは初めてで、気づけば深夜 2 時をまわっていた。
 
それから 1 カ月後、クリエイティブインターン生として、週 5 でこの書店で通うようになった。必ず毎日ログインすることをかかさなかったソーシャルゲームにも、ここ1ヶ月ログインすらしていないぐらい、この書店に夢中だ。就活で説明会に行っているときも、頭の隅にはこの書店がいた。早く説明会終わらないかな、お店に行きたいなって、恋人のことで頭がいっぱいになっているみたいだった。面接でも、最近の話を聞かれたら、書店での出来事を話して、お店を勧めてから帰った。でも、これだけは聞かれたら嫌だなという質問があった。
「それなら、弊社ではなくその書店で働いたらいいんじゃないですか?」
はい、そう思います。なんて言ったら終わりだ。だけど、あれ? じゃあなんで私は就活をしているんだろう。就活なんて辞めて、ここに決めちゃえばいいじゃん。でも、なかなか決められなかった。ここが、人生の岐路だと思った。どっちを選ぶかで、人生が変わると思った。人生が変わるなら、この書店で自分の人生を変えたい。でも、せめて、ひとつぐらい内定をもらっておきたいし、自分をどこかの会社に認めてもらいたい。そんな欲望もあった。別に行く気はなくても、ただ内定というものが欲しかった。だって、就活をやめるきっかけになるから。「内定出たから、就活やめた」ってとりあえず区切ることができる。でも、そんな考えの中じゃ、全く内定は出なかった。こんなんじゃ、説明会に行く交通費も時間も無駄だ。早くこの中途半端な状態から抜け出したい。
もうこうなったら、きっかけをつくってもらうしかない。と思い、家族に、友達に、知り合いに、初対面の人にさえ相談をした。就活を続けるか、このちょっと変わった書店に突っ込んでみるか。でも、みんな「とりあえず就活続けてみたら?」とか、「もっと安定したところがいいんじゃない?」「今は視野を広げてみた方がいいよ」って言う。うん、そりゃそうだ。そりゃそうなんだけど! わたしが求めている答えとは違った。でも、どんな答えを求めているのか、自分でもわからなかった。
だけど意外にも、その答えを教えてくれたのは、お客さんだった。この書店に足を運びに来てくれる、お客さんだった。
「うらやましい! この書店で働いてるのが。わたしが若いころにあったら、絶対働きたいと思う」
わかる、だよね〜! とお客さん同士で盛り上がっている。
大学4年生で、就活中です、というと、「じゃあここで働けばいいじゃん?」というお客さん。
あぁ、これだ。ずっと待ってた言葉は、これなんだ。ただ、わたしの心をもう一押しして欲しかった。共感して欲しかった。こんなに楽しそうなことをやっているってこと、誰かに分かってほしかった。それだけなんだ。
その一言で、本当に単純だと思うけど、わたしは就活を辞めた。内定はひとつも出ていないけど、もう黒のリクルートスーツで身をまとうのはやめた。
 
別に、就活なんて、しなくたっていいじゃん。
説明会に行って、エントリーシートを書いて、面接を3回ぐらいして、ようやくもらう内定、というのが一般的な流れだけど。でも、そう思うようになってからは、気持ちが楽になった。将来の保障はどこにもないけど、そんなの内定が出ていたってその先どんなどんでん返しが待っているかわからない。一般的なレールに沿って歩いていても、事故に合わないとは限らないし。それなら、「なんか楽しそう」という自分の奥底から出てくる言葉に、素直にしたがってみよう。そう思って、就活を辞め、週 5 でこの書店に通うことに決めた。
そんなわたしが今、就活が上手く行かなくて悩んでいる人に言えることなんて、これっぽっちもないけど。でも、この記事を見て、「就活辞めたんだ。内定ひとつも無いのに」と思うことで、少しでも気が楽になってもらえたら、それだけでも嬉しい。欲を言えば、わたしはここで、あなたの人生を変えてしまう書店員に、なりたいと思う。
 
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