チーム天狼院

ネガティブ人間が、唯一ポシティブで居られる瞬間


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記事:秋田珠希(チーム天狼院)

事件はその時、すでに起きていた。
土曜日の夜の事だった。私が風呂から上がった時、二階の台所から何か叫び声が聞こえた。慌てて駆け上がると、母親が台拭き片手に台所に座り込んでいた。
「どうしたの?」
私が聞くと、母親は沈み込んだ顔で言った。
「油こぼした……」
引き出しから油がこぼれてきて、拭いても拭いてもこぼれてきたらしい。なんだろうと思って引き出しを開けてみると、ごま油がこぼれていて引き出し中油まみれだったそうだ。
どうやら、引き出しに入っていたごま油の瓶が、蓋が開いたまま傾けられていたらしい。それに気がつかず今まで放置していたと。
油は料理に不可欠な存在であると同時に、扱いが厄介なものでもある。拭き取ってもなかなか取れないし、取れたと思っても後日べたついてくる。
そんな油が、床と引き出しの中に広がっているのを想像して欲しい。しかも、あと少しで夕飯の支度が終わり、のんびりできるというときに。
そして、悪い事というのは重なるものである。
母が油事件で沈み込んだのも、油がこぼれた事だけが原因ではない。よく聞かなかったが、人間関係で少し思うところがあったらしい。もやもやしていて疲れているところに、油だ。

普段、はあとため息をついてへたり込むのは、私の役目だ。
家族には、私=ネガティブという不名誉な称号すら与えられている。
特に人の言葉で落ち込みやすい。すぐに傷ついて沈んでいる。
例えば、「ここが良かったけどここは改善したほうがいいね」と言われると、改善したほうがいいところばかり目がついてしまう。アルバイトで怒られると、しばらく自己嫌悪に陥っているし、もっとひどい時はアルバイト前に吐き気や胃痛がしてくるようになる。
下手をすると、目線でダメージを食らう。呆れたような目をされると、「何かしたかな」と自分に問いかける自己反省タイムが始まる。
あとは一瞬の間。誰かの発言に対して反応するまで少し間が空くと、「何かまずいこと言った? 場違いだった?」と考え始める。
最早自分からダメージを食らいに行ってるんじゃないかというほど、容易に体力が削られていく。
今はだいぶマシになったが、最盛期はこんな感じだった。
相手はそんなことまで考えていないのだろうし、別件で少し不機嫌なだけということももちろんあると思う。傷つく私が気にしすぎなのだ。
一般的には、プラス思考が良いとされている。当たり前だ。こんなことを考えていたら、動けなくなる。常に謝っていなくてはいけなくなる。
何より、ネガティブなことを考えていると、実際に悪い事を呼び寄せたりする。怒られそうだと心配していると、動きが鈍って実際に怒られる事があるのだ。
だからと言って、プラス思考にしよう!と思ってもすぐにそうなれるわけではない。染み付いた思考回路はなかなか崩れてくれない。
ああ、また落ち込んでしまったと、落ち込んだことに落ち込んでいた。
マイナス思考との付き合い方は、本当に難しい。

だから、油がこぼれていたのに気がついた時の母の心境は、とてもよく分かる。
しゅん、と沈み込んだ母を見て、私は動いた。
油にまみれた調味料を拭き、母に声をかけた。
「これに気がついたのが、仕事の日じゃなくて良かったよ」
先述したように、その日は土曜日だった。もしかしたら、仕事から帰って疲れ果てているところに油がこぼれているところを発見していたかもしれないのだ。
そうなった時の絶望感は、想像したくもない。
調味料を拭きながら、私はあれ、と思った。

私プラス思考、できてないか?

もちろん私は第一発見者ではないし、母ほど台所も使わないからダメージが少なかったということもある。正直他人事だったからということなのかもしれない。
でもそうだとしても、客観的ながら、ちゃんとポシティブに持っていけた。

いくら私がネガティブだからと言って、へたり込んでいていいというわけではない。ダメージを食らっても動き続けていなければならない。アルバイトで怒られても、沈み込んでいる場合ではないのである。
だから最近の私は、その人の感情ではなく言われた事実だけに絞って受け取るようにしていた。
「動きが遅い!」とがなり立てられても、私の動きが遅いのが問題であって、その人が怒っているか否かはどうでもいい。とりあえず、他は注意されていないから、今の状態でもっと動くスピードを上げるためにどうすればいいか考えよう、といった風に。
落ち込むし、沈むけど、動けなくなることはない。

落ち込んだ時に客観性を意識していると、自然とクセがついてきたらしい。
その結果、落ち込んでいる人を見るとうまいこと事実をポシティブ変換できるようになってきた。
そういうこともあるよね、こうじゃなくてまだ良かったよ。人の不幸を笑わずに、そう言ってあげられるようになった。

ああ、私、ネガティブでも良かったんだ。
それは、ネガティブな私が、唯一ポシティブで居られた瞬間だった。

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